第50話 3人の共闘
赤バンドチームは優勢していた。
クロエのスキルである[支援]は、4人までの速さ、力、魔力回復速度を高めてくれるもので、身体強化と魔力回復速度上昇を複数人に付与できるようなスキルだ。
これによって唯でさえ強いエマがさらに強化され、他の3人も加勢することで、モンスターはなかなか反撃が出来ない。
エマと競り合っている時には、後ろから隠密スキルが使えるトーマスが戦斧で攻撃を仕掛け、上空へ逃げてもノコギリ型の武器を2本持ったマットが襲い掛かり、下では大鎌を持ったクロエが待ち構えている。
「なかなか良い連携です」
「俺も忘れてもらっちゃ困るぜ!」
一旦距離を取るモンスターに対し、今度は丁子が追撃を仕掛ける。
鎖のスキルでモンスターを拘束し、大剣で一刀両断を試みる。
仲間の2人のスキルは[装甲付与]と[魔力付与]。
その名の通り、指定した相手に見えない装甲のようなものを付与出来るスキルと、魔力を分け与えるスキルである。
2人とも基本的には身を守る程度にしか戦わず、丁子の強化に特化させている。
「悪くない攻撃ですが、1人なら対処も容易いです」
巻き付いている鎖をいとも簡単に引きちぎり、丁子の大剣を躱したモンスターにさらなる追撃を掛けたのは一国。
一国は拳で戦う珍しいスタイルだ。
と言ってもはめている手袋は、鍛冶スキルで製作出来る武器のカテゴリーであり、打撃の破壊力を高めてくれる武器である。
「私の攻撃も評価してもらえるかな」
「魔力の使い方がお上手です。ですがこうもまとめて来られると、少々苛ついてしまいますね。これが人間の感情というものなのでしょう」
他の連中も一斉に攻撃を仕掛けようとするが、モンスターは上空へ飛翔し、手を下へ向ける。
空を飛べる者達は同じく飛翔し、追いかけるが、
「戦う人数を減らしましょう」
丁子を吹っ飛ばした時と同じように魔力を放出させてきた。
上方向からの圧力で体が何倍にも重くなったように感じ、次々と地面へ叩き付けられる中、エマと丁子、一国はその場に留まっていた。
「こんなの押し返せばいい」
「不意打ちじゃなきゃ気合いで充分だ」
「私はネルキス君のようにすると魔力が枯渇してしまうからね。受け流させてもらうよ」
エマは魔力の圧を押し返し、丁子は気合いで乗り切り、一国は滑らせるように魔力を受け流すことで対処していたのだ。
「私の魔力を受けながら私と同じ高さまで上がって来ますか。ですが貴方達をサポートしていたお仲間さん達にはもう頼れませんね」
「へっ!最初から俺1人で充分なんだよ。次はお前が落ちる番だ!」
丁子はモンスターに向けて大剣を振り下ろすが、片手で受け止められてしまう。
「最初から避ける必要もありませんでしたが、貴方のプライドを守るには、今のも避けた方が正解でしたか?」
「なっ!?」
渾身の一撃を正面から受け止められたことによる驚き。
それは敵の目の前で一瞬思考を停止するというあってはならない隙を丁子に引き起こした。
「まずは1人目」
空いている片方の手に魔力が集まっていくのを感じる。
振りかざした手は丁子の首を跳ねようとするが、
「ボサッとしないで」
間一髪、エマがその手をナイフで切断し、事なきを得た。
モンスターは斬られた手を見つめている。
「一回攻撃を受け止められただけでビビりすぎ」
「あ...す、すまん」
普段誰にでも強気な丁子も目の前で命を救われては、下手に出るしかなかった。
「かなり手に魔力を集めたのですが、斬られてしまいましたか」
特に焦ることもなく、手を再生させるモンスター。
「しかし私達モンスターの体は貴方達と違い、魔力で構成されていますから、この程度の損傷は何の問題もありません。そこらのモンスターには出来ない芸当ですが」
「なら、打撃ならどうかな」
一国がモンスターの背後から横腹に一撃を加える。
モンスターも気付いていなかったようで、衝撃をもろに喰らい、かなりの距離まで飛ばされる。
その影響で体がグニャリと曲がっているが、また何事も無かったかのように元通りになってしまった。
「接近に気付きませんでした。やはり貴方は魔力の使い方がお上手です。自身の魔力を完全に漏れないようにするとは」
「魔力は少しも無駄に出来ないのでね」
「斬撃も打撃も効かねぇのかよ。どうすりゃいいんだ」
「再生する魔力が足りなくなるまで攻撃する」
いつもなら自分が言いそうな台詞をエマが言ったことに違和感を感じた丁子だが、一国が2人に相談する。
「あのモンスターは人間がモデルだと言っていた。なら弱点も人間と同じで頭や首なのかもしれない。それにさっき皆で戦っている時に観察していたんだが、やはりそういった部分には当たらないよう回避していたように見えたんだ」
「じゃあ今度はそこ狙ってみる」
「次こそは絶対にぶった斬ってやる」
「作戦会議は終わりましたか。なら私からも攻撃させていただきます」
モンスターは片手を上に上げ、魔力を集めることで作り上げた巨大な玉を彼等に向かって投げつけた。
しかし、それ程までに巨大な魔力なら感じ取ることも容易であり、彼等は攻撃を躱すことに成功する。
通り過ぎた魔力の玉はそのまま壁に衝突するまで見えなくなると思われたが、
「これ追ってくんのかよ!」
魔力の玉は軌道を変え、丁子目掛けて追尾してきた。
その後何度躱しても追尾してくることに嫌気がさした丁子は玉を大剣で斬ろうとする。
「ダメ!斬ったらその場で爆発する」
エマの忠告により斬ることを断念した丁子に魔力の玉が迫りくるが、一国がそれを受け止め、手で弾く。
明後日の方向へ弾かれた玉は激しい音と共に爆発した。
「玉に自身の魔力を込め、遠くでそれを起爆剤にすることで爆発させるとは。ならばお次はこう致しましょう」
今度は魔力を玉ではなく、ナイフのような形にしたモンスター。
「なるほど。数で勝負というわけか」
先程とは違い、数えきれない程のナイフが生み出され、彼等にふりかかる。
「だがずっと受けに回るつもりはない」
「数が多い分、1つ1つの魔力は大したことない」
「爆発しねぇなら、こんなおもちゃいくつでも来やがれ!」
3人とも時にナイフを躱し、時にナイフを弾きながらモンスターとの距離を詰めていった。
目の前まで来たところで、一国がモンスターの手刀を躱し、顔に一撃を喰らわせる。
吹っ飛ばされたモンスターを待ち構えるのはエマと丁子。
「これでおしまい」
「くたばりやがれー!」
魔力で刀身を伸ばしたエマのナイフが首を、丁子の大剣が頭を真っ二つに斬る。
「どうだ!」
丁子が勝利を確信し、エマも安堵の表情を浮かべているが、一国は違った。
「いや、まだだ」
一国がそう言うのと同時にモンスターの首から上が再生されていくのが分かる。
「おいおい嘘だろ」
「ふじみってやつ?」
驚く2人の尻目に、再生が終わったモンスターは彼等に言った。
「私が人間をモデルにしたモンスターであっても、弱点まで人間と同じとは言っていませんよ。頭や首への攻撃を躱していたのは本能、とでも言うべきでしょうか。目の前に何か迫ってくれば、避けるのは当然でしょう」
「うむ、若者の前で良いところを見せたかったのだが、やはり年配者はどうしても常識にとらわれてしまうな」
作戦が振り出しに戻ってしまった。
弱点がないならどうすれば倒せるのか。
行き詰まっていると、モンスターの方から話を始めた。
「さて、そろそろでしょうか」
「なんのこと」
「俺達が諦めるまで待ってるんなら永遠に戦うことになるぜ」
「私もまだまだ頑張らせてもらうよ」
3人ともまだ諦めたわけではないが、モンスターはそうではないと否定する。
「いえ、そろそろというのは貴方達が...
ダンジョン爆発、と呼んでいるものですよ」
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