第25話 ツアー当日

 Dランクダンジョン体験ツアー当日。

 場所は東京都八王子市にあるDランクダンジョン。

 都会のDランクダンジョンなだけあって、設備も整っている。

 ダンジョンの前に集合だが、ツアーガイドのような存在はいない。

 企画した会社の職員2名とCランク開拓者5名がいるだけだ。


 といっても開拓者がガイドをするのだから、会社からガイドを別で雇う必要はない。


 開拓士免許がない者をダンジョンへ入れるには、色々と特別な許可が必要で面倒臭いのだ。


 少し早く到着したが、3人1組で予約している為(Cクラス開拓士1人につき、ビギナークラスを付き添えるのは3人まで)、待機していたCクラス開拓者の1人と挨拶を交わし、直ぐに出発となった。


「俺にとってはぬるいランクのダンジョンだが、お前たちにとっては未知のランクだからな。油断するなよ」


 ガタイが良く、頼りがいがありそうなガイドだが、ダンジョンが出現して5年しか経っていないのにもうベテランのつもりなのかと疑問に思ったことは内緒。


 少し歩いたところで、初のDランクモンスターと対峙した。

 1m程のトカゲ型モンスター、オガシロだ。

 このモンスターは白い尻尾が特徴で、高くジャンプしてからの尻尾での振り下ろし攻撃が危険だが、その後の隙も大きい。


「これがDランクモンスターか。やっぱビギナーとは違うな」


「ええ。開拓者として活動するならこんなモンスターも簡単に倒さなきゃいけないってことかしら」


「そういうことだな」


 千尋も凛子も初めて、対面するDランクモンスターに面食らっている。

 公介も魔力が高いとはいえ、やはり初めてのDランクに気を引き締めた。


「お前ら、まずは俺が手本見してやっから、隙あらば自分が、なんて思うなよ」


 そういってガイドは一歩前へ出る。

 オガシロは彼に狙いを定め、ジャンプからの振り下ろし攻撃を仕掛けてくるが、彼は体格からは想像できぬ、軽いステップでそれを躱すと、パンチでオガシロを吹き飛ばす。


 開拓者は基本的に鍛冶スキルで製作された武器を使うが、ガイドの場合、それだと一瞬でDランクモンスターを倒してしまう為、敢えて素手で戦っている。


「スッゲー!Dランクモンスターがまるで子ども扱いだ!」


 千尋が興奮していると、ガイドは、まだ終わっていないと発言する。


「奴は尻尾での攻撃が効かないと、自ら尻尾を切り捨てる。奴の尻尾は相手にダメージを与えやすいよう重く出来てるからな。それを切り離したときの速さは侮れないぞ」


 その忠告通り、オガシロは尻尾を切り離し、3分の2程のサイズになると、先程より数段速く動き回る。


「只でさえ洞窟は暗いのに、白い尻尾が無くなったら、もっと見えずれーぞ」


「これでDランク...まだ上に4つもランクがあるなんて」


 Dランクとビギナーランクとの境界線が予想より 太いことに驚く2人。


「奴の動きは、奴の魔力を感じとれば対処できる。だが、今回は今のお前らでも出来るようなやり方で倒してやるから見てろ」


 そう言うと彼は左腕を前に差し出し、オガシロを挑発する。

 挑発に乗ったオガシロは彼に向かって走りだし、左腕に噛みついた。


 しかし、彼は顔色一つ変えず、

 オガシロを地面に叩きつけ、右足で踏み潰した。


「こいつは尻尾の攻撃と尻尾を切った後の速さが取り柄だからな。噛む力自体はそんなに強くない。今のお前ら程度の魔力や魔力制御でも、1ヶ所に短い時間ぐらいなら魔力流してガード出来るだろ」


 そう言うと彼は、次はお前らにも戦わせると言い、次のオガシロを探す為に、歩きだした。


 少しするとまたオガシロと遭遇し、ガイドは先程と同じように尻尾攻撃を躱し、尻尾を切り捨てるよう誘導する。


「よし、じゃあえっと...千尋だったか。お前やってみろ」


 3人は驚く。

 確か体験ツアーはガイドが弱らせたモンスターを体験者複数人で相手をする決まりだった筈だ。


「いいんだよバレなきゃ。お前らも特急券狙ってんだろ。3人がかりでやらせたら誰が見込みあるか分かりずれぇじゃねぇか」


 そんな適当でいいのかと思う3人であったが、特急券を狙いやすい環境を提供してくれるのは、確かに有り難いことだった。


「よぉし!いいところ見せようじゃないか!」


 千尋は元気良く前に出る。

 先程の手本と同じ様に、魔力を込めた左腕を前に差し出す。

 体の一部分に魔力を流すことはそれ程難しくはないのだ。


 それを見たオガシロが腕目掛けて飛び掛かってくる。

 1匹目よりガイドが与えたダメージが強かったのか、先程より少し遅い気がする。


 作戦通り左腕に噛みつかせることに成功する。

 若干痛そうにしているが、Dランクモンスターに噛み付かれて、ビギナークラスの開拓者がこの程度なら、充分ダメージを軽減させていると言っていいだろう。


「クソ、今ので結構魔力使っちまった」


 初めて故に、どれだけの魔力でガードすればいいか分からず、元々少ない魔力を過剰に使ってしまった千尋。


「こうなったら!」


 オガシロの胴体を右手で掴み、噛み付かれている左腕を、手先まで無理矢理スライドさせる。

 そして、


「燃えちまえ!」


 左手から炎を出し、オガシロの体内を直接燃やす作戦に出た。

 手を離そうと暴れるオガシロだが、千尋の右腕がそれを許さない。

 徐々にオガシロの抵抗は弱まっていき、千尋の魔力が無くなるのと同時に力尽きた。


「ヨォッシャー!」


 初めてDランクモンスターを倒したことで、喜びを露にする千尋。

 噛みつかれたままスライドさせたことで左腕は傷だらけだが、本人があの様子なら深傷ではないのだろう。


「たった一匹に魔力全部使っちゃうようじゃ、後先不安ね」


「まあまあ、初めてのときぐらい喜ばせてやれよ」


 凛子の辛口コメントをフォローする公介だが、千尋には聞こえていなかったようだ。


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