第39話 防護服
福地と別れた後、あんなことを考えつつもやはり気になり、鍛冶スキル持ちが経営している店へ寄った公介。
自分も鍛冶スキルは持っているが、製作に必要な素材が無い上、製作にも国の許可はいる。
自分の店を持ち、販売の為に製作したり、凛子が通っているような学校内での使用であれば、1回許可を取るだけで何回でも製作出来るが、個人の場合は武器1つ製作する毎に許可が必要となる。
と言っても鍛冶スキルは戦闘向けのスキルではない為、店を経営するか、店に雇われる例がほとんどだ。
販売目的以外ではDクラス以上の開拓者しか武器を持てないのに、わざわざ戦闘に向かない鍛冶スキルで開拓者を目指す者は、いないわけではないが少ない。
だがこれはあくまで武器の話であり、同じく鍛冶スキルで製作できる防護服については許可は必要ない。
寧ろモンスターからの攻撃を防ぐ目的から、積極的に使うことが推奨されている。
武器同様、防護服自体に魔力が流れていたり、自分で魔力を流すなどすることで、体に流した時に得られるメリットはそのまま、モンスターからの攻撃をより軽減させることが出来る。
自衛隊の戦車が巨大なゴブリンに潰されたことから、魔力を伴った攻撃は、同じく魔力が流れた体や防護服で防ぐ方が有効とされている。
魔力を流せるのは、自分の体かダンジョン産のアイテムに限られるが、エイル社のマベルが開発したWMデバイスに使われているサプライユニットや武器はダンジョン産のアイテムでは無いにもかかわらず魔力を流せるらしい。
マベルが天才と言われている理由の1つだ。
(武器は許可が間に合わないから仕方無いとはいえ、防護服ぐらいはみかけだけでも用意した方がいいよな)
「いらっしゃい」
店に入ると、元気の良い声で店主が出迎える。
武器や防護服はモンスターの皮や採掘スキル持ちが取ってきた鉱石が主な素材だ。
防護服の種類は様々で、全身に纏う鎧の様なものもあれば、
(こんなちっちゃいので意味あんのか)
公介が手にしたイヤリング型の防護服もある。
最早服と呼んでいいのか分からないが、カテゴリーは同じだ。
「こんなんでモンスターの攻撃を防げんのかって顔してんな。あんちゃん」
公介が眺めていると、店主がやってきた。
「確かに見て呉れは頼り無いが、原理が少し違ってな」
店主の話を聞くと、普通は体より頑丈な素材で出来た防護服に魔力を流すことで、攻撃を効果的に防ぐが、このイヤリングは魔力を流すことで、体に魔力の壁のようなものをコーティング出来るらしい。
「防護服に比べると確かに防御力は劣るが、服じゃないってのがポイントだな」
防護服は重ね着出来る。
普通の服に見える防護服の上に鎧の様な防護服を着るなどだ。
ただ、着れば着る程流す為に必要な魔力の量も増え、重さも増すことから、こういったイヤリング型を併用する事が多い。
「なるほど。じゃあこれとこれと、これ下さい」
イヤリング型の防護服と、ジャケットとジーンズ型の防護服を買うことにした。
「あいよ。イヤリングが3万、ジャケットが7万、ジーンズが5万だ」
ダンジョンでの収入の口座から引き落とされるカードを作っていた公介は、それで支払う。
それ程貴重な素材では無いのに、一式で15万は高いが、数千万稼いでいる今、あまり痛い出費では無いと思ってしまう自分が怖かった。
次の日、空港に到着した公介は一般とは違う窓口へ案内される。
今回ダンジョンへ応援に行く者達には専用の便があるらしい。
そこで公介は青色のバンダナを渡され、腕に巻くよう促される。
最深部を目指すチームは赤、サポートチームは青と、色を分けるらしい。
搭乗には時間があり、どう時間を潰すか考えていると1人の男性がこちらに話しかけてきた。
「主人 公介様でお間違いないでしょうか?」
「はい、そうですけど」
公介が答えると、男性は自身の自己紹介と話しかけた理由を説明した。
「今回、福地副会長の命に依り、主人様の任務のお手伝いをさせていただくことになった
異国の地で1人秘密裏に任務を遂行するのは不安だろうと気を利かせた福地は、専属のアシスタントを1人付けてくれたのだ。
「それは助かります。こちらこそよろしくお願いします」
詳細は夜、宿泊施設に着いた後話すということで一旦別れた。
もう少しで搭乗時間になるということでトイレを済ませた公介は、赤いバンダナを付けた人達を見かける。
数えたところ4人しかおらず、予想より人が少ないことに不思議に思ったが、この作戦に選ばれる程の実力者で、尚且つ危険な橋を渡る覚悟のある者は限られてくるということだろう。
(少数精鋭ってことか)
赤いバンダナを付けている4人は、マスクやサングラスで顔を隠している。
それ程有名な開拓者ということなのだろう。
(芸能人並に人気な開拓者もいるからな)
珍しいスキルを持っている者、金の力で高価な武器や防護服に身を包み戦う者、本当に努力でのしあがる者。
様々な人達がいるが、共通する点が1つ。
ダンジョンで活躍する者は格好いいのだ。
モンスターと戦い、未知の資源を取ってくる姿は、子供達にとってもヒーローのように見えるだろう。
実際ヒーローショーのバイトや特撮作品のオーディションは戦闘シーンに生かせるスキル持ちが採用されている。
最近では秘境に行く番組で現地の村人の中に凄い開拓者が居た回が神回と言われていた。
さらに、人里離れた場所にあるダンジョンへ行ってみた動画を投稿する開拓者など。
貴重なアイテムを取ってくることだけが開拓者の生き方ではないことを体現する者もいる。
(でもここにいる人達は尊敬するよなぁ。自分以外の為に命をかけられるんだから)
他国のダンジョンの危機なんてどうでもいいと思う者なんて幾らでもいるだろう。
まして今回は現地の人達が隠蔽していたことが原因で、手遅れ寸前のところまでダンジョンが成長してしまったのだから。
そんなことを思いながら搭乗口へ歩いていると、前にいた人に気付かず、ぶつかってしまった。
「あ、すみません。考え事してて。大丈夫ですか」
「いやぶつかってしまった時点でお互い様だ。こちらこそすまない。」
赤いバンダナを付けたその人は特に怒る様子もなく、紳士的な態度で公介に接した。
彼も顔を隠していたが、そのままは失礼だと思ったのか、マスクとサングラスを取って謝罪してきた。
「え、まさか!?」
公介は開いた口が塞がらなかった。
彼の顔が、日本人なら誰もが知ってる有名人そのものだったからだ。
「一国守さん...ですか!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます