第23話 ツアーへの誘い

「「ツアーに行きたい?」」


 公介と凛子が千尋の発言に口を揃えて答える。


 あれから何日か経過し、今は7月下旬夏休み期間中だ。

 3人でゲームセンターに行った帰り、カフェに寄ったのだが、千尋が2人にあることを誘ってきた。


「そうだ。Dランクダンジョンツアー、夏休み中に皆で行こう!」


 彼の言う、Dランクダンジョンツアーとは本来成人しか入れないDランクダンジョンに入ることの出来る体験ツアーのことである。


 勿論誰でも入れるわけではなく、色々と条件がある。




 ・ビギナークラスの免許を所持し、ビギナーダンジョンへ1回以上入場したことがある。


 ・Cクラス免許を所持した者が体験者3人につき最低1人付き添う。


 ・入れるのは、ダンジョンの1階層目のみで、それより下の階層はランクがDでも不可。


 ・ダンジョン保険の救援チームが15分以内に駆け付けられるダンジョンに限る。




 開催するのは民間のダンジョン企業だが、元々この体験制度を作ったのは政府である。


 ビギナー免許のうちに、Dランクダンジョンを経験させることで、これは遊びではなく、戦いであることを再認識させ、将来Dランクダンジョンへ出向いた時の為に、心を慣れさせておくという狙いがある。


 ダンジョン保険とは、万が一ダンジョンで救援が必要となった際、外部から保険会社に所属する救援チームが現地へ救援に行くシステムのことである。

 ダンジョン内同士での通信が可能なことを利用し、まずダンジョンの出入口に有線で通信機を繋ぎ、ダンジョンからの救援要請をダンジョン内側の通信機が受信、それを有線で外側の通信機へ繋ぎ、そこから各地の保険会社へ飛ばすという仕組みだ。


「ダンジョンツアーねぇ。まあ確かに、開拓者として活動するか迷ってる今なら、体験してみるのもいいかもね」


 凛子が賛成し、流石に自分だけ断るわけにもいかず、公介も了承した。


 スキルがバレるなら行きたくないが、体験ツアーは1人でモンスターと戦うことは無く、Cクラスの開拓者が倒すところを見学するか、ある程度ダメージを与えたモンスターを体験者が複数人で戦うかのどちらかだけだ。

 流石にスキルがバレる心配は無いだろうと判断した。


 ツアー代金は10000円。

 現地の職員に払うらしい。

 特に迎えのバスがあるわけでもなく、食事が付くわけでもない割には高いと思うが、Cクラス開拓者を雇うにはそれだけ人件費がかかるのだろう。


 Cクラスの平均的な収入は、サラリーマンと同じか少し高い程度で、家族がいても食べていける程には稼げるクラスだ。


 Dクラスの収入は、1人暮らしなら問題無いが、家庭を築くのは少し厳しい、というクラスだ。


「この体験ツアーでDクラスへの特急券をゲットしてやるぜ!」


 ダンジョンでCクラス開拓者がダメージを与えたモンスターを、体験者複数人で倒す際、見込みありと認められた者は、18(高校卒業済)、19歳は直ぐに、16、17歳も18歳になり高校卒業と同時に、本来20歳にならないと受けられないDクラスへの昇格試験を特例として受けられる。

 尚、親の承諾書が必要。


 通常より早くDクラスへ昇格するチャンスが与えられる為、特急券と言われている。

 ツアー参加者の多くがこれを狙っているといってもいいだろう。


 千尋の気合の入れように凛子は呆れるが、公介は内心自分も特急券を狙おうと思っていた。

 特急券はそう簡単には認めてもらえず、火のスキルを持っている千尋でも貰えない確率の方が高いだろう。


 つまり、自分だけ特急券を貰い、試験に合格すれば、少なくとも2年間は1人で活動できる。

 スキルがバレたくない公介にとっては、悪くない選択肢だ。


 日程は8月の中旬。

 ツアーまでまだ間がある為、夏休みが始まったら力を試すためにビギナーダンジョンへ行ってみようと思う公介であった。

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