第53話 圧倒

 ミサイルの着弾後、公介は隠密スキルを使いながらダンジョン方面へと急いでいる。

 近付く程に感じる魔力がどんどん高まっているのを感じた。


(一国さんやネルキスさん達で対処出来てるならいいけど、そうじゃなかったら)


 過信しているわけではないが、自分の力が必要になるような状況、それはつまり一国やエマですら太刀打ち出来ないモンスターがいるということになる。


 そんなモンスターと戦った経験など無い為、勝てるのかはやってみないと分からないというのが本音だ。


(でもこんな力を持っておいて、いざって時に逃げ出すのは流石に格好悪いだろ)


 未成年の自分が逃げても誰も文句は言わないだろうが、こういう時に戦わないと、このスキルを持つ資格がない。

 そんな気がしていた。


(力を持つだけで満足するような人間にはならな)


「グベッ」


 目の前に障害物は見えないが、確実に何かにぶつかった。


 魔力を流していたとはいえ、その分速い速度で衝突したのだからかなりの衝撃だ。


「いぃってぇー! なんだよもう!」


 確認するもやはり何もないのだが、手を伸ばすと何かに当たった。


(ひょっとしてカナダでも言われてた透明なドーム状の壁か。ってことは新型のミサイルでも壊せなかったのか)


 1度壊されて、融合体が再生したことを知らない公介はそう思った。

 壁を壊すべく1000の魔力を込めて殴るが、びくともしない。


(え、1000でも無理なのか)


 壊れないならならば仕方がないと、魔法効果上昇スキルをオンにした公介は、同じく1000の魔力を込めて再度全力で殴る。

 実質魔力100万のパンチだ。


 拳が当たった部分が貫通し、他の箇所に触れても何も感じなかったことから、壁を破壊することに成功したようだ。


(100万なんだからそりゃあ流石に壊れるよな)


 公介はそのまま先へ進もうとしたが、感じていた魔力の存在がこちらに向かってきているのが分かった。


(もしかして壁を壊されて怒った?)


 タイミングからして壁を壊したことが関係していることはまず間違いないだろう。


 壁からダンジョンまでの距離がカナダの例と同じであれば半径10kmということになるが、感じた魔力の存在はものの数秒でこちらへやってきた。

 それが全力なのかは考えたくもない。


「何故ですか」


「は?」


 片手に巨大な魔力の玉を持った融合体の第一声は質問だった。

 それも何に対してなのかを言わないタイプの問い掛けだ。


「えっと...ダンジョン爆発のせいで出来た壁だから破壊したんだけど。あとその片手に持ってる物騒な玉しまってもらってもいい?」


「いえ、私が聞きたいのは壁を再構築出来ない理由です」


 壁を壊した理由を聞いてきたのかと思ったが、違うらしい。


「いや再構築出来ないって言われても、俺はただパンチして壊しただけだぞ。因みにその片手に持ってる物騒な玉ってしまうこと出来る?」


「本当に分からないのですか......まさか......」


 融合体は何か考え事しているようだが、公介は融合体が持っている魔力の玉が気になってしょうがない。

 まるで銃口を向けられているかのような感覚を覚えた。


「ちょっとその魔力の玉怖いからしまって欲しいんだけど」


「これは先程まで戦っていた遊んでいた方達へのプレゼントでしたが、別に貴方に差し上げてもよろしいですよ」


 不適な笑みを浮かべる融合体に公介は少々苛立った。


「遊んでいた? お前はモンスターなのか?」


 容姿が人間であることから、モンスターだとは分からなかった公介。


「えぇ、そうです。ダンジョンにはこの世界の動物に酷似したモンスターがいるのですから、生態系の頂点に立つ貴方達人類をモデルにしたモンスターが最深部である100階層に居ても不思議では無いでしょう。という話をするのは本日2回目です」


 尋常ではない魔力から人間なのかどうか疑いを持っていたが、融合体の発言でモンスターであると認識した公介。


「なるほど。それで、そのという表現には殺すことも含まれているのか」


「当然です。この区域をダンジョン化する。この目的を妨害する存在は消えて頂かなければなりませんから」


 その言葉を聞いた瞬間、公介は確信した。

 このモンスターは見過ごせないと。


「そうか...俺は別に直接的な恨みを持っているわけじゃないが、お前がモンスターで良かった」


「? それはどういう意図の発言ですか」


「今の俺には人を殺める覚悟なんて無いからな。ダンジョン爆発の黒幕が実は人間だった、なんてオチだったらどうしようかと思った」


 公介の体から魔力が溢れ出す。


「貴方も戦うつもりというわけですか。それでは宣言通りこれは貴方にプレゼント致しましょう」


 放たれた魔力の玉は公介を直撃し、轟音と衝撃波が辺りを埋め尽くす。


 融合体は飛んでいた為、地上にいる公介を狙うべく下に放った影響か、視界が開けると公介が立っていた場所には大きなクレーターが出来ていた。


 融合体が確認するとクレーターには死体はおろか、骨すら残っていなかった。


「んむ。自分で殺っておいてなんですが、これでは壁を再構築する術が分からないままですね」






「一生分からなくてもいいだろ」




 融合体は気付かなかった。

 下を向いていたこと、衝撃で視界が悪かったことで、まさかあの攻撃に耐え、自分の正面までジャンプしてきたとは。


「な!?」


 公介の声で正面を向いた時にはもう既に拳が顔に直撃していた。


 凄まじい速度で飛ばされる融合体。

 公介は100万の魔力で強化した体でそのまま後を追いかけ、飛ばされている融合体に追い付き、さらに一撃を喰らわせた。


 途中大きく空いたダンジョンの穴と、その周辺にいる人達を見かけたが今は後回し。

 寧ろ彼等の近くで戦って人質なんて取られたら厄介だ。


 2発のパンチでかなり遠くまで飛ばされた融合体。


「ぐっ...な...ぜだ。何故ダメージが...回復しない...」


 殴られた事実もそうだが、それ以上に受けた傷が再生出来ないことに驚いていた。


「壁といい...私の体といい...まさか本当に...奴が...」


 焦りからか、いつもの丁寧な話し方すら忘れ、思考する融合体。


「魔力100万のパンチ2発で倒れないなんて、どんな体してんだよ」


 流石に倒れて何かしらドロップしているだろうと思っていた公介は予想が外れた。


「もういいでしょう。ダンジョンを維持する為、コアの魔力は出来るだけ温存しておきたかったのですが、そうも言ってられません」


 融合体の魔力がさらに数段上昇したのを感じた。


「100万で倒れないのにさらに強化か。ならこっちも」


 今まで使ってこなかった、いや使う必要がなかったスキルを発動する公介。


「身体強化スキルオン」


 熟練度最大の身体強化スキル。

 しかも魔法効果上昇の効果でこちらも効果が1000倍になる。


 熟練度の最大値は1000。

 つまり消費できる魔力も1000なので、実質100万の魔力を体に流し、強化した上での100万の魔力を消費した身体強化スキルの併用。


 最早何が何だかよく分からなくなった公介だが、これが今出来る精一杯の強化だ。


 そんなことをしているうちに、向こうはいつの間にか上空へ飛翔し、一軒家並みサイズの魔力の玉を形成していた。


「100階層ダンジョンを維持するだけの魔力が溜まったコアから抽出したこの攻撃。掠めるだけであの世行きのチケットは即売り切れますよ」


「一々言い回しが人間臭いな」


「フッ、人間がモデルの私にとって最高の褒め言葉です...よっ!」


 返答と共に放たれた玉は公介に向かうが、流石に地面に当たったら不味いと判断し、上空へ蹴りあげた。


 だが蹴りあげられた玉は上空へ飛んでいくことは無く、蹴られた瞬間に消滅してしまった。

 あまりに蹴りの威力が強すぎて玉に集約された魔力をかき消してしまったのだ。


「そ...そんな......ぐっ! そんな筈は...!」


 融合体が魔力で剣を形成し向かって来るが、剣を手で受け止めながら握り潰し、油断したところで腹に蹴りをを加える。


「ガハッ!」


 腹を押さえ両膝を尽く融合体。

 外から見れば男が少女を痛め付けているようにしか見えない。


「壁の...再構築...ダメージ...の回復...そしてこの...圧倒的な力...やはり...そうとしか...」


「さっきから何を言っているんだ。まさかだのやはりだの」


 聞いてすんなり答えてくれれば苦労はしないが、返ってきた答えはさらに謎が深まるものだった。


「それはお教え出来ません。私が教えるのはですから」


 落ち着きを取り戻した融合体は笑みを浮かべながら答える。


「ルール? 人の命を簡単に奪う奴がよくルールなんて語れたな」


 皮肉を込めた言ったが、融合体の表情は変わらない。


「貴方達人類だって、モンスターを殺すではないですか」


「モンスターは生命体じゃない。仮にそうだとしたら、殺した瞬間にどうして死体が地面に吸い込まれるように消えるんだ」


 モンスターが生命体なら、自分がこれからモンスターを倒す度に抵抗感が生まれてしまう。

 この融合体だって人の形をした生命体なのだとしたらもうそれは人と変わらないではないかと。


「では貴方達にとって生命体とは何ですか? 魔力で生み出された存在。自分達が認識している生命体との特徴が違うだけで、それは命ではないと」


「段々話が逸れてきてるぞ。俺は哲学の勉強をする為に、あんたと話しているわけじゃない」


 意味深な言葉への追及から、いつの間にかモンスターの命についての話題に刷り変わっていることを指摘した公介。


「そうですか。ですが私の体も既に限界のようです。ダメージが回復出来ない上に先程の蹴りがかなり効いてしまったようで」


 融合体の体にヒビが入り始め、割れ目から金色の光りが漏れ出す。


「コアや他の階層のモンスターと融合したこの体を3回の攻撃で終わらせる。どうやら本当に間違いないのでしょう。まだ完全では無いようですが」


「またその意味深な台詞か」


 教える気が無いのであれば、わざわざ匂わせるなと思った。


「フフッ。死ぬ間際ぐらい好きなことを言わせて頂いても良いではありませんか。ですが、おそらくまたお会いすることになるでしょう」


 最後にそう言い残した融合体はひび割れた体が完全に割れ、金色の光がまばゆい程に溢れ出す。

 その後光が消えると融合体の姿は無く、代わりに2つ何かが落ちていた。


 黒紫色の心臓のようなものと、種のようなものだった。


 鑑定しようとしたが、ダンジョンの方向から声が聞こえ、慌てて自分用の収納袋に隠した公介であった。

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