第55話 報酬、式典、北海道
「おお...マジか」
目の前に穴を出現させた公介。
種を飲み込んだ瞬間、出現のさせ方が何となく分かったのだ。
中へ入ってみると、インドダンジョンへ入った時と似たような光景が広がっている。
と言っても洞窟タイプの地形は皆大体同じだが。
だがモンスターどころか魔力そのものが感じられず、本当にダンジョンなのかと疑ってしまう。
一番奥まで来たが、次の階層への階段が無いことに気付く。
「え、終わり?」
拍子抜けした公介だが、よく見ると行き止まりの壁に窪みがある。
「ここでこれを使えってことか」
種と一緒にドロップしたコア。
窪みの形がコアと似ており、試しに差し込んでみるとピタリとはまった。
その瞬間、コアを起点とし、全方位の壁に金色の線が流れる。
するとダンジョン内に魔力が流れ、モンスターの気配も感じられるようになった。
一番その気配が近いところに行ってみると、インドダンジョンの1階層で遭遇した子象型モンスターを発見。
近付いても襲ってくる気配は無く、さらに近寄り観察してみると片目が金色に光っており、コアをはめた時の壁のように、体に金色の線が流れている。
「お前そんな装飾あったか?」
と聞いてみるが、答えが帰ってくる筈は無く、その件は一旦保留し、ダンジョンから出た。
子象を倒してドロップ品が出るのか確かめてもよかったが、透明や黒紫の水晶がドロップしたところで特に嬉しくも無い為、様子をみることにしたのだ。
「コアはめたら成長するとかあんのかな」
コアを使うと自由に活動させられると言っても、ダンジョン内に魔力が満たされ、モンスターが出現する状態を活動と解釈するのだとしたら、既に活動していることになる。
あんなに強いモンスターからドロップし、使える者を選んでおきながら、1階層だけしか生成されないのは割に合わないと思った。
だが、仮に成長するとしてもインドダンジョンと成長速度が同じなら長過ぎる。
ダンジョンの穴出現からもうすぐ8年が経過しようとしている時期で、ようやく爆発に至ったのだ。
このダンジョンが8年前に現れたものかは分からないが、仮にもう少し最近だったとしても、成長を待つには相当待たなければならないだろう。
「......まさか爆発しないよな」
もしいつか100階層まで成長し、爆発なんてしてしまったら笑えないが、穴を自由に消失させることが出来るのだから大丈夫なのだろう。
結局その日は自分の部屋へ戻り、数日ぶりの変わらない日々を過ごした。
1週間後。
あれから1日に1、2回程ダンジョンへ入り確認していたが、やはり1階層分すら成長していなかった。
今日も確認してみるかと思ったが、福地からの連絡があった。
内容は伝えたいことが3件あるから来てほしいとのこと。
直ぐ様支度をし、協会へ向かった公介。
「やあ。1週間振りだね、公介君」
「はい。随分とご機嫌みたいですね」
分かるかい、と返す福地。
おそらく鑑定でインゾウの牙を漢方薬にした時の効果が分かったのだろう。
鑑定結果を嬉しそうに報告してきた。
「インゾウの牙で出来る漢方薬単体でも素晴らしいが、ディジカの栄養剤と併用すれば栄養剤である程度の病気が治り、健康になった体で漢方薬を使うことで病気にかからないというベストマッチな組み合わせになるんだ」
「なるほど。それは確かにいいですね」
196本の牙と他の黒紫水晶、危険な目に遭わせた手当てを合計し、1億2000万円を振り込んでくれるらしい。
もし仮に牙の買取価格がディジカの角と同じ100万円だったとすると、1億9600万円だが、それ程貴重なアイテムを196回も安全に取引する能力は公介には無い為、妥当なのだろう。
(フッフッフッ。不治の病にかかり、1日でも健康で長生きしたい富豪にとっては正に夢の漢方薬。今かかっている病気は治せないが、定期的に購入させられると捉えれば寧ろ好都合。これは儲かる)
(協会がぼろ儲けしたとしても、ダンジョンの種とコアを自分の物にしたんだからお互い様か)
双方とも結果に満足し、公介は2件目の話題を聞く。
「2週間後、アメリカで式典を開くんだ。インドダンジョンの作戦に参加した人全員が招待されるんだが、行くかどうかは自由らしい」
「式典ですか......いや俺は遠慮しときます」
日本でやるならまだしも、偉い人のつまらない話を聞くのにわざわざ国境を越える必要は無いと判断した。
「そうか、分かった。では最後の話題だが...君も中々凄い人に目を付けられたね」
「え?」
一体誰に目を付けられたのか、福地が続きを話す。
「インドダンジョンの作戦に参加した中の1人。一国守から君と会う時間を作ってほしいとの連絡があったんだ」
「一国さんが!?」
まさかの人物に驚く公介。
だが福地の次の発言でさらに驚くことになる。
「会いたい場所が基地の訓練場だったり、動きやすい服装で来てくれと書いてあったり。君は彼と決闘の約束でもしてきたのかい?」
「まさか。そんな約束してませんよ」
冗談交じりに言う福地だが、公介自身、彼の気に触るようなことをした覚えは無い。
「まあ公介君が向こうでどれ程戦いに貢献したのかは知らないが、君の頑張りに一目置いているのかも。後輩の育成に力を入れている人だから」
頑張りと言われても、公介がやった事は皆に見られていない所で融合体1体を倒しただけだ。
(一目置く理由なんて、融合体倒したのバレてる可能性ぐらいしか思い付かないぞ)
「あ、自衛隊に勧誘されても乗ってはいけないからね。君は協会に所属してる大事な大事な存在なんだから」
「そこまで言ってもらえるのはありがたいですけど」
何故行く前提で話が進んでいるのか謎だが、同じ日本で知っている人に呼ばれているなら、行ってみてもいいかもしれないと思い、了承した公介。
「そうか。では予定は3日後。詳細は後で連絡しよう」
...そして3日後、
(何で俺はまた飛行機に乗ってるんだ?)
北海道に大きな駐屯地があるらしく、そこへ来てくれとのことだった。
(一国さんって確か東京で働いてる人だよな。飛行機代出してくれるからいいけど、どうして北海道なんだ)
既に一国は現地で待機しているようで、理由は着けば教えてくれるのだろう。
1時間半程のフライトの末、新千歳空港に到着すると、一国が迎えに来てくれていた。
「やあ公介君、インドで会って以来だね」
「あ、はい。こちらこそ」
前と違い、下の名前で呼ばれたことに少し引いた公介。
「おっとすまない。丁度息子も君と近い年なんでね。任務中じゃないとどうしても馴れ馴れしくなってしまうんだ」
「あーそういえば一国さんの特集番組でそんな話を聞いたような。別に俺は構いませんよ」
下の名前呼びに決まったところで、車で駐屯地へと向かう。
如何にも自衛隊が乗りそうな迷彩柄の小型トラックだ。
車内で何を話そうか迷っていると一国の方から話題を出す。
「いきなり北海道まで呼び出してすまない。空いてる訓練場がここしか無くてね」
「どうして訓練場が必要なんですか? もしそうだったら申し訳無いんですけど、俺自衛隊に入ろうとは思ってませんよ」
自衛隊への勧誘ではないと話す一国。
さらに説明を続ける。
「訓練場といってもただの訓練場じゃない。スキルを生かした防衛の訓練を行う場所なんだ。都会は土地が狭いから新たに訓練場を設立することが難しくてね。全く無い訳じゃ無いが、今回借りられたのはここだったんだよ」
「そうだったんですか」
そんなとこに行かされるなら尚更勧誘だろ、と思ったが次の言葉でそうでは無いことが分かる。
「融合体の近くにいた公介君を見た時、どうしても教えたくなったんだ。
魔力のさらなる使い方を...ね」
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