第52話 融合体
「え、作戦失敗...ミサイル...」
「そうだ。ダンジョン爆発が発生し、穴から出てきたモンスターを一掃するべく、新型ミサイルが発射された。核ミサイルではないから、それ程広範囲に被害が及ぶことはないが、今どこにいる?」
まだ車で1時間以上かかることを伝えると、その距離なら心配はないとのことで、待機しているよう指示された。
「分かりました。でも着弾したら、現地に向かおうと思います」
「!?、モンスターが雪崩のように出てくるんだぞ!Dランクモンスターなど話にならないぐらいのモンスターも!」
戦う力を持っている自分が遠くから呑気に見物しているのは後味が悪すぎると思った。
福地は否定するが公介も引かない。
「俺のことを買ってくれてるのは感謝してます。でも死にに行くつもりはありません。前に戦闘には自信があるって言ったじゃないですか。必ず生きて帰ってきます」
「......その言葉、作戦終了まで忘れないと誓えるかい」
勿論だと答える公介。
元々ドロップ率のスキルだけではなく、他にも秘密があるのだろうと思っていた福地は彼の選択を許可した。
通話を終了した後、直ぐにタクシードライバーに車を止めさせる。
「俺はここで降りますけど、運転手さんは今来た道を引き返して下さい」
一昨日暴徒が襲撃してきた理由もそうだが、ダンジョン爆発を懸念して元々周辺のエリアに住む住民は強制退去させ、道にも侵入禁止の看板をたてていた。
福地の言うとおり、ここは警報も聞こえないことから安全なのだろうが、念の為ドライバーには引き返すよう促した。
公介を降ろした後は戻るつもりだったらしく、そのまま来た道を引き返したドライバー。
公介はミサイルが着弾し次第、隠密スキルを使い、全力で向かおうと判断した。
「ミサイル着弾まで1分を切った。無線が使えない為、正確な時間は不明だ。魔力の壁はいつでも衝撃に備えられるよう全力で展開しろ」
全員が固唾を飲んで身構えていると、ついにその時がやってきた。
「踏ん張れ!」
「な...なんて...衝撃だ」
「こ...の程度...」
「よ...ゆう」
凄まじい衝撃。
外へ出ようとしたモンスターも木っ端微塵になっているのが確認できる。
だが衝撃が来たということは、ドームの壁の破壊に成功したということだ。
しばらくして衝撃が収まり、何とか耐えしのいだ一同。
「よし。あの壁を破壊できたのなら、モンスターにも影響が出る筈だ。火の元に警戒しながら捜索するぞ」
マックの読みは当たっていた。
ドーム状の壁が破壊されたことで、モンスター達が外へ出てこなくなったのだ。
カナダでは壁のせいで地上がダンジョン化してしまったという仮説が立てられたが、それが正しければ壁を破壊したことでモンスターに適さない環境に戻ったということなのか。
なにはともあれ、モンスターが出てこなくなったという事実に一同は歓喜した。
スタッフの一部は恐怖から解放され、興奮のあまり飛び上がっている。
「見たかモンスターめ! これが人間の強さだ!」
「新型兵器バンザーイ!」
「何がめでたいのですか」
飛び上がったスタッフ2人がそれ以上言葉を発することはなかった。
彼等の頭に突き刺さっているナイフのようなものを見れば当然の話だ。
エマ、丁子、一国はこの攻撃を一度見たことがある。
「き...貴様ー!」
一国が叫んだ方向に浮いているモンスター。
「地上でお会いしましょうと申したではないですか。戦いが終わったと勘違いし、飛び上がるなど自殺行為です」
最深部で遭遇したモンスターは見下すように言う。
「てめぇ。あの攻撃から生き延びたってのか」
「勿論。貴方達に出来て私に出来ないことなどありません。コアの魔力を使えば、あの程度の攻撃は簡単に防げます」
自分達でさえ、やっと防ぎきったミサイルの衝撃をあの程度と馬鹿にしたこのモンスターの力に戦慄する一同。
「ですが、壁を破壊したのはお見事です。魔力が無いところではモンスターは弱体化してしまいますからね。まだまだ地上は魔力が薄すぎます」
やはりあの壁は地上をダンジョン化させるものだったのかと理解したが、謎が解けたことに満足出来るような状況ではない。
「ですのでもう一度作るとしましょう」
そう言ってモンスターが片手を上にあげるとコアが光り出し、新たに壁が形成させれていく。
透明な為、何が起こったのか分からなかったが、モンスターが再度穴から出てきたことで、その事実を知ることになる。
「まさか、また壁が形成されたのか!?」
やっと破壊した壁をなんなく元に戻せるという事実に、心が壊れた者もいた。
「も...もうやめて...」
「俺達は...ここで死ぬんだ...」
「お前達、しっかりしろ! まだ諦めるな!」
スタッフをなんとか励ますマックだが、最早言葉ではどうにもならない。
「ですがまたモンスターを一掃されては面倒ですからね。こういたしましょう」
モンスターが指を鳴らすと、穴から出てきた象型モンスター達が黒紫色の液体に変わり、コアと一緒に吸収されていく。
「な、なにが起こっていやがる」
「あのモンスターに、魔力が集まっていく」
エマでさえ戦慄する程の魔力がモンスター1体に集約されていくのが分かった。
「融合体...とでも名乗りましょうか。コアや他のモンスターと1つになった私の魔力。試してみますか」
融合体がデコピンのように指を弾いた瞬間、スタッフ1人の頭が飛び散った。
「なっ!?」
まだ理解が追い付いていないが、融合体は淡々と説明する。
「ほんの小さな魔力の塊をぶつけただけですよ。ほら、もう一回見せてさしあげましょう」
融合体は再度スタッフの頭を吹き飛ばし、彼等の足はようやく逃げろと脳から指令が下され、動いた。
「あ...あああぁぁぁ!」
「やめてくれぇー! 殺さないでくれぇー!」
「まだ娘が産まれたばかりな...」
逃げ惑うスタッフ等の頭を射的のように吹き飛ばしていく。
そんな中、一国が食い止めようと融合体へ向かっていく。
「いい加減にしろ。人の命をなんだと思っている」
一国と拳で競り合っているが、中々引かない一国に融合体も少々驚いた。
「これはすごい。攻撃が当たる一瞬、ほんのピンポイントにだけ魔力を凝縮させることで、破壊力と燃費を両立させるとは。ですが、相手が悪かったですね」
魔力量の差がありすぎるせいで徐々に押されていく一国。
その時、前と同じようにクロエに強化されたエマ達、仲間2人によって強化された丁子が斬りかかるが、
「それは先程も見ましたよ」
魔力が強力すぎて、まるでダイヤモンドに斬りかかっているかのような錯覚を覚えた5人。
「攻撃が...効かない」
「嘘だろ...エミーですら届かないのか」
「なんて濃厚な魔力...」
「支援スキルで強化してるのに...」
「チッ、なんて硬さだ」
「丁子さん...」
「俺達じゃ...丁子さんへの力不足ってことか」
エマ達も丁子達もダンジョン内で戦った時とは次元の違う強さに、戦意を喪失しかけていた。
「強さの次元が違うことを認識していただけたようなので、1人1人死んでいただきましょうか」
そう発言した融合体はエマの周り、全方位にナイフの形に形成した魔力を展開させる。
「!?」
逃げ場が無いエマは直ぐ様、ナイフを壊そうとするが、全く歯が立たない。
そうしているうちに、放たれたナイフはエマの体を引き裂く。
「ぐっあああ」
「「「エミー(ちゃん)!」」」
エマはその場で膝をついてしまうが、まだ倒れない。
「うまく急所を外しましたか。ですが、流石に次でもう終わりにしましょう」
融合体はテニスボールサイズの魔力の玉を形成させる。
大きさに比べ魔力の量が桁違いだ。
少なくとも魔力を感じ取れる者に終わりだと思わせる程には。
「さようなら」
その一撃が迫ってきた時、咄嗟にエマが前へ出た。
青水晶を噛み砕き、魔力を回復させたエマは全ての魔力で壁を形成し、ガードするが、
「うっ...だめ...もう...もたない」
ナイフのダメージが残っており、防ぎきれず、爆発した魔力の玉は全てを飲み込む。
「「「うわあああぁぁぁ!!!」」
全員の悲鳴が響きわたる。
「ほほう。これでも生きているとは」
エマの防御により威力を殺せたお陰でなんとか皆生き延びているが、立っているのがやっとの状態だ。
特にスタッフ達の中には半死半生の怪我を負っている者もいる。
「ですが、今ならこれで充分ですね」
先程よりも小さく、ピンポン玉サイズの魔力を形成した融合体はエマへと投げつける。
「さあ、早く防御しないと死んでしまいますよ」
「ご...めん...みんな...もうギブ」
融合体はエマを煽るが、前の攻撃がかなり効いてしまったのだろう。
体も防護服もボロボロのエマはその場で倒れこんでしまう。
だが攻撃がエマに当たることはなかった。
「!? あんた...なんで」
丁子が魔力の玉を斬ったからである。
「へっ...おめぇは...斬るなって言ってたけどよ...斬って...良かっただろ...」
斬った瞬間爆発した魔力の玉が丁子に直撃し、人型モンスターにやられた時以上の深傷を負ってしまった。
「これで...借りは...返したぜ」
首を切り裂かれそうになった時に助けて貰ったことを覚えていた丁子は、いつか借りを返そうと思っていたのだ。
「どうせこれから皆死にますから、借りなんて気にする必要はありませんよ」
「君のようなモンスターには分からないよ。人間の心は」
丁子を嘲笑う融合体だが、一国が否定する。
「分からなくて結構です。分かる必要もないですから。これで本当の終わりにしましょう」
もう戦うのに飽きたのだろうか。
今までとは比べ物にならない大きさの魔力を形成した。
おそらくバランスボール並みの大きさはあるだろう。
「全く。傷だらけのおじさん相手にまるで遠慮がない」
流石に前のように受け流すことは出来ないと悟ったのか、笑い口調で反応する一国。
「貴方だけではないですよ。ここにいる全ての人間を殺す為の攻撃です」
いよいよここまでかと最後の抵抗をするべく、踏み出す一国だが、融合体が別の方向を向いていることに気付く。
(何故そっぽを向く。最早私の攻撃など見る必要もないということか)
どれだけ人間を馬鹿にすれば気が済むのだと思った一国だが、融合体から発せられた言葉は全く違うものだった。
「先程の兵器ではないですが、どうやら壁が破壊されたようです。まだこんな手を残していたとは」
何を言っているのか分からなかった。
確かにミサイルが着弾した形跡は無いが、だからといって世界最強のエマはそこで倒れている。
誰にも気付かれずに破壊出来る兵器なら、わざわざ被害が出やすいミサイルなど最初から使う必要はない。
かといってカナダでは外側から攻撃した際、エマですら破壊することは叶わなかった。
「しかし残念でしたね。壁は何度でも再生できま...」
余裕の表情をしていた融合体の顔が歪む。
壁を再生するべく、魔力の玉を持っていない方の手を何度も上に掲げているが、その表情が変わることはない。
「どういうことです!? 壁が再生できない!?」
状況は今一理解できていないが、壁を再生出来ず融合体が今までになく焦っているというのは分かった。
何度も掲げていた手を引っ込めた融合体は向いていた方へ飛び去ってしまった。
おそらくその方向が壁を破壊した際に力が加わった場所なのだろう。
行って確かめたいところだが、今はそれどころではなかった。
一国は急いである人物の元へ駆け寄る。
「大丈夫か! マット・リゴン君!」
「ん? あらやだ。誰このイケメン...って自衛隊の一国さんじゃない」
融合体の攻撃で気を失っていたマットだった。
「その反応だと大丈夫そうだ。確か治療スキルを持っていたね。瀕死の人を治療してやってくれないか。魔力が足りなければ私の分の青水晶を使ってもらって構わない」
治療スキル持ちのマットに重傷者の手当てをお願いしたのだ。
「そうね。戦闘じゃあまり活躍出来なかったもの。たっぷり慰めてあげないと」
「私にもお手伝いさせて下さい。私も治療スキルが使えます」
マットが了承すると、もう1人声があがった。
尾哲だ。
「おおそうか。ありがたい」
2人の活躍により、命の危険がある者なら治療を行っていった。
「ふぅ。取り敢えずみんな一通り治療し終わったわね」
2人居たお陰でかなり早く治療が終わった。
既に息絶えた者までは救えなかったが、それでもこの2人が救世主になった人間はかなり多いだろう。
「2人共よくやってくれた。だが、君達の活躍を水の泡にする問題がまだ残っ...」
治療を終えたとしても、あの融合体に全員殺される危険性はまだ残っている。
先程融合体が向かった方を見たその瞬間、衝撃波と轟音が一国達を襲う。
「この魔力は!?」
一国は魔力の扱いに長けており、今の魔力は融合体が自分達に向けて放とうとしていた巨大な魔力の玉であることが分かった。
一国達が身構えていると融合体が凄まじい速度でこちらにやって来る。
......いや、やって来たのではなかった。
どちらかというとその姿は、
まるで何かに吹き飛ばされて来たかのようだった。
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