第27話 WMデバイス
「どうかね?最終調整の方は」
アメリカのとある製薬会社。
その研究室に入ってきた男は中にいる従業員達にそう話しかける。
「間もなく完成します。マベルプロジェクトリーダーの頭脳に世界が震撼する日は目前かと」
「それはすばらしい」
マベルと言われた男は中央に置いてあるメカメカしいリストバンドを眺め、期待の眼差しで発言する。
「世界中の馬鹿共は、あの水晶の本当の使い道を知らない。まあ天才である私だから出来たことだ。それも無理ないか」
マベルは横にある黒紫水晶を見ながら、見下すような笑みを浮かべる。
いや、自分の発明品を見て思わず笑みがこぼれてしまったのだろう。
「世界中がこのデバイスに必ず飛び付くだろう。フッフッフ」
そう言い残し、研究室から立ち去るマベル。
「まったくあの人の脳内はどんな作りになってるんだ」
「天才と自負してる人を見て、嫌味に聞こえなかったのはあの人が初めてだよ」
従業員達がここまで称賛するマベルの発明とは。
数日後...
「これは」
テレビを見て唖然とする崖田総理。
映っていたのはアメリカの製薬会社エイルの新商品発表会。
だが、発表されたのは薬ではなかった。
「今日全世界の、ダンジョンに夢見ている皆様にとって革命的な1日となることをお約束します」
英語で話してはいるが、下に字幕が出ている。
おそらく生配信ではないのだろう。
彼がカメラの外に目をやり合図を出すと、1人の社員がカメラの目の前に立つ。
左手には機械のようなものを付けおり、右手には黒紫色をした四角形の物体を持っている。
彼がそれを機械の凹みに差し込むと装置が起動したのか、音声を発した。
「system setup」
彼がそのまま指先を機械に当てると、さらに音声が続く。
「Fingerprint authentication complete」
その音声を聞いた装着者が装置のボタンを押した瞬間、突如出現したスーツが彼の全身を包む。
「なんだSF映画の宣伝ですか」
「皆さんこれはSF映画の宣伝ではありません。現実です」
総理が発言した瞬間、まるで視聴者の気持ちを理解しているかのように、マベルはこれが現実であることを主張。
「商品名
「!?、黒紫水晶を!?」
黒紫水晶も透明水晶も魔力を持っているという点では同じだが、黒紫水晶は手で割っても魔力量が増えることはない。
だが黒紫の方が魔力の量が多い為、その力を得たいと思う者は多かった。
割っても効果が無いなら直接飲み込んでしまえばいい。
そう考えた不幸な開拓者は自分の体でそれを試したが、結果は失敗。
魔力の量に耐えられなかったか、それとも魔力の性質が透明のとは違い、人間に対して毒になるのか、定かでは無かった。
しかし、全身から血が吹き出し爆散したという事実だけで、飲み込んではいけないと人類に思わせるには十分だっただろう。
「
「むう。少し難しいですが、要するに開拓者がモンスターと闘う際、体に魔力を流し、身体機能を高める行為を、そのサプライユニットというスーツが変わりにやってくれるということでしょうか」
総理がなんとか仕組みを理解しようとしていると、マベルはさらに説明を続ける。
それによると、エナジーコアはCランクモンスター相当の黒紫水晶を使っていて、理論上1個で魔力量が100の人と同じだけの魔力を使えるらしい。
さらに搭載された人工知能が装着者の動きを学習。
速く動いたときやモンスターによる攻撃で衝撃を感知した場合のみ、流す魔力量を増やすことでスーツの性能を維持しつつ、魔力の燃費が良くなるとのこと。
「魔力のアイドリングストップというわけですか」
それだけでなく、エイル社は同時に武器も発表した。
剣や刀、槍、ハンマーなど、多彩な武器が揃っているが、共通するのは鍛冶スキルで製作されたものではないということ。
通常の武器に先程同様、エナジーコアを装填し、魔力を流すことで鍛冶スキル製の武器と同じ効果を得られ、こちらの世界で作った武器でもモンスターに有効なダメージを与えられるとのこと。
つまりこれは、
「誰でもダンジョンへ出向き、モンスターと戦う力を得られる、という訳です」
「な、なんてことだ。もしこれが世に出回れば」
当然今まで以上にダンジョン産業が盛んになるが、問題はそこではなく、誰でも超人になれるということ。
各国が導入を検討していた、パワードスーツを装着した歩兵隊。
それが簡単に実現してしまうということになる。
「この装置は誰でもモンスターと闘う強さを手に入れられるということで、わが社は販売には国の許可が必要であると判断。わが社への受注依頼があった国から順次供給を開始いたします」
総理は思った。
これはうまいやり方だと。
通常そんな危険な装置を導入するとなると、日本のように銃や刀を所持してはいけない国は導入に対して慎重的な姿勢になってしまうが、早い者勝ちとアピールすることで、他国に先を越されてたまるか、という競争心が生まれる。
どこか1つの国が導入を検討すれば、後は雪崩のように他国も導入に踏み切るだろう。
「ダムデバイス...ありがたい装置ではありますが、また法整備やらなんやらで忙しくなりそうです」
おそらく日本も導入することになるだろうと予想した総理は、この後に来るであろう激務にため息をついた。
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