第43話 作戦開始

 次の日の朝。

 予定通りの時間に集合した公介等は、目的地のダンジョンへ向かう。

 ホテル前でスタッフが朝食のパンを配っており、3つ程もらった公介はバスへ乗り込んだ。






 途中休憩を挟みながら2時間程バスに揺られ、目的地に到着したが、作戦開始時刻の12時まで約2時間強。

 初めての土地なのにそんな短時間で準備できるのかと思ったが、サポートスタッフの動きは素早かった。


 あっという間に収納袋から取り出したテントや仮設トイレを建て、キャンプ場を設立し、通信機器を揃える。

 自分が特殊なだけで、彼等はエリート中のエリートだということを実感させられた公介。


 何もしない自分の場違い感も同時に感じたが、彼等はそれを気にする様子はない。

 文化祭の準備をサボる学生とは違い、ここにいる者達はそれぞれ事前に与えられた役割があって集まっている。


 様々な国の人間がいることもあり、その役割を詮索するのはご法度なのかもしれない。




 赤バンドチームの方も点呼を行っているようだ。

 人数は一国やエマのチームを含めた、

 米軍 1人

 自衛隊 1人

 露軍 1人

 印軍 10人

 開拓者 7人

 計 20人


(やはり人数が少ないな。いや、集まっただけでもありがたいと思うべきか)


 公介も思っていたように、作戦の規模に比べ人数があまりにも少なく、本当に少数精鋭チームという理由だけなのかと疑うマック。


 おそらく万が一の事態になった際、他国の問題のせいで貴重な戦力を失いたくないというのが本音だろう。


 実際、米兵と露軍の2人も知名度はあるが、軍の中で飛び抜けて実力があるという訳ではなく、言葉を選ばずに言えば、1人くらい失っても差程問題ない戦力だ。


 どちらも、一応我が国から貴重な兵士を派遣したという事実で借りを作りたいのだ。


 本当はアメリカ政府としてもエマに参加はしてほしくなかっただろうが、本人がやると言ってしまった以上、仕方がない。


 日本も自衛隊は派遣せず、物資の支援だけで済ませるつもりだったが、人を救いたくて自衛隊になったのだから自分1人だけでも行かせてほしいと、一国が意見を出し、今回の作戦に参加した。


「リーダーにはこれを渡しておく」


 赤バンドチームのリーダーであるインド軍の1人にトランシーバーのようなものを渡したが、ただのトランシーバーではない。

 レンラクモからドロップする糸を素材に、加工スキル持ちが加工したアイテムだ。


 同じダンジョン内にいるもの同士なら、どんなに離れていても連絡がとれるアイテム。

 普通の無線では届かないと判断し、支給された。


 サポートチームも穴から入って直ぐの場所に連絡を取る為の仮拠点を作る。


「距離に応じて多少だが魔力を消費する性質上、使用は必要最低限とする」


 魔力に余裕のある者が変わりに使ってもよいと付け足したしたマックは、再度作戦内容を警告する。


「今回の作戦はモンスターに見つかりにくいよう、可能な限り少数での活動だ。モンスターとの戦闘を行う度に最深部へ到達出来る可能性は低くなると思ってほしい」


「おい」


 1人の開拓者が口を挟んだ。

 マックが顔を向けると、彼は不機嫌そうな顔で言う。


「昨日もモンスターとは戦うなとか言ってたけどよ、モンスターのドロップ品は倒した奴の物って言われたからわざわざ来てやったんだぞ。いざ来てみたら戦うな戦うなって、安全な場所で寛いでる奴が偉そうに」


 彼の名はちょう のり

 日本人だ。

 彼のスキルは[鎖]。

 鎖を生み出し、敵が動けなくなっている間に大剣で攻撃する戦法を得意とする開拓者だ。

 攻撃は大振りで隙だらけだが、敵は動けないのだから彼にとっては関係ないこと。


 他に2人の仲間がいるが、彼の様子を見て慌てている。


「小さな島国からやってきた若者は随分と自信家なようだな。モンスターのドロップ品が得られなくとも、インド政府が充分な報酬を用意している筈だったが」


 冷静に返すマックに、興奮が収まらない丁子だったが、2人の仲間によって止められる。


「丁子さん、ここじゃまずいですよ」


「チャンスならきっとありますから。今は控えてください」


「...チッ」


 仕方なく引き下がる丁子。






 その頃公介は、ダンジョンへ侵入する準備をしていた。

 誰にも見られないよう物陰に隠れ、透明服を着る。

 ここまでなるべく目立たないように行動してきたこともあり、自分がいないことで、不思議がっている様子の人はいない。


 仮に内心思っている人がいたとしても、どんな役割を与えられているかも知らない赤の他人の存在を、一々周りの人に確認することはない筈。


(まあそこら辺は尾哲さんがうまいことやってくれるだろ)


 そんなことを考えていると、赤バンドチームが出発したようだ。

 入って直ぐの場所に通信拠点を建てているスタッフを尻目に内部への侵入に成功した。


(流石、一国さんやネルキスさんと一緒の任務に選ばれるチーム。もう見えねぇ)


 赤バンドチームはもう黙視では確認できない程、離れていた。


 公介の着ている透明服は足音までは消せないが、隠密スキルを併用することで消すことが出来ている。


(さて、やっと仕事の時間か)


 スタッフにバレないよう奥へと進む。

 ここまで移動して食って寝てるだけだった公介は、ようやく回ってきた自分の番にかなりやる気を出しているのだった。






 公介が侵入に成功し、モンスターを探している頃、赤バンドチームは既に3階層まで来ていた。

 ここまでの地形は、ダンジョンで最も多い洞窟タイプだ。


 普段ならモンスターと戦う為に、移動に使う魔力は温存するが、今はそれをする必要はない。


 その時、


「ん?丁度どの進路にもモンスターがいるな」


 米軍の1人がそう発言する。

 前方に魔力を感知した彼等だが、左右にも魔力を感じたことから、リーダーは仕方なく今作戦初の戦闘を行う決断をした。




「じゃま」




 いや、戦闘は既に終わった。

 彼等ですら気付かない程の速さで前に出たエマが、モンスターの頭をナイフで突き刺した。


 ナイフの大きさは小型で、モンスターと戦うには心細いように思えるが、刃先に魔力を流すことで実質刀身を伸ばしているようだ。


 魔力を武器に流しても、武器の重さは変わらないことから、エマにとってはこれくらいの大きさが持ちやすくて気に入っているのだろう。


 倒した象型モンスターは小さく、浅い階層らしい見た目だったが、彼等は倒したことよりも、エマの速さに驚いた。


「これが世界最強...」


「フンッ」


 露軍の1人の反応に、自慢げに鼻をならす米軍の兵士。

 やはり同じ母国の人間の強さに鼻が高いのだろう。

 トーマス、クロエ、マットも同じ様な反応をしている。


 流石に1体倒しただけでは、何もドロップしなかったが、こんなところで立ち止まっている余裕がない一行は、最深部へ向けてまた走り出す。






「フン!」


 一方公介は、小さい象型モンスターを発見し、いつものように走ってきた勢いをつけて蹴りを入れる。


 だが...






「え?」






 蹴りを喰らったその瞬間、小象の体に爆弾でも入っていたのかと錯覚する程、とてつもない音を立て、爆散した。


(あ、魔法効果上昇スキルオンにしてたんだった)


 いつもと同じ様に魔力100程度の蹴り(これでも低ランク帯のモンスターには充分オーバーキル)を入れたので実質魔力10万の蹴りを入れたことになる。


 今は必要ないと、発声切替スキルで魔法効果上昇スキルをオフにし、モンスターからドロップしたアイテムを確認する公介。


 透明水晶と、黒紫水晶の2種類で福地が予想していた象牙のようなものはドロップしなかった。


(まあ子象だし、そりゃ牙はないか)


 この階層で狩っても大した収穫は無いと判断し、次の階層を目指すが、昼食を忘れていたことに気付く。

 尾哲にもらった収納袋に持ってきたお菓子を入れていたことを思い出し、仕方なく昼食はそれにすることにした。

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