第49話 最深部
次の日、赤バンドチームは7時より活動を再開。
丁子が遭遇した人型モンスターが現れることはなく、気にはなるものの、目的は最深部に存在するであろうコアの破壊であり、1体のモンスターに構っている暇はない。
一国の予想通り81階層からはモンスターの魔力の濃さもさらに1段階上昇。
こちらの魔力を関知する距離も長くなり、自分達がモンスターを把握する頃には、向こうもこちらに気付いてくる。
だが象型モンスターなだけあって速さはAAランク並みではなく、そこまで戦闘の頻度は変わらなかった。
寧ろ相変わらずエマと丁子がモンスターの取り合いをしている。
「丁子さん気合い入ってんなぁ」
「浅い傷はまだ治ってないのに大丈夫かな」
「そろそろ俺達も戦った方がいいのか」
「確かにこのまま任せっきりも申し訳無いわね」
「エミーちゃんやる気ギンギンだしいいんじゃないかしら」
どちらもサポートすら出来ていないことにむず痒さを感じていた。
だがエマも丁子も、ここでチームメイトのサポートを受けたら負けだと思っているのか、サポートなんていらないと言っている始末。
2人の活躍もあり5時間後、99階層に到達した一同はついに100階層への階段を見つける。
「ようやくここまで来ました。では時間的に一度昼休憩を取ってから」
「いや、休憩は短時間で済ませた方がいいかもしれない」
昨日と違いリーダーの意見に異議を唱えた一国。
「何階層まで成長すると爆発するのか、正確には分かっていないが、100というキリのいい数字が成長の最終段階である可能性は充分にあると私は思う。となれば、ここは短時間で軽めの休憩にし、直ぐにコアを破壊すべきだ」
確かに爆発寸前のダンジョンの傍で呑気にしているのは気が気じゃないだろう。
全員が納得し、リーダーがマックへ報告する。
「グラス指揮官。現在、100階層目前の所まで到達しています。キリのいい数字から、100階層にコアがある可能性があると判断し、10分の休憩後、突入します」
「こちら本部。了解した。コアの破壊はアメリカでも成功しているが階層が深い分、コアが同じ様な状況かは不明だ。あらゆる事態を想定しろ」
報告が終わり10分間の休憩をとる一同。
「丁子さん。怪我の具合はどうっすか」
「心配すんな。男がこんな掠り傷、一々気にしてられっか」
「丁子さんが男の中の男なのは知ってますけど、やっぱり心配っすよ」
「エミー。ここまでかなり飛ばしていたようだが、大丈夫かい?」
「よゆー」
「エミーちゃんが戦ってるとこ見るとモンスターがどれくらい強いのか分からなくなるわね」
「このまますんなりコアを破壊して帰れればいいけど」
「流石我が国の開拓者だ。こんなにスムーズに到達出来るとは」
「我がロシアにだって優秀な開拓者はいますぞ」
「何処の国でもいいではないですか。未来を担う若者が頑張ってくれてるなら」
丁子のチームやエマのチーム、米露の兵士と一国、それぞれが話し合っている中、休憩が終わり、リーダーが前へ出る。
「では、休憩が終わりましたので100階層へ向かいたいと思います。皆さんのお陰でここまで来ることが出来ました。おそらく、私達だけでは不可能だったでしょう。作戦終了まであともう少し、我が国の為にお力をお貸しください」
彼が話し終わり、100階層へと向かう一同。
何が待ち受けているのか、最大限警戒しながら辺りを見渡し、帰還できる門があるのは確認出来たが、
「これは...」
「なんか随分とちっこい場所だな」
一国と丁子が驚くのも無理はない。
今までの階層とは違い、奥行きが数百メートル程しかない。
だがその奥に見えるのは黒紫色に光る心臓の様な物体。
ここからでも見えるということは、かなりの大きさなのだろう。
「あれを破壊すれば、作戦しゅーりょーね」
真っ先に飛び出したのはエマ。
「ちょっとエミーちゃん!1人で突っ走っちゃったら危ないわよ!」
「きたねぇぞネルキス!」
マットや丁子の声も届かず、皆も急いで後を追う。
「!?」
しかしエマは後数十メートルのところで止まった。
何故止まったのかは分からないが、皆もそれに合わせて止まる中、これはチャンスとみた丁子はエマを追い抜き、コアへ向かう。
「なにかくる」
丁子がコアの目の前まで到達し、剣を振りかざすと同時に、エマはそう呟いた。
「どわっ!な、なんだ!?この...魔力の圧は!」
振り下ろした剣がコアに届くことはなく、感じたことの無い程の魔力を受け、後ろに吹き飛ばされてしまう。
「丁子さん!」
「危ない!」
チームメイトの2人が飛ばされてくる丁子を受け止める。
「クソ!なんだってんだ」
文句を垂れる丁子だが、皆の視線はコアから動かない。
いや、正確にはコアの前に浮いている人型の物体にだ。
「あれは、人...なのか」
「人ではありませんよ」
人型の物体は、ほぼ一瞬に見える様な速度で彼等の目の前に現れ、トーマスの発言に答える。
「「「!?」」」
あまりの速さに、一同は何が起こったのか分からなかったが、近くで見るとより人に酷似していた。
彼等は驚いているが、その物体は気にせず続ける。
「驚くことは無いでしょう。この世界に存在する動物がモデルのモンスターがいるのですから、生態系の頂点である貴方達人類がモデルのモンスターが最深部にいても」
見た目はエマより少し大きいぐらいの女性だが、魔力の量が凄まじく、彼等の目にはとてつもなく大きな存在に見えた。
「ねぇ、あなたが負けた人型モンスターってあれ?」
「いや違うな。知性を持った人型モンスターって点は一致するが、こっちは見た目が人間に似すぎだ。あと負けたって言うな。お前に言われると余計に腹立つ」
エマは一応確認の意味で聞いてみたが、やはり違うようだ。
「私達はあのコアを破壊したいのだけど、それには貴方を倒す必要があるってことよね」
「はい。貴方達がコアと呼ぶあれを壊されればダンジョンに魔力を供給出来なくなってしまいますから」
クロエの質問で、このモンスターが敵であることが確定し、全員が戦闘態勢に入る。
「3人とも、今回はサポートお願い」
今までとは違い、トーマス、マット、クロエにサポートをお願いしたエマ。
それ程の強敵ということなのだろう。
3人も気合いを入れて返事をした。
「おめぇらも今回はサポートさせてやってもいいぞ」
「はい!やってやりますよ!」
「俺達の強さ、見せてやりましょう!」
丁子のチームもやる気充分のようだ。
「所詮我が国が誇るネルキスの敵ではない」
「最深部にこんな魔力を持ったモンスターがいるなんて聞いてないぞ。特別手当が出るから来てやったのに」
「女性に手は上げたくないがモンスターなら致し方ない」
米露兵と一国、そしてインド兵達も覚悟を決める。
「来なさい。この世界の未来がどうなるか。それは貴方達、人類次第です」
その言葉が何を意味するのか。
戦いが始まった彼等に考える時間はなかった。
リーダーがマックに報告した頃、マックはスタッフ達に作戦完了が近いことを知らせた。
それを聞いた尾哲が公介へ連絡する。
ムンバイへ戻る際、連絡先を交換していたのだ。
「主人様、作戦終了までもう間も無くですので、こちらにお戻り願います」
「分かりました。直ぐにタクシー拾って向かいます」
どうせ作戦が終わったらムンバイの空港から帰るのだから、空港で合流しても同じだとおもったが、帰りのバスですらいないというのは流石に不自然なのだろう。
動物園でエサをあげていた公介は、直ぐ様タクシーを呼び、向かった。
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