第40話 上空のダンジョン

 一国守。

 日本で彼の名を知らない者はいない。


 おそらく日本で初めてスキルを発現させたであろう彼は、身体強化という戦闘スキルの中では比較的メジャーなスキル持ちにもかかわらず、そのスキルを極限まで使いこなし日本最強の男、そして世界最強の身体強化スキル使いとまで言われている。


 魔力のコントロールも凄まじく、スキル無し、同じ魔力量で競いあったら誰が最強かを示すMFM(magical power for magical power)ではエマSネルキスをも凌ぐと評価されるぐらいだ。


「ははは、こんな一瞬でバレるとは。私も有名になったものだ」


 男なら誰もが憧れる人物が目の前にいることで、サインを貰いたくなった公介だが、一国も自分も仕事で来ているのだからダメだろうと、気持ちをグッと抑える。


「赤いバンダナってことは一国さんもダンジョン最深部を目指すチームの1人なんですよね」


「あぁそうだよ。日本チームの隊長を任されてる。君は...」


 自衛隊スキル科に所属しているだけあって、こういう所でも隊長を任せられるのだろう。

 確かに実力も統率力も申し分ない。


「今回サポートスタッフとして配属された主人 公介です。よろしくお願いします」


「そうか。危険な場所での任務、よく引き受けてくれたね。日本の若者もまだまだ捨てたものじゃないな」


 一国の方がもっと危険なのだから自分なんかより凄いと指摘したが、先頭に立って引っ張って行くのはベテランの役目だと自負し、やはり日本最強はメンタルも伊達じゃないと思う公介。


 当然戦えば自分の方が勝てるだろうが、そういう話ではない。

 経験、メンタル、責任感、統率力、単純な戦闘力では測れない強さが彼にはある。


「君達にも被害が及ばないよう、やはりダンジョン爆発は阻止しなければならないな。では、お互い頑張ろう」


 そう言い残し、去っていく一国を見て、自分も負けてられないと気合いを入れる公介であった。






 コックピット内


 公介達が搭乗した飛行機は離陸し、インドのムンバイへ向けて現在沖縄のやや北を飛行中。


「機長。この先のダンジョンは迂回すべきでしょうか」


「いや大丈夫だろう。成長もしていないし、場所が場所なだけに開拓者もまず訪れないからな。オーバーフローの心配もない」


 ダンジョンの穴が現れたのは地上だけではない。

 例は少ないが上空にも現れる。


 彼らの空路にもその内の1つが存在するが、機長は特に心配していなかった。


 何度か鑑定スキル持ちがヘリでギリギリまで近付き、鑑定を行ったが成長は認められず、場所の悪さから開拓者もまず出向かない。


 ということは倒されるモンスターがほぼいないのだから復活するモンスターも極端に少なく、オーバーフローの心配もないからだ。


 目の前を通るならまだしも、自分達が飛行している高さより、かなり下にあるダンジョンを迂回する必要はないと機長は判断した。


「この機体は最新だ。レーダーの電波には気象の変化だけでなく、モンスターなどにも反応するようアップデートされている。今までも何回か通ってはいるが、迂回は必要なかったからな。今回も大丈夫だろ......」


 ふとディスプレイに目をやった機長は異変に気付いた。


 目視ではどう見ても快晴なのに、レーダーではほんの一部だが、点のようなものが映っている。


「おかしいな。この時間、この場所は我々しか飛んでいない筈だ」


 機長が異変を管制塔に報告しようとした瞬間、






「な、なに!?」






 ある1ヶ所を起点に反応が一気に増え、こちらに向かってきた。

 その場所は言うまでもなく、迂回の話をしていたダンジョンからだ。


 機長は直ぐ様、管制塔にこのことを伝える。


「当機に向かってくる反応が複数ある!出現位置からダンジョンから発生した模様!飛行型のモンスターかもしれない!」


 モンスターとの発言に管制塔も驚いていたが、機長等に指示を出す。


「状況は把握した。現在、応援に向かえる部隊を探す。だがそのままでは中国の領海に入ってしまう。向かってくる反応とは逆方向に迂回せよ」


 要するに、応援が来るまで日本の領海内で逃げろとの命令に従う機長。


 幸いモンスターの速度はそこまで速いわけではなく、追い付かれるということは無さそうだ。


 数分後、管制塔からの連絡が再度届いた。


「沖縄の米軍基地から戦闘機がスクランブル発進する。それまで持ちこたえてくれ」






 米軍戦闘機部隊


「モンスターにミサイルは効くと思うか」


 モンスターと戦闘機が交戦した例は無い為、基地からスクランブル発進した戦闘機のパイロットも不安を抱いていた。


 魔力が込められていない攻撃でも一応効果はあるが、それでもかなり威力は半減する。


 機関銃でやっと倒せる敵を、ダンジョン産の素材で出来たナイフに魔力を流して攻撃しても倒せるぐらいだ。


「生物が空を飛ぶには、体が軽くなきゃいけない。つまり脆いってことだ。弾頭だけで10キロ近くあるミサイルなら流石に効いてくれなきゃ困る。まあモンスターに同じことが言えるかは分からんが」


 そんなことを話している内に目標を目視で確認した彼等は、体長20メートルはあろう、カラスのようなモンスターであることに気付いた。


「確かにありゃどう見てもモンスターだな。警告は必要なさそうだ」


「数が多い。間違って飛行機に当てるなよ」


 戦闘態勢に入った彼等はミサイルの発射用意をする。


「分かってるよ。FOX2発射する」


 放たれたミサイルが次々とモンスターを撃墜していく。


「よっしゃあ。やっぱミサイルも効果あるじゃねぇか」


 ミサイルが効いていることに安堵した彼等はその後、最後の1体を落とし、機長との通信を行った。


「こちら作戦チーム。追ってきたモンスターは全て撃墜した。もし乗客のペットだったら悪いな。保険はおりないぞ」


「こちら機長。支援に感謝する。私が飼っているインコは手に乗るサイズだが、その中にはいなかったかな」


 危機が去ったことで緊張がほぐれ、ジョークを交えた会話をする。


 そして管制塔へもレーダーから反応が消えたことを報告した。


「こちら管制塔。無事でなりよりだ。政府へはこちらから通達しておく。機体に損傷がなく、通常飛行が可能なら、そのまま目的地への飛行を再開してくれ」


 モンスターに追われはしたものの、機体に損傷はなく、どの数値も正常だったことから、本来の目的地であるムンバイへの飛行を再開すると判断した機長。


 何故モンスターが穴から出てきたのかは不明だが、それを解明するのは自分達の仕事ではない。


 幸いモンスターとかなり離れていたことから、気付いた乗客はおらず、乱気流を回避するために迂回したとだけ伝えた。


 もしニュースで報道されれば知ることになるだろうが、今ここでモンスターと交戦したことを伝えても混乱を招くだけだ。

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