第54話 種と心臓

「すまない! 本当はもっと早く駆けつけたかったんだが、青水晶に余裕が無くてね。魔力を節約したかったんだ...確か君は空港で会った...主人君か」


 やってきたのは一国達だった。

 一国は公介のことを覚えていたようで、顔を見るやいなや名前を言ってくる。


「はい。覚えてて下さったんですか」


「ああ。職業柄、顔と名前を覚える機会が多い...ってそれどころじゃない。こっちに融合体と名乗る人間に酷似したモンスターがいる筈なのだが」


 一国の発言に焦った公介だが、なんとか言い訳をする。


「あ、えぇっと...そいつなら、なんか凄く苦しんでた後、消えてしまったんで、多分皆さんの攻撃で追い込まれてたんじゃないですか」


 一国は一瞬何かを考えるような素振りを見せたが直ぐに公介へ向き直る。


「そうか。確かに融合体の魔力は感じられないな。犠牲者を出してしまったが、取り敢えず目的は達成というわけか」


 納得してくれたようで安心した公介。

 後ろにいる人達の表情は気になるが、誤魔化せたのならいいだろう。


 ダンジョンの穴付近へ戻る一同。

 壁が消失し、ダンジョンでは無くなったお陰か、モンスターが出てくることはなかった。

 公介の言った通り、一国達の攻撃で融合体が力尽きたのだとしたら、コアも一緒に消滅した筈。


 つまりアメリカでコアを破壊した例と一致するならば、いずれこの穴も塞がるということになる。


「一国さんあの主人とかいうスタッフの言ったこと信じてるんですか」


「そうっすよ。悔しいけど、丁子さん達の攻撃が効いてたような手応えは感じませんでしたよ」


 丁子の仲間2人が一国と公介のやり取りに疑問を抱いたが、丁子が2人に拳骨を喰らわせる。


「いいんだよ。あれで」


 丁子の言葉に一国が付け足す。


「確かに私達の攻撃はまるで効いていなかった。しかも融合体が吹き飛ばされている姿を見た直後、もう1人何かが通ったのは確か。そして向かった先に居たのは主人君1人。融合体の消滅に彼が関わっていることは間違い無いだろう」


 一国はさらに続ける。


「そうだった場合、彼はこの作戦に参加した全員にとっての命の恩人と言っていい。その命の恩人が我々に嘘をついた理由は、当然知られたくなかったからだ。それを詮索するのは恩を仇で返すのと変わらない。そう思わないかい」


 一国の言葉を聞いて、考え込む2人。


「確かに...そうですね」


「この事は誰にも言わないっす」


 他の者達も納得しているようだ。

 スタッフ等は本当に赤バンドチームが倒したと思っているようだが。






「ダンジョン爆発を防ぐという任務は果たせなかった。そのせいで犠牲者が出てしまったことも事実であり、周辺はミサイルや融合体の攻撃で荒れ果てた。だが、今この地に立っているのはモンスターではなく我々だ! モンスターの脅威を退け、この土地を守った君達の活躍は決して無駄ではなかった! それは私が保証しよう」


 マックの言葉で締め括られ、帰りのバスでムンバイへと戻る一同。


 マットや尾哲の活躍で、一刻を争うような重傷者はいない為、手当てはムンバイの病院に着いてからでいいと判断された。


 その後は少し慌ただしくなり、夜の便で帰国。

 事が早く進むのはスタッフ等が優秀な証拠だろう。

 犠牲者の遺体を一刻も早く、それぞれ国の家族に引き渡す目的も勿論あるが。






 空港に着いたのは7時半頃。

 先ず向かったのは協会の副会長室。

 尾哲と共に入室すると、第一声は謝罪だった。


「2人共本当にすまなかった。特に公介君には浅い階層のモンスターを狩るという話だったにも関わらず、こんな危険な旅にしてしまって」


「その辺にしてください。俺も尾哲さんもこうして五体満足で生きてるんですから」


 中々頭を上げない福地をフォローする公介。


「犠牲者には申し訳無いが、死亡者リストに君達の名前が無くて安心したよ。命に優劣をつけるつもりは無いにしろ、2人共、貴重な存在だからね」


 公介のスキルは言うまでも無いが、尾哲の治療スキルも勝ち組と言われるスキルだ。


「アメリカには抗議の声を挙げるが、壁の破壊に成功して、高ランクモンスターを撃破したことは事実だからね。あまり効果は期待出来ない」


 アメリカにしてみれば自国の領土ではない場所で新型ミサイルの実証実験が出来、ミサイル開発という非難を浴びやすいニュースも、壁の破壊とモンスターの一掃という成果によってかき消される。

 エマのチームも全員生き残り、正に大成功と言えるだろう。


「これでまたアメリカは発言力を増してしまうかもしれない」


 暗い顔をしている福地をみかねて、公介が自分の任務を報告する。


「元気出してください。頼まれてた依頼、ちゃんとこなしてきましたから」


 そう言いながら収納袋と入りきらなかった黒紫水晶を渡す。

 融合体からドロップしたアイテムは自分用の収納袋に入れたままだ。


「おぉそうだったね。早速確認させてもらうよ」


 福地は中からアイテムを1つ取り出した。


「これはまさしく象牙のようじゃないか。早速鑑定に回すとしよう」


 自分の読みが当たっていたことに喜ぶ福地。

 鑑定結果は既に公介が知っているが、鑑定スキルが使えることを教える必要は無いだろう。


「よくやってくれた。このアイテムの価値が分かり次第、報酬を振り込ませてもらうよ。勿論、危険な目に遭わせた手当ても上乗せしよう」


 いつもの調子を取り戻した福地。






 その後、依頼を済ませた公介は自宅へと戻った。


「さて、やっと1人きりになれた」


 収納袋から2つのアイテムを取り出した公介。

 融合体からドロップした黒紫の心臓のようなものと種のようなものだ。


 福地に渡すことも考えたが、赤バンドチームですら歯が立たなかったであろう融合体を倒した事がバレるのは流石に不味いと判断した。


 そもそも赤バンドチームが倒したことになっているのだから、自分が持っていると知られれば国際的な問題にまで発展してしまうかもしれない。


 先ずは種の方を鑑定してみる。

 熟練度最大の鑑定なのだから、どんなに貴重なアイテムでも出来るだろう。


 鑑定が成功し、分かった情報は、






 ダンジョンの種

 ーーーが飲み込むと、この種がドロップしたダンジョンを新たに生成し、穴を自由に出現、消失させることが可能。






「ーーーってなんだ?」


 あまりにもアイテムが稀少過ぎて一部は鑑定出来ないのかと思い、魔法効果上昇スキルで効果を1000倍にし、再び鑑定を行う。

 しかし、結果は同じだった。


 と言う事は、なにか条件を満たした特定のを指していることになる。

 人間以外の生命体の可能性もあるが、ここに他の動物の名前が入るとは想像がつかない。


 ーーーの意味は不明だが、ふと融合体が言っていた、意味深な発言を思い出す。


 や、との発言は公介に対してのものだった。


 ーーーの条件を満たす存在が、その発言と関係しているのだとしたら、自分は既にその条件を満たしている事になる。


 取り敢えず一旦これは置いておいて、次に心臓の方を鑑定した。






 ダンジョンのコア

 ーーーが生成させたダンジョンでーーーがこれを使うと、そのダンジョンを思うがままに活動させることが可能。






 コアというのは人類側が付けた名称だが、偶然正式名称も合っていたということだ。


 自分がーーーを満たしているか、確信は得ていないが、どのみち持っていてもバレるリスクがあるだけなのだから飲み込んでみることにした公介であった。




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