第41話 食事会
「はあー、疲れたぁー」
10時間越えのフライトでグロッキーになってしまった公介。
(なんか急に旋回したりするし、初体験なのに一生分乗った気分だ)
今いる場所、ムンバイから現地へはさらに車で2時間程かかるらしいが、今日は近くのホテルへ泊まるのだとか。
(現地の人がダンジョンの成長を隠蔽出来るくらいなんだから、そりゃあ都会からは離れてるわな)
滞在するホテルに着いたのは19時頃。
日本でなら22時半頃だ。
(うわぁ、高そうなホテル)
インド政府にとって我々は、いわば国民の犯した問題の尻拭いをしてもらう人間。
滞在するホテルもわざわざ予約客をキャンセルさせ、一軒丸々貸し切りにしてもらったのだ。
他のスタッフに続き中へ入ると、シンプル・イズ・ベストというような雰囲気で意外にも宝石がキラキラという訳ではなく、こういう高級さも悪くないと思った公介。
だがフロントの椅子に座ってみると、やはりここが高級ホテルであることを思い知らされる。
(もうここで寝てもいいかな)
そんな冗談を思ってしまう程の座り心地の良さだった。
「主人様、長旅での疲れはお察ししますが、お部屋まであともう一息ですので頑張ってください」
本当にここで夜を明かしそうな顔をしていたのだろうか。
尾哲に声をかけられ、我に帰った公介。
部屋に着くと、尾哲から20時にパーティー会場で食事会があることを知らされた。
「それと主人様、作戦終了まではこちらをお使いください。ホンヤムクドリからドロップする声帯を加工スキルで加工した翻訳機です。これを使えばどんな言葉も自分が話す言語に聞こえる上、自分が話す言葉もそれぞれの言語に変換されて伝わります」
「え、これって凄い貴重なアイテムですよね。まさか今回作戦に参加する人全員に支給するんですか」
後で返すのだから構わないのだろうが、全員分の数を用意するのは大変だっただろう。
尾哲が部屋から出ていき、パーティーの開始時間まで寝ていたいところだが、日本人たるもの着いたらまず風呂だろうと勝手に思った公介は湯を沸かし、風呂に浸かる。
協会のホテルに匹敵する豪華な部屋に豪華な湯船。
おそらくDランクレベルであろうモンスターを狩るだけでこんな思いをしていいのだろうかと、一瞬申し訳なく思った。
(でも誰かの役に立てるからこうして仕事を依頼されてるわけだし。別にいいか)
確かに自分の仕事は最深部を目指す人達に比べれば楽かもしれない。
しかしその人達に自分の仕事が務まらないのも事実。
要するに適材適所なのだから、いちいち考えるだけ無駄だと判断した。
風呂から上がり、尾哲から渡されたタキシードに着替え、パーティー会場に向かった公介。
(インドでもこういう場はタキシードなのか。まあどうでもいいけど)
会場へ着くと既に多くの人が集まっていた。
流石にここでは顔を隠す必要がない為、テレビで見たことがあるような開拓者や軍人が揃っているのが分かった。
(やっぱり人数は少ないけど、こんな凄い人達が集まんなきゃいけないような仕事なのか)
今回の任務の重要性を再認識したところで20時を向かえ、インドの首相、タロソフ・レドニが司会を務めた。
「今回は我が国の問題を解決する為に、わざわざ遠いところから足を運んでいただきありがとうございます。明日の作戦会議、と言いたいところではありますが、皆さん長旅でお疲れでしょう。ささやかな食事会を設けさせていただきましたので、まずは親交を深めるという意味でもお楽しみいただければ幸いです」
日本語を話せるのかと一瞬驚いたが、翻訳機を使っていることを思い出し、凄いアイテムだと実感した。
パーティーが始まり、ビュッフェ形式の料理を取っていく公介。
親交を深める為の食事会とはいえ、仲良くなってしまうと、こっそり活動しなければならない自分の任務に支障が出る可能性がある為、目立たないようにする必要がある。
(タンドリーチキンうま。ラッシーうま)
高級ホテルなだけあって料理はどれもレベルが高いと感じていた。
少し癖のある料理もあったが、好きな物だけを取れるのがビュッフェの良いところだ。
一通り食べたい物は食べ終わりお腹が落ち着いた公介はデザートゾーンに入っていた。
(この輪ゴムみたいなやつ美味いな)
インドの定番お菓子、ジャレビを気に入った公介はおかわりを取りに行ったが、もう残り少なくなっており、おそらく1人分しか残っていない。
それを取ろうとトングに手をかけた時、ふと視線を感じた公介はその方向に目を向けた。
すると、
(うぉ!マジか!?エマSネルキスじゃん!)
まさか世界最強と鉢合わせることになるとは思わなかった公介。
彼女の視線がジャレビに向いていることを察した公介は、彼女にトングを譲った。
「あ、良かったらどうぞ。俺もうこれ食べてるんで」
紳士がどういうものか分かってはいないが、少なくともここで俺が先だ、などと言ってはいけないことは何となく分かった公介はエマに最後のジャレビを譲ったのだった。
(なんかネルキスさんから魔力出てるし)
「そう。ありがと」
公介にお礼を言ったエマはトングを受け取り、最後のジャレビを取って、自分の席へ戻っていった。
「すいませーん。これ空になっちゃったんで新しいの持ってきてもらえますか」
エマが去ったことを確認した公介はホテルスタッフに補充を要求した。
それに気付いたスタッフは直ぐ様ジャレビを補充。
(高級ホテルなんだから、そりゃあ言えば補充してくれるよな)
紳士の対応をし、自分は出来立てにありつける。
これが賢いやり方だと自負した公介であった。
「良かったなエミー。譲ってもらえて」
席に戻ったエマは一部始終を見ていたトーマスにそう言われた。
「私は世界最強。譲るの当然」
よく分からない理論に首を傾げるトーマスだが、マットはなにやら不思議がっている様子だった。
「でもさっきの男子、よくエミーちゃんの前で普通にしていられたわねぇ」
マットが言ったことは、世界最強の前だと緊張してうまく喋れないだろう、という意味ではない。
エマは自分の思い通りにならないことがあると、つい魔力を外に放出してしまうのだ。
普通の人間なら大体それで腰が引けてしまうのだが、公介は全く動じていなかった。
「確かに気にはなるけど、仮にもこの作戦に参加している人よ。いくら相手がエミーとはいえ、うっかり放出した魔力程度には耐えられるんじゃないかしら」
クロエの発言でとりあえず納得したマット。
彼の方が魔力量が高いなどは夢にも思わない一同であった。
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