第45話 暴徒
18時頃まで狩りを続け、インゾウの牙を100本入手した公介。
(収納袋にはまだ余裕あるけど、今日はこの辺でいいか)
このダンジョンにも帰還出来る門がちゃんとあり、11階層に来た際にあった門で出入口へと一瞬で移動する。
誰にもバレずに出た公介は、尾哲の元へ行く。
「尾哲さん。今戻りました」
「主人様。任務お疲れ様です。昼食を渡しそこねてしまい申し訳ございません」
透明服や隠密スキルを解除し、小声で話しかける公介に反応した尾哲は労いの言葉をかける。
お菓子があったからなんとかなったと言い、収納袋を渡そうとするが、
「収納袋は主人様自ら福地様にお渡しするよう仰せつかっております」
確かに自分の任務を知っているのは尾哲だけなのだから、誰かを経由せず、直接渡した方が良いのは当然だと思った公介。
「分かりました。因みにこの収納袋ってまだ入りそうなんですけど、一杯になったらもう仕事は終わりってことですか?」
「はい。赤バンドチームの作戦が終了する前に一杯になった場合は、主人様は自由行動となります。と言っても、帰りの飛行機は皆一緒の便で帰国することになっておりますので、観光でもされてはいかがでしょうか」
ここに来るまでに、ある程度日本円をインド・ルピーに両替してきた公介は、確かに観光も良いと思った。
(明日の午前中には収納袋も一杯になるだろうし、確かにそれがいいかもな)
尾哲から収納袋を渡されたとき、これには1トンの重さまで入れられると言われた。
インゾウの牙は持ったとき、かなり重かったことから、一杯になるのも近い筈だ。
流石に今日はもう日も暮れているので、ここで一夜を過ごす。
仮設の入浴場でリフレッシュし、着替えを済ませた公介は夕食を取った。
内容は意外と普通で、パサパサのパンや缶に入った食べ物ではなく、生鮮食品が多かった。
技術の発展のお陰か、収納袋で重さを感じず保冷剤を大量に持ち込めるお陰か。
どちらにせよ、ありがたいことだ。
(もう何もすることないけど、どうしよう)
寝るには早い時間だが、やることがない以上寝るしかないか悩んでいた時、
「我々の聖域を荒らすなぁーーーーー!!!!!」
突如響いた怒声と共に、大勢の人間が押し寄せてくる。
「な、なんだ!?」
あまりに突然の出来事に動揺する公介。
そいつらはスタッフ達に襲いかかり、ダンジョン周辺は大パニックに......
なることはなかった。
「総員、暴徒を鎮圧する為の戦闘行為を許可する!」
リーダーのマックがまるで想定内の出来事であるかのように、的確に指示を出す。
他のスタッフも特にパニックを起こしている訳でもなく、迫り来る暴徒達を次々となぎ倒していく。
大人と子供。
それぐらいスタッフ達と暴徒達との差は歴然だった。
1ヶ所に集められた暴徒達は、スタッフに銃口を向けられ、あっという間に包囲されてしまう。
「翻訳機のお陰で言葉は通じている筈だ。両手をあげたまま膝を着け。抵抗した場合は2度と日の出は拝めないぞ」
戦闘力の差に戦意を喪失し、マックの命令に従う暴徒達。
聞くと彼等はこのダンジョンを崇拝し、ダンジョンの成長を隠蔽していた現地人らしい。
現地人の1人が政府にダンジョンの成長を報告したとはいえ、それ以外の者らは、最後まで作戦には反対だと一歩も引かなかった。
しかし政府に作戦中の立ち退きを無理矢理命令され、こうして夜に襲撃を計画したのだとか。
(なるほど。どおりで接近が分からなかったわけだ)
魔力を持った人間が近付いてくれば、その魔力を感じ取って接近に気付くことが出来るが、象型モンスターを崇拝していた彼等は当然そのモンスターを倒してはいないだろう。
倒していないということは、透明水晶も手に入らないのだから、皆魔力が0だったというわけだ。
対してこちらはサポートスタッフとはいえ、ある程度の魔力は持っている者らばかり。
戦闘力の差が大人と子供になるのも当然だ。
「君達が何を崇拝しようが、それは君達の自由だ。だが君達がダンジョンの成長を隠していたせいで、今も命をかけてダンジョンに赴いている者達がいることを覚えておくんだな」
「俺達は助けてほしいなんて一言も言ってない!あんたらが勝手に俺達の聖域を踏み荒らしたんじゃないか!常に感謝の心を持って接すれば、爆発なんて起こるわけがない!」
あくまで主張を曲げない彼等。
スタッフ達もこういう輩が襲ってきた時を想定した行動は、作戦内容に含まれていたのかもしれない。
警察が到着するのを待っていると、
「え?」
皆より遠くから見ていた公介を狙い、物陰に隠れていた現地人がナイフを持って飛び出してきた。
公介は咄嗟に横にずれながら前へ踏み込み、片手で暴徒の胸を突き飛ばす。
「しまった!」
突然の出来事だった為、つい魔力を込めすぎてしまった。
トラックにでも追突されたかのように吹き飛ばされる暴徒。
「が...あっ...」
公介の手が当たった胸を押え、かなり苦しそうにしている。
魔法効果上昇スキルがオフになっているとはいえ、魔力が0の人間にとってはダメージが大きすぎたのだ。
直ぐに駆け寄る公介。
皆にバレたとしても治療スキルを使うべきか一瞬躊躇っていると、一連の出来事を見ていた尾哲が後を追ってきた。
「主人様。ここはお任せを」
尾哲は彼の胸に手を当てる。
すると当てられた部分が光りだし、苦しんでいた彼の表情が落ち着きを取り戻していく。
「どうやら胸骨周辺がかなり折れていたようです。私の熟練度では完治とはいきませんが、窮地は脱した筈です」
尾哲は治療スキル持ちだったのだ。
数十万人に1人のレベルと言われている程の貴重なスキル。
(副会長が派遣してくれるぐらいだから優秀な人なのは予想してたけど、治療スキル持ちだったのか)
「すいません尾哲さん。迷惑かけてしまって」
「いえ。一瞬の出来事でしたから、全員生きてる時点で正しい選択だったと信じましょう」
犠牲者が0。
公介も治療スキルを使わずに済み、丸く収まったが、もし万が一魔法効果上昇スキルがオンになっていたらと思うと、肝が冷えた。
その時、少し回復した彼がしがみつくように尾哲に訴えかける。
「頼むよぉ。あのダンジョンは俺達の心の支えだったんだぁ。殺さないでやってくれぇ。お願いだぁ」
警察が到着し、暴徒達が連行されていくが、泣きながら懇願する彼の姿に、考えこんでしまう公介。
赤バンドチームはまだしも、自分は意図的にこっそりモンスターを狩っていた。
彼らから見れば、象牙を狙う密猟者そのものだろう。
そんな公介を見かねてか、尾哲が隣に来る。
「主人様。全員が納得する結果とは、なかなか存在するものではありません。主人様のようにドロップ品が目的でモンスターを狩ることも、ごく一般的な開拓者がする行為です」
「...確かにそうですね。彼らには彼らの正義があったとしても、ダンジョンの成長を見て見ぬふりしてたのは事実ですし。」
尾哲の言葉で少し気が楽になった公介。
結局その日はもう寝ることにした。
(これだけ大掛かりな作戦なんだから、意見が分かれるのも当然だ。ちょっと否定されたからって、仕事を放棄するわけにはいかない)
尾哲が言っていたように全員賛成の選択肢なんてそうそうないんだと強く自分に言い聞かせた公介であった。
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