第24話 初収入

 8月上旬、公介は奥多摩のビギナーダンジョンに来ていた。

 人に見られないよう都会からあえて外れた場所を選んだ。

 そしてこのダンジョンは3階層までビギナーダンジョンに認定されていることから、さらにダンジョン内でも人が分散するのだ。


 公介は入り口で受付を済ませ、ダンジョンへ入り、ビギナーの階層で一番遠く、人が少ないであろう3階層へ向かう。


 このダンジョンの1、2、3階層に出現する小鳥のモンスター、チイチョウからドロップする羽は、小さい鳥の割に羽の品質が高いため、かなりの価値がある。

 さらに羽が持つ魔力によって、この羽で作った布団は疲れが取れると評判だ。


 しかし、只でさえビギナーモンスターはドロップ率が低いのに、この羽はチイチョウがドロップするアイテムの中でもさらにドロップ率が低い。


 にもかかわらず、常に空を飛んでいることから素手で倒すのは困難な為、飛び道具や遠距離を攻撃出来るスキル、魔力を体に流しジャンプするなどが攻略法だが、どれもビギナークラスの開拓者には厳しいのだ。


 故に儲けるためにチイチョウを倒しに来たと言ったら笑われてしまうだろう。


 だが公介にはドロップ率上昇スキルがあるだけでなく、魔力で体を強化すればジャンプも余裕で届く。

 故に取り放題なのだ。

 それもここへ来た理由の1つ。


 因みに、中の広さはダンジョンによって差が出るが、入り口から次の階層への階段まで約10キロが一般的。

 基本的には、横も広く高さもあり、出入口の大きさを考慮しなければジェット機も飛行できそうだ。


 一番多いのは洞窟のような地形で、このダンジョンもそれに当てはまるが、底が見えず、壁と壁を繋ぐように道が出来ている階層、樹海のような階層など、様々な地形が確認されている。


 そして階段を降りた先には、人1人が通れるほどの門が階層毎にあり、帰りのみダンジョンの入り口に一瞬で移動できるので、帰り道の時間はそこまで気にしなくてもよい。




 公介は、隠密スキルを使い、魔力を体に流し、3階層まで駆け抜けた。

 到着すると、やはり人は1人もいない。

 こんな街外れのダンジョン、しかも稼げない階層に来る者は、精々4階層以降を目指す、Dクラス以上の開拓者だろう。


 今のうちに倒せるだけ倒してしまおうと、隠密スキルを維持し、魔力を体に流しながら、まずは飛んでいるチイチョウを1体ジャンプして倒す。

 パンチを喰らったチイチュウが地面に吸い込まれるように消えていく。


 すると透明と黒紫の水晶、チイチュウの羽の計3つがドロップした。


(3つ同時にドロップするのは嬉しい誤算だな)


 モンスターがドロップするアイテムは1種類とは限らず、稀にアイテムを2種類以上同時にドロップする場合がある。


 ドロップ率上昇は1種類だけでなく、そのモンスターからドロップするアイテム全種類がドロップするようだ。


 その後も飛んでいるチイチョウを、文字通り飛ぶ鳥を落とす勢いで落としていく公介。

 数時間狩り続け、午後に差し掛かったところで今日は終わりにすることにした。

 まだ狩ってもいいが、全種類ドロップするせいで、持ってきた袋が一杯になったのだ。


 モンスターは、倒しても1日経過することで同じ階層にまた出現する(同一の個体かは不明)。

 ドロップする資源が枯渇しないという意味では有り難いことだが、オーバーフローのことを考えると、素直に喜べない。


 2階層へ続く階段の前にある門へ行き、1階層へ移動する公介。

 実は初体験であり、少し驚いた。

 聞いていた通り、ダンジョンへ入って直ぐの場所に一瞬で着くと、出口を出て受付に袋一杯の羽と黒紫水晶を渡す。


 ここのダンジョンは人が少ないこともあって、入退場の受付と、ドロップ品の買い取りは、同じ人が担当している。


 透明水晶は報告せずとも、その場で割って使うことが許可されている為、ドロップしたときに毎回割っていた。


「査定お願いします」


「お疲れ様です。ではご確認をさせていただ...」


 袋を確認しようと、中身を見た瞬間、女性の手が止まる。


「し、失礼ですが、これは開拓者様が今日1人で得た収集品でお間違えないでしょうか」


 当然、公介はこうなることを予想していたので、特に焦らず答える。


「はい、間違いないです」


 受付の女性は、その返答を聞き、査定を開始する。


 公介の返答を信じたのかは不明だが、そもそも疑いようがない。

 仮に何らかの手段で他の開拓者のアイテムを盗んだとしても、今日受付を済ませ、中に入った開拓者全員でも集めきれない量だからだ。


 量が量なだけに、査定に時間がかかっているらしく、しばらく待たされたが、それも終わったようで女性が戻ってきた。


「チイチョウの羽が2キロで200万円、ビギナーモンスターの黒紫水晶が20キロで2万円、合計202万円での買い取りとなりますが、金額が高額な為、口座へのお振り込みとなります」


 羽の相場も調査済の為、金額にも大して驚かない。

 自由設定スキルを発現したときの驚きに比べれば、事前にある程度金額が予想出来ている買い取りなど屁でもない。






(こんな簡単に200万かよ!?)






 やはり少しは驚いているようだ。


 通帳は持ってきたが、国が管理する、開拓者専用の口座を作れるそうだ。

 ダンジョンで稼いだ金額だけの口座を作るもありだと思い、新しく開設することにした。


「では、1%の手数料を差し引かせていただき、199万と9千8百円となりますが、9千8百円は今お渡しすることも可能です。いかがいたしましょう?」


 公介は言われた通り199万円は振り込んでもらい、残りはその場で受けとることにした。


 買い取りが終わり、その場を後にした公介。






 その後、彼女はある場所と連絡をとっていた。

 日本ダンジョン及び開拓者管理協会。

 政府だけではダンジョンや開拓者を管理しきれないと判断し設立された、言わばダンジョン、開拓者管理用の政府である。


 彼女が此処とやり取りするのは、今日で2回目。

 1回目は公介のドロップしたアイテムを査定していた時である。


 その時はどう考えても1日では集められない程のドロップ品を持ってきた為、指示を仰いだのである。

 回答は、特に何か違法なことをした証拠がないなら、その場で買い取っても構わないとのことだったが、一応免許証のデータをこちらに送っておいてくれとの指示を受けたので、受付の際入力してもらった免許証の番号を送信した。


 そして2回目、今度は向こうから電話がかかってきた。

 内容によると、彼がダンジョンへ出向くのは2回目。

 1回目は港区のビギナーダンジョンへ行ったらしいが、特にドロップ品の買い取りは無かったとのこと。


「つまり1回目はスキルを取得する為にダンジョンへ向かい、現在確認されているドロップ率上昇スキルより、もっとたくさんのアイテムを入手できる何らかのスキルを手に入れた、ということでしょうか」


 もし、そんなスキルがあるなら、需要と供給のバランスを崩しかけないとんでもないスキルだ。


 後はこちらで調査すると言っていたが、被害者が出ているわけではない為、あまり強制力のある調査は出来ないとのこと。

 気にはなるが、かといって自分に出来ることも特にないと判断した彼女は電話を切り、通常業務に戻った。




 さらにその後、帰宅途中の公介は、電車に揺られながら先程の買い取りについて考えていた。

 もしかしたらドロップが多いせいで怪しまれ、管理協会辺りに連絡しているかもしれないと。


 しかし、自由設定のスキルさえ隠せるなら、後は別に構わないと思っていた。


 ドロップ率上昇は高いクラスの開拓者になったところで、使えばどうせ怪しまれる。

 いくら高ランクモンスターのドロップ率が低ランクモンスターより高くても、毎回全種類ドロップするなど有り得ないからだ。


 かといってこんな便利なスキルの存在を知ってしまった以上、使わずに倒したら、ドロップしなかった度に損した気分になりそうだ。


 遅かれ早かれその時は来るのだから、別に今だろうが10年後だろうがどうでもよかった。


(悪いことをしているわけじゃないんだ。寧ろ堂々としていないと、かえって怪しまれるし)


 それに政府だって馬鹿じゃない。

 そんな貴重なスキルがあるならば、他の国に取られないよう、自分のことを公にしようとは思わないだろうと高を括っていた公介であった。

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