第42話 作戦内容

 食事会も終盤を向かえ料理を取りに行く人もまばらになった頃、ある人物が壇上へ上がる。


「今回、この作戦の指揮を担当することになったマック・グラスだ。楽しい食事会を邪魔してしまうのは申し訳無いが、そろそろ任務の内容を確認しておきたい」


 サポートチームのトップであり、事実上この作戦の指揮官であるマックがそう話すと、プロジェクターに作戦概要が映し出される。


「今回の作戦は、アメリカ、日本、ロシア、インドの軍や自衛隊、そしてアメリカと日本の個人で活動する開拓者達が最深部を目指す。それに加え、ドイツ、イギリス、フランス、イタリア、カナダも物資の援助をしてくれる」


 新しい力を活用するときはまず軍事力から。

 これはどこの国も同じなようで日本の自衛隊にスキル科が設立されたように、各国の軍隊にもスキルでの戦闘を想定した部隊が存在する。


「既に知っているであろうが、目的はダンジョン最深部にあるであろう心臓のような物体の破壊。アメリカではこれを破壊後、ダンジョンの穴が消えたことから、ダンジョンの中心核であると判断し、今回はこれをコアと呼称する。だが階層はおそらく100に届いている可能性があり、道のりは長い。つまり作戦成功の要はどれだけモンスターとの戦闘を回避しながら進むかだ」


 トーマスが車内でエマに言っていたように、階層毎にモンスターをいちいち相手していては魔力がどれだけあっても足りない上、時間もかかりすぎる。


「腕に自信がある開拓者の諸君らには物足りないかもしれんが、目的は物資の収集ではなく、あくまで最深部のコアの破壊であることを頭に入れておいてほしい。モンスターの魔力を感じとり、一番安全なルートを選択。魔力の消費は移動の際、体に流す場合のみに限定する」


 それでも最深部に到達するまでに魔力が足りなくなることは分かりきっている為、彼らには青色の水晶が支給される。

 この水晶はBランク相当以上のモンスターからドロップされる水晶で、魔力を最大値まで回復できる効果を持っている。


 手で割っても口でかじって割っても効果は一緒だが、全回復するまでの時間に差があり、後者の方が回復スピードが速い。


「尚、やむを得ずモンスターと対峙した際は、少ない魔力でも倒せる者、青水晶に余裕がある者が対処するように」


 本当ならモンスターとの相性を見ながら人選したいところだが、どんなモンスターがいるか分からない上、モンスターの攻撃を見て判断する頃には誰がモンスターを仕留めるかの競い合いになっている可能性がある。


 組織化された軍隊ならともかく、個人で活動している開拓者達は自分達のチームでの連携しか想定していない。


 開拓者はその職業柄、血の気のある者が多い。

 そうでなくとも名を上げるような連中は一癖も二癖もあるような者ばかりだ。


 この作戦が急に決まったこともあり、マックは大規模な部隊での戦闘訓練も満足に行えていない開拓者が、目の前の獲物を赤の他人に譲るとは思えなかった。


 モンスターからドロップしたアイテムは倒した者が所有権を得るというこの作戦のルールもそう思った理由の1つだ。


 まさかインド政府も、インドにあるダンジョンなのだから我々の物だと言うわけにもいかず、かといってそれぞれの国の物にしてしまうと、参加してくれる開拓者がいなくなってしまう事を懸念してのルールだ。


「以上が作戦内容だ。質問がある者は今ここで受け付けよう」


 誰もいないと思われたが、1人無言で手を上げた者がいた。


「ん?君は確かアメリカのネルキス君だったか」


 手を上げたのはエマだ。

 マックが質問を許可すると、エマは自分が手を上げたにもかかわらず面倒臭そうな表情で答える。


「空を飛ぶのはいいの?」


 その発言に他の者達も一瞬顔を上げた。

 エマを含め、一部の者は魔力を流すだけでなく魔力で空を飛ぶことも可能らしい。


 どうやったらそんなことが出来るのかは不明だが、公介も出来ないことを考えると、魔力制御の高さだけが要因ではないということだ。


「戦闘中は許可するが、移動中は控えてくれ。出来るだけまとまって行動したいからな」


 マックの答えにあまり納得がいっていないエマだったが、仕方なく了承した。

 他に質問者がいないことを確認したマックは前日の打ち合わせを終了する。


「それでは、これにて今日の作戦会議を終了する。皆は好きなタイミングで部屋に戻ってもらって構わない。明日は朝の7時にホテル前へ集合してくれ。現地までのバスをチャーターしてある」


 因みにWMデバイスの使用は許可されているが、あれは元々魔力量に自信がない開拓者でも1段階上のモンスターと戦えるように造られた物であり、エナジーコアよりも多くの魔力を扱える者、つまり魔力量が100よりも大幅に上回っているような勝ち組には、かえって扱いにくいらしい。


 なんでもサプライユニットの魔力の流れが、自身の魔力を体に流す際に邪魔に感じるのだとか。




 腹も満たされ、風呂も食事前に済ませた公介は、歯を磨いてとっとと寝てしまおうと思ったが、尾哲から夜に当日の打ち合わせを行うと言われていたことを思い出した。


 そして丁度そのタイミングで尾哲がやってきた。

 打ち合わせは公介の部屋で行われることとなり、2人は部屋へ向かった。


「主人様、当日ダンジョンへ出入りする際はこちらをお使いください」


 尾哲が渡してきたのは、透明になれるヤギ型モンスター、トウメエーの皮から加工された服だ。

 この服を着るとその名の通り透明になることが出来る。


 翻訳機同様、貴重なアイテムで、外で使うことは原則禁止だ。

 理由は男なら誰しもが想像することが原因だろう。


 最深部へ向かうチームにも支給すれば良かったのではないかと公介は尾哲に言ったが、モンスターは人間で言う視覚だけではなく聴覚や嗅覚を頼りに発見される場合があり、高ランク帯になってくると、我々同様魔力で探知してくるモンスターもいる為、あまり効果がないらしい。


 隠密のスキルがある公介には不要なのだが、それをバラすつもりはない。


 さらに収納袋と青水晶も支給され、至れり尽くせりな対応に副会長の期待を感じた。


 その後、ダンジョンへ入るタイミングはこちらで指示するとのことで打ち合わせは終了となった。


 明日も7時に集合と早い為、直ぐにベッドへ転がり、眠りについた公介であった。






 公介の尾哲の打ち合わせが終わった頃、アメリカのサポートスタッフ2人が片方の部屋で、ある会話をしていた。


「大方鑑定は済んだかね」


「はい。全員に行いましたが、少し問題が」


 実はアメリカが事前にホテルへ賄賂を支払い、スタッフの1人を食事会場出入口の受付係にしていたのだ。

 受付という職務上、全員と顔を合わせる都合から、鑑定スキルを使い、赤バンドチームや各国から派遣されたスタッフのスキルを調べ、情報を得る為に。


「問題?」


「ええ。鑑定が出来なかったスタッフが1人いまして」


「誰だ?ネルキスなら既に公になっているから、鑑定は必要ないぞ」


 鑑定スキルでは数値化やスキャナーのように、魔力量や魔力制御までは分からないがスキルを調べることは出来る。

 だが対象のスキルによって鑑定に必要な魔力量や熟練度が増え、何が基準かはハッキリしていないが、人類が有用と認識しているスキル程、どちらも要求値が高いことは分かっている。


「いえ、ネルキスのスキルは鑑定出来ました。政府が発表していたものと同じです。それに自分で言うのもなんですが、私アメリカの中ではかなり魔力量や鑑定スキルの熟練度が高いと自負しております」


「じゃあ誰なんだ。その鑑定出来なかった1人とは」


 エマ程のスキルなら鑑定出来なくとも不思議ではないと彼は思ったが、どうやら違うようだ。


「はい。日本から派遣されたサポートスタッフの1人なのですが」


「サポートスタッフだと!?赤バンドチームですらないのか」


 驚く彼は少し考えた後、さらに続ける。


「だがそのスタッフがネルキス程のスキルを持っているとは限らんぞ」


 1人鑑定を行う度に魔力を消費するのだから、偶然そのスタッフが鑑定に必要な魔力が少し高いスキルを持っていて、偶然その時に君の魔力が枯渇しかけていたのではないかと指摘する。


「そうでしょうか。それより少し前に青水晶を割ったような記憶が...」


「仮に君の魔力がまだ残っていたとしてもだ。何か鑑定を妨害するようなスキルやアイテムを持っていた可能性もある」


 彼はさらに続ける。


「考えてもみろ。サポートスタッフということはネルキス程の戦闘に生かせるようなスキルではないということだ。かといって戦闘には生かせないが有用なスキルなのだとしたら、そもそもダンジョン爆発が目前に迫っている場所に派遣すると思うか」


「危険を冒すに値するような何かを得る為とか」


「有り得なくはないが、それを考え出したらキリがない。そのスタッフが大したスキル持ちじゃないならいい。もし稀少なスキルだったとしても、鑑定が出来なかっただけで、しかもその理由も不明ならスキャナーを使うことも許可出来ない」


 感取の目で製作されたスキャナーなら数値化と同じ様にスキルだけでなく、魔力量と魔力制御の値も分かるが、製作コストが高い上に10回しか使えない貴重なアイテムを使うには値しないと、彼は判断した。


「元々、我々の調査だって上層部が決めたことだ。そのスタッフのスキルがなんだろうと私達にはどうでもいい。寧ろスキャナーを使って、もし普通のスキルだったら、無駄遣いだと怒られるのは私達だ」


 そのスタッフのスキルを知るメリットが普通のスキルだった場合のデメリットに見合わないのだ。


「一応、チャンスがあったらもう一回鑑定出来ないか試してみろ。で、そのスタッフの名前はなんだったかな」




「はい。名前は、コウスケ・アルジというそうです」

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