第47話 盗賊
渋滞を避ける為、裏道を通ることにした公介。
(随分険しいな。熊でも出てきそうだ)
何が出てくるか分からない景色に不気味さを覚え、魔力を体に流し身構えてしまう公介。
「すいませんねぇお兄さん。流石に裏道ですから。快適な乗り心地とは言えませんけど......ん?あれは」
ドライバーが前方の何かに気付いた。
公介もその方向を見てみると、道の真ん中に誰か倒れているのが分かった。
「人が倒れてるじゃないですか!どうしたんでし...」
「!、まずい!」
だが運転手は止まろうとするどころか、逆にアクセルを踏み込み、倒れている人を避けながら全速力で通過しようとした。
「ちょ、何で助けないんですか!」
「伏せて!」
ドライバーは公介の言葉を遮るように叫んだ。
その瞬間、車内に響き渡る大きな音。
まるで金属と金属がぶつかり合うようなこの音は
「じゅ、銃弾!?」
「あれは怪我人じゃない!盗賊だ!」
盗賊という発言に驚く公介。
言われたとおり姿勢を低くし、先程よりさらに魔力を体に流すことで、銃弾が当たっても大丈夫なよう身構える。
何とか逃げ切ろうとするドライバーだが、車のボディに当たっていた銃弾の数発がタイヤに当たってしまい、破裂音と共にバランスを崩す車。
そのまま横の木に衝突し、車は動かなくなってしまった。
盗賊達が集まってくる中、ドライバーが話し掛けてくる。
「お兄さん。ホントに申し訳無い。最悪の思い出になるだろうが、荷物を全部渡して命だけは助けてもらえるよう祈るしかない」
「いや運転手さんはそのまま伏せてて下さい」
絶望したような顔で言ってきたドライバーと違い、公介は平気な顔でいる。
何故今伏せる必要があるのか尋ねるが、いいから目をつぶりながら伏せてと言うので、取り敢えずその通りにするドライバー。
公介は隠密スキルを使用する。
(インドの法律は知らないが、今は緊急事態だし、スキルの使用だって許されるだろう)
「あん?んだよせっかく襲撃したってのに客が乗ってねーじゃねぇか」
後部座席のドアを開けた盗賊は、ドライバー以外乗っていないことに気付き、ガッカリした様子だ。
そのまま前のドアを開けに行った盗賊の隙をつき、開けっぱなしのドアから外へ出た公介は盗賊の銃を奪い取り、膝で真っ二つに割る。
「は?」
呆気に取られている盗賊は膝関節の部分を蹴られ、足があらぬ方向へ曲がる。
上半身だと昨日の暴徒の様にやりすぎてしまう可能性があるのと、盗賊等が逃げにくい様にする為だ。
「ぐ、ぐぎゃああああ!」
倒れこむ姿に何が起こったのか理解できていない仲間達。
(やっぱり人間を蹴る感触はモンスターは違ってなんか嫌だな)
だが銃を乱射してきた相手に情けをかけるわけにもいかず、他の連中にも同じ様に銃を割り、足を蹴るを繰り返す。
次々と倒れていく仲間達を見て、とち狂ったように銃を四方八方に発砲する者もいたが、ドライバーは運転席で伏せているから当たる可能性は低い。
公介に対しても魔力で強化された体に魔力の込められていない弾丸など効く筈もない。
全ての盗賊を制圧し、隠密スキルを解除した公介はドライバーの元へ戻り話し掛ける。
「運転手さん。盗賊達見張ってるんで、警察に通報してもらえますか」
「あ、ああそうだね。分かった」
公介の言うとおり警察に通報しようとするドライバーだが、
「ま、待ってくれ!どうか見逃してくんねぇか!」
盗賊のリーダーらしき男が自分等を見逃せと懇願してきた。
「いやいや、流石にそんな虫のいい話無いですよ」
当然否定する公介だが、リーダーの男は続ける。
「子供がいるんだよ!嘘じゃない。ほら、携帯に写真だってある」
痛みからか、かなり興奮した様子で携帯の画面を見せてくる。
見てみると、確かに彼らしき男と一緒に、子供が写っている。
「子供がいるかいないかなんて関係ない。大人なんだから自己責任だろ」
「俺達が捕まったら、子供達の世話をするやつがいなくなっちまう。唯でさえ俺達はみんな貧しい生活してるってのに、そんなことになったら野垂れ死んじまうよ!今回が初めてとは言わねぇけど、殺しをしたことは1度もねぇ」
「......」
もし彼の言葉が一言一句本当のことなら情状酌量の余地もあるが、子供の写真を見せることで情に訴えかける作戦の可能性だって有り得る。
考えた末、公介は決断した。
「運転手さん。警察に通報してください」
「そ、そんな」
公介は彼等の要求を受け入れなかった。
もし彼等の作戦だったら、今後被害に遭う人達に顔向け出来ないと思ったからだ。
仮に本当だったとしても何の罪もない人達を襲っておいて、子供がいるから、殺しはしていないからとお情けを頂戴するのは身勝手だ。
「同情はするが、だからといって許す理由にはならない。スピード違反や一時不停止を見逃すのとは訳が違うんだ」
公介は彼等が持っていたロープで彼等を縛る。
被害者が抵抗した時の為に持っていたのだろう。
暫く待っているとサイレンの音が聞こえてきた。
警察が到着し、事情を説明すると、慣れた手付きで彼等を車内へ連れ込んでいく。
「都会は発展してきても、郊外はまだまだ貧困層が多いですから、こうした犯罪に手を染める人もいるんですよ。まあ相手が開拓者さんだったことが運の尽きですね」
何故自分が開拓者であることを知っていたのか尋ねると、銃で武装した集団を制圧するなんて、普段モンスターとの戦いで戦闘に慣れている開拓者ぐらいだと言われた。
貧困層が多いという言葉、そして連行されている時の彼等の涙を見て、本当の事だったのではないかと一瞬思う。
(でも襲ってきた人達を返り討ちにして警察に通報しただけだ。後悔することなんて何もない)
彼等全員が車内へ連行され、立ち去ろうとする警察に自分は事情聴衆などはないのか聞くが、
「事情なら先程伺いました。タクシーを襲ったが、お客さんが開拓者だったお陰で返り討ちにされた。他に聞きたい事なんて無いです。それに詳しく聞いたところでこいつらの罰は変わりません。集団で銃を持っていたんですから、仮にこいつらがあなたに殺されていたとしても正当防衛ですよ」
少し面倒臭そうにやり取りをする警官。
罰がどんなものなのかは分からないが聞いたとして、もしとんでもなく重い罪だったら自分のしたことを後悔してしまいそうなので聞かないことにした。
他に盗賊の仲間がいないか警戒するそうで、何人かは残るそうだ。
警察との会話が終わると、ドライバーが話し掛けてきた。
「本当にすまない。近道しようとしたつもりが、寧ろ余計に時間を取らせて、さらに命の危険にまで晒させてしまうなんて。人口が多いと悪い人が目立ってしまうが、インドにだって良い人達はたくさんいるんだ。どうかこの国を嫌いにならないでくれ」
申し訳なさそうにするドライバーを見て、乗っていたのが自分で良かったと返した公介。
「じゃあ俺はこの道を抜けたとこでまたタクシー呼ぶんで、あ、これタクシー代です」
警察も数名残っていて、タクシーもレッカー車が来るそうなので、もう自分は離れても大丈夫だろうと判断した。
タクシー代なんて受け取れないと言われたが、せめて初乗り料金だけでもと、無理矢理渡した公介は、この道を抜ける為走り出した。
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