第26話 特急券

 また少し歩き、オガシロが見つかると今度は凛子の番になった。

 するとガイドは凛子に木刀を手渡した。

 女の子だからサービスだとか。

 確かに火のスキルを持っている千尋でさえ、魔力を全部使ってやっと倒せるのだから、戦闘向けスキルが無い凛子には武器無しでは厳しいかも知れない。


 ガイドは千尋と同じ様に、オガシロが尻尾を捨てるとこまで戦い、そこから凛子にバトンタッチした。


「千尋に出来たんだから、私にだって出来る筈」


 先程の2人とは違い、凛子は左腕を囮に差し出そうとはせず、そのまま戦うつもりらしい。


 何か作戦があるのかと、皆黙って様子を見守っている。


「はぁ!」


 次の瞬間、凛子は飛び掛かってきたオガシロを木刀ではたき落とす。


 地面に転がるオガシロの元へ駆け寄り、腕や肩に魔力を流し、上からおもいっきり突き刺す。

 木刀はオガシロを貫通し、オガシロは地面に吸い込まれるように消えた。


「やった」


 倒したことを確認すると、凛子は小さくガッツポーズをとる。


「やるじゃねえか姉ちゃん」


「俺でも魔力全部使ったってのに」


「デカイのは口だけじゃ無かったってことか」


 木刀を持っていたとはいえ、魔力を残して勝利したことに、素直に褒める3人。


 千尋同様、ガイドが1匹目よりダメージを与えていたことで、動きが鈍くなっていたこと、さらにガイドと千尋の戦闘を見ていたことで、オガシロの動きを捉えることが出来たのだろう。


 これで、まだ戦っていないのは公介だけとなり、オガシロを探す為また歩きだす。


 オガシロが見つかったところで、ガイドが驚きの発言をする。


「公介...だったか、今度は最初からお前1人でやってみろ」


 先程の2人のように、途中までガイドが戦ってからではなく、オガシロが万全の状態から戦えと言うのだ。


 驚く3人だが、ガイドは分かっているかのように付け加える。


「この2人の目は誤魔化せてもCクラスの俺は誤魔化せないぜ。兄ちゃん、結構魔力量あんだろ」


 魔力制御が上手くなればモンスターや他人の魔力を感じとることが出来る。


 公介は流石に普段から4桁ある魔力を外にだすわけにはいかないので、自身の魔力はある程度抑えているつもりだった。

 これも魔力制御が高いからこそ出来る芸当だ。


(抑えすぎても、魔力が無く見込みなしって思われたくないから、少し出してたけど、これは逆にチャンスだ)


 万全のDランクモンスターを1人で倒せば、特急券を貰える可能性はグッと上がる筈だと判断し、その提案を受けた。


「大丈夫か公介。俺は火のスキルがあったのにやっと倒したんだぞ」


「私だって木刀があったから倒せたのよ」


 心配する2人に大丈夫だと伝え、オガシロの前に出る公介。


 その様子を見守る3人。

 ガイドも、危なくなったら直ぐ助けに入れるよう、身構えている。




 先に動き出したのはオガシロ。

 高くジャンプし、自慢の尻尾を振り下ろしてくる。


 だが、公介は半身になり、ギリギリのところで躱す。

 ガイドも一瞬助けに入ろうと思った程だ。


「おい...ホントに大丈夫なのか。ギリギリだったぞ」


「なんとか避けられたけど、次は当たるんじゃないの」


 公介の躱し方に焦る2人だったが、ガイドは違った。


(本当にやっとの思いで躱したのか。それにしては余裕ありそうだったが)


 尻尾を振り下ろし、隙だらけになるオガシロを公介は蹴り飛ばす。

 しかし、オガシロは少しよろけるくらいで全く効いている素振りを見せなかった。

 それもその筈。

 公介の蹴りは、まるで小石を蹴飛ばす程しか足が動いていないのだ。


「まずいぞ、尻尾攻撃にビビっちまって体がうごかないんじゃないか」


「いや、わざとあれぐらいの蹴りにしたのかもしれないわよ」


 焦る千尋に凛子は冷静に返す。

 ガイドは公介の様子を黙って見ていた。

 その後も、ギリギリで躱しては少し蹴る、を5回程繰り返したところで、オガシロが一旦下がる。


「なるほどな、そういうことか」


「え?」


「なにがそういうことなんですか?」


 ガイドは公介の作戦が分かったようだ。

 千尋と凛子はまだ分かっていないようで、ガイドに問いかけた。


「オガシロは今の攻防でこう思ってる筈だ。奴は自分の攻撃をやっとのおもいで躱し、力も全然無い。となると、今より速く動けば攻撃が当たると思うだろう」


 ガイドの説明で2人も納得したようだ。

 そしてオガシロも正に今、自分の尻尾を切り離していた。


(だがノーダメージでその状態にならせたら、より一層速く動かれるぞ。あまり得策とは言えねーな)


 ガイドのときのようにダメージを食らっていないことから、1匹目のときよりも速く感じた。

 だが、公介は顔色1つ変えず、奴が噛みついてくるのをじっと待っていた。


 千尋のときのように対処しようにも動きが速く、そもそも木刀が無い今、どうやって迎え撃つのか、3人は目を離さなかった。


 オガシロが飛び掛かってきたところで、公介もそれに合わせ、前へ飛び掛かる。


「はぁ!」


 オガシロが噛み付こうと、口を開けたところで、口のなかに魔力を込めた右手を、突き刺す。


 オガシロは体を痙攣させるが、直ぐに動かなくなり、地面へ消えていく。


(なるほど。敢えて速く移動させることでカウンターの貫通力を高めたのか。作戦は良いが少し危ないな)


 ドロップ率上昇はオフにしていた為、ドロップはしなかった。




「スゲーじゃねぇか公介!」


「良くあいつの動きについていけたわね」


「まあ、ビギナーダンジョンで透明水晶かなり割ったからな」


 駆け寄ってくる2人に、そう返す公介だが、ガイドは1人で考えていた。


(ん?最後の一突きは、明らかに魔力を使った攻撃だったが、消費した魔力が元に戻ってるように感じるのは気のせいか)


「どうでした?特急券貰えるレベルでしたか?」


 公介に話し掛けられたことで、一旦考えを中断する。


「あ、あぁそうだな。ハッキリ言おう。3人とも合格だ」


 それを聞き喜ぶ3人

 まだ開拓者として活動するか決めていない凛子まで一緒になって喜んでいるのは、それだけ頑張ったということだろうか。


「3人とも、俺が途中で助けに入らなくても倒せた時点で、かなり見込みあるぞ。但し」


 ガイドは公介の方を見て続ける。


「敵に速く移動させてカウンターの貫通力を高める発想自体は評価するが、あんまり危ない橋を渡るんじゃないぞ。まあ1人で戦わせた俺が言えたことじゃないが」


「はい。気を付けます」


「お前そんなこと考えてたのか。男なら力ずくでなんぼだろ」


「あんたはそれしか出来ないんでしょ」


 体験はこれで終了と言われ、来た道を引き返し、出口へ向かう。


 その途中、公介はガイドにスキルは発現しているのか聞かれたが、まだ発現していないと答えた。

 ガイドは、その返答でまた考え込んでしまったが、出口へ着いたところで今日は解散となった。






 彼らが帰った後、ガイドは受付係に小型のカメラを渡していた。

 受付係はそれを受け取ると、ガイドに話し掛ける。


「どうでしたか?彼の様子は」


 実は3人が到着する前、受付係は、3人を担当するガイドに彼らの戦いを撮影して欲しいと頼んでいたのである。

 いや、正確にはその中の1人を、だが。


「どうだったかをそのカメラで調べるんだろ。無傷のDランクモンスターを倒させるなんて、見てるこっちがヒヤヒヤしたぜ」


 ガイドは不機嫌そうに語る。

 公介の奥多摩のビギナーダンジョンでの一件で、近辺のダンジョンや、チイチュウの羽の用に買取金額が高いが極低確率でドロップするモンスターがいるダンジョンに彼が来た際には、協会へ報告せよとの通達が来ていた。


 彼の様子を撮影するよう依頼していたのも、ツアーとのことでこれは都合が良いとの判断だった。

 さらにもしかすると戦い方にもドロップのヒントがあるのかもしれないと予想し、無傷のモンスターと戦わせるよう依頼した。


「Cクラスである貴方なら直ぐ助けに入れると判断したからですよ。では、これが報酬です」


「いらねぇよ。隠し撮りなんてしたかねぇが、あんたら協会の人間直々の頼みだから仕方無く受けたんだ。金の為にやったんじゃない」


「なるほど。でも体験ツアーの概要には資料作成の為、ツアー中の映像は記録する場合がございます、との記載があったので隠し撮りではありませんよ」


「単なる資料作成の為に、わざわざ協会の人間が調べるのかよ」


 受付係はこれ以上は機密事項だと言い、彼との会話はここで終了となった。






 後日、協会ではカメラ映像の解析を行っていた。


「確かに、ビギナークラスとは思えない動きだが...」


「倒してもドロップしていないところを見ると、奥多摩のビギナーダンジョンでの一件とは関係なさそうに見えますね」


「いや、あの羽や水晶の量は運が良かったで済ませるような数字ではない。絶対何かある筈だ」


 協会の人間が映像を見ていると、さらにもう1人が扉から急いで入ってくる。


「ドロップ率上昇のスキル持ちとの連絡がとれました!」


 彼は、日本に僅かながら存在するドロップ率上昇のスキル持ちとのコンタクトをとっていた為、遅れてしまったのだ。


「おぉ!そうか!でどうだった?何か分かったか!?」


 しかし、あまり進展する話は聞けなかったようだ。


 彼の話によると、ドロップ率上昇は消費魔力や熟練度が存在せず、常に発動しているスキルの1つで、スキルをオンオフ切り替えることは出来ないのだそう。

 しかも発動するにしても、ビギナーダンジョンから稀少なアイテムがたくさんドロップすることなどあり得ないらしい。


 公介は発声切替スキルでそういったスキルもオフに出来、ドロップ率上昇値も自由に設定出来るからこそ可能なのだが、そんなこと知る由もない彼らには謎のままだった。

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