第48話 謎のモンスター

 一悶着あったせいで行きより少し時間がかかり、3時間程で着き、現在は15時過ぎ。

 2台目のタクシーに乗っている間に、ムンバイのホテルの予約は済ませてある。

 一昨日泊まったホテルとまではいかないが、それなりに高級なホテルだ。


 因みにサポートスタッフが付ける青色のバンダナは勿論外してある。


(観光はする時間あんまりないな。どっかショッピングモールでぷらぷらするか。ていうか時間があったとしても純粋に観光を楽しめる気がしないし)


 18歳という若さで初の海外、しかも盗賊に襲撃されるという体験をした公介。

 普通ならトラウマになるような出来事だが、力の差があり過ぎたお陰で、それ程恐怖感は感じなかった。


 とはいえ、いきなり銃を乱射されるという未知の体験をしたのだから、多少はそのシーンが頭の中でちらついていた。






 そして数時間後、朝7時から活動を再開し、55階層の狭い道のダンジョンを突破した赤バンドチームは、現在80階層まで来ていた。


「今日はこの辺にしておきましょ

 う」


「え、まだいけるよ?」


「いや、私もリーダーの意見には賛成だ」


 リーダーの発言に異議を申すエマ。

 昨日は20時まで活動していたが、今日はまだ17時。

 午前から活動していたこともあり活動時間は今日の方が長いが、今日の内に進めるところまで進んでもいいのではとエマは思った。

 それに対し一国はリーダーに肯定的だ。


「ここまでの流れから、そろそろ正真正銘AAランク級のモンスターが出てきてもおかしくない。今日しっかり体力と魔力を回復させて、万全の状態で明日を迎えるべきだ。幸い、この階層は森の地形だから少なくとも目でモンスターに発見される可能性は少ないだろう」


「私は平気だけど、皆は自然に魔力回復するの遅いからしょーがないか」


 エマや他の皆も一国の意見に納得し、今日は81階層への階段を目前に控え、一夜を明かすことにした一同。


 リーダーがマックに報告する。


「...と言うことで今日は少し早めに活動を切り上げることに決まりました」


「了解だ。1日目より慣れてきたと思うが、その時が最も危険な期間だ。今日も気を緩めるなよ」


 報告後、見張りを買ってでた4人のインド軍兵士以外は休息を取るが、丁子は違った。


「ちょ、ちょっと丁子さん。どこ行くんですか」


「単独行動は危ないですよ」


 何故か休息を取ろうとはせず、皆から離れていったことを不思議に思ったチームメイトの2人が呼び止めた。


「このまま明日の朝までのんびりなんてしてられるか。俺はまだモンスター狩るぜ。だがおめぇらは付いてくんな。大勢で行くと目立つからよ」


 1人で行かせるのは心配だが、自分等が止めたところで、やっぱり行かない、なんて言う人ではないことは知っていたので、これ以上は何も言えなかった。






 さらにその後。

 18時になり、赤バンドチームは夕食を作り始めていた。


「ダンジョンの中なのに平気?」


「毎回レーションじゃ栄養バランスが偏るからな。任務の合間に生鮮食品などを取ることも、ある意味任務の1つだ」


 エマの問い掛けに反応する一国。

 エマのチームもダンジョンで寝泊まりした経験はあるが、その場で作る経験はなかった。


「そういえば、あの自信に満ちたジャパニーズはどうした?」


 丁子を見かけないことに気付いた米軍兵士。

 皆も見ていないと言い、首を傾げていると、


「ちょ!丁子さん!」


「大丈夫ですか!?」


 丁子のチームメイト2人の大声が聞こえた。

 慌てて皆が駆け寄ると、そこにいたのは傷だらけで満身創痍の丁子であった。


「へ、ちょっと油断しただけだ。大袈裟にすんじゃねぇよ」


「なにがちょっとだ!ボロボロじゃないか!マット、頼めるか」


「勿論よ。私の目の前で若い男子は死なせないわ」


 トーマスに言われ、マットが丁子の傷に手を当てる。

 すると傷口が光りだし、みるみるうちに塞がっていく。


「こ、これはまさか治療スキル...」


 驚くロシア兵士。

 マットは次の傷口に手を当てながら答える。


「そりゃあなた、これぐらい貴重なスキル持ってなきゃ、エミーちゃんのチームメイトは務まらないわよ」


 エマのチームメイト、協会の副会長が派遣する尾哲。

 やはり重要なポジションの人間はそれ相応のスキルを持っているということだろう。


「さて、取り敢えず深い傷の箇所は塞がったわね。後は浅い傷の場所を」


「いや、もう充分だ。ほら」


 重傷の治療が終わったところで、もういいと言った丁子は、マットに青水晶を渡した。


「え、でも一晩寝れば明日には魔力回復してるでしょうし」


「そういう問題じゃねぇ。俺の為に魔力を使ったんだろ。借りは作りたくねぇんだ」


 戦いの最中ならまだしも、今日はもうこちらからモンスターと戦うことはないのだから、マットが魔力を使うデメリットは無いのだが、借りであることに変わりはないと青水晶を無理矢理渡す丁子。


「そ、そう?じゃあせっかくの男子からのプレゼントだし、貰っておくわ」


 マットが受け取ったところで、一国が丁子に尋ねる。


「丁子君、何があったんだい?確かに1人でモンスターを狩っていたのは危険だが、こんなにボロボロになるなんて」


 エマがずば抜けているだけで、丁子もかなりの実力者。

 戦いの途中で魔力が足りなくなり、形勢逆転される開拓者はいるが、丁子程の開拓者がそんな凡ミスをするとは思えない。


「青水晶だって持っていたんだろ。偶然複数のモンスターに遭遇してしまったのかい」


「いや違う。相手は1人だ。形は人間みてぇだった。」


 青水晶を持っているのだから魔力切れで負けたのではないことは察しがつく。

 なら、運悪く複数のモンスターを同時に相手しなければならないような状況になってしまったのかと尋ねるが、それでも無いようだ。


「人間?それはアンデットという種類に分類されているモンスターのことかい?」


「可能性はあるが、どうも違う気がする。俺達並みの知能もあった」


 一応人型のモンスターはいるが、人体模型のような骨の姿だったり、ゾンビのようなモンスターであり、知能が特別高いモンスターではない。


 知能があるという点に不思議がる一同だが、丁子は続ける。


「手が2本に足が2本。身長は2mぐらいか。だが形が人間でも容姿は人間には見えねぇ。皮膚が俺達のような感じじゃなく怪獣みてぇな皮膚してやがった。しかも武器を持ってたんだがよ、明らかにモンスターの使い方じゃねぇんだ。ちゃんとした知性を持った使い方っつうか」


「要するに人間みたいなモンスターに斬られまくったんだ」


 エマの直球な発言に、また丁子と言い合いになるかと思われたが、丁子は悔しがってはいるものの、反論はしてこなかった。


 あれだけプライドが高い丁子の様子に、皆只事では無いと悟る。

 その後、丁子が話を続ける。


「喋ってたんだよ。そいつが」


「しゃ、喋ってた!?」


 丁子の発言に先程以上の驚きを隠せない一同。


「で、そのモンスターはなんて言ってたんだ!?」


「......いや分からねぇ」


 翻訳機のアイテムを付けているのだから、どんな言語でも理解できる筈なのに、帰ってきた答えは不明だった。


「それは喋ってたんじゃなくて、喋ってるように聞こえた鳴き声なんじゃないの」


「その可能性もあるかもしれねぇが、俺にはあれが只の鳴き声とは思えねぇんだ」


 エマが指摘するも丁子曰く、声の出し方が単なる一定の叫び声ではなかったようだ。


「俺がボロボロになると、飽きたのかどうか知らねぇが、どっかに行っちまってよ。剣で戦う者同士、完全な敗北だ」


 象型モンスターの階層で人型のモンスターが現れ、しかも有数の開拓者である丁子をタイマンでここまでの深傷を負わせる。


 チームで移動している時に襲われなかった理由は、流石に数で不利だと判断したのか。

 だがそれはつまり丁子の言った様にそれだけの判断が出来る知能があるということだ。


 結局その日は、見張りの数を10人に増やすことで対策をとったのであった。






(ふう。少し買い過ぎたか)


 ショッピングモールで現地のスパイスやらお菓子やら色んな食べ物を買った公介。


 しかし、今公介はほぼ手ぶらに近い。

 日本で買おうと思っていた収納袋がインドでも取り扱っている店があり、1トン入る袋が日本円で約50万円で売っていたので購入していたからだ。


(ダンジョンの口座から引き落とされるカード使えて良かった。流石にそこまでインドルピーに換金してなかったからな)


 18時を過ぎ、ホテルへ向かった公介は濃い1日を過ごした。

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