第21話 2人のスキル

 午前の授業が終わり、昼休みの時間になる。

 3人は購買で買ってきたパンを食べながら、スキルについて話し合っていた。


「そういえば公介はもうスキルは発現したのか」


 千尋の話に凛子も便乗する。

 因みに2人はもう既にスキルを発現させている。

 今は夏休み前だが、凛子が5月生まれで千尋が6月生まれ、公介が7月生まれである。

 2人とも16歳の誕生日を向かえた週にビギナーダンジョンへ向かい(ビギナークラスの免許取得に必要な検査やペーパーテストは3ヶ月前から受講できる)、2人ともその日に自身のスキルが判明した。

 スキルはどちらも当たりといわれているスキルだ。


 千尋は火をあやつるスキル。

 2匹目のモンスターを倒す際、腕に力を込めたら出たらしい。

 主人公はお前なのに俺がこんな主人公っぽいスキルで悪かったな、と嬉しそうに言ってきたことを公介は覚えている。


 凛子は鍛冶スキル。

 モンスターを倒し、スキルを取得した際に、脳に武器や防護服の造り方の情報が入ってきたらしい。




「いや、まだ発現してないよ」


 公介は自身のスキルを2人には言わないことにした。

 2人を信用していない訳じゃないが、情報というのはどこから漏れるか分からない上、このスキルが良からぬ輩に知られれば2人にも危険が及ぶ可能性があるからだ。


「そっか。まあいずれ分かるだろ。俺達みたいに当たりだといいな」


 これ以上この話はしない方がいいと判断した公介は、別の話題を振った。


「千尋は前々から言ってた開拓者になるんだろ。凛子はどうするんだ?結論は出たのか」


 千尋は取得するスキルに関係なく開拓者になると宣言していた為、戦闘に役立つスキルを発現させたことに喜んでいたが、凛子はもし戦闘に役立つスキルなら、開拓者の道を歩むのも悪くないと言っていた。

 しかし鍛冶スキルは戦闘に役立つスキルではない為、開拓者を目指すのかどうか悩んでいたのだ。


「千尋が開拓者目指すって言ってたからねぇ。公介も目指すならあたしだけ仲間外れは嫌だから目指そうって思ってたんだけど」


「へぇ。じゃあ俺も開拓者になろうと思ってるから凛子も目指すってことか」


 公介は発現したスキル次第でどんな職業に就くか決めようと思っていたが、あんなスキルを手に入れてしまったら流石に開拓者にならないと勿体無いだろうと決めたのだ。


「え、そうなの?さっきスキルは発現して無いって言ってなかったっけ?ダンジョンでモンスターを倒して、男心に火がついちゃったとか」


 まだスキルが発現していないのに、どうして開拓者を目指そうと思ったのか疑問に思っていると、


「なら決まりだな。俺達3人で開拓者トリオ結成だ!」


 千尋が元気良く立ち上がり、そう宣言する。


「ちょ、ちょっと勝手に決めないでよ!もし公介が戦闘向けのスキルじゃなかったら、火を使えるあんたしか戦闘向けスキル持ちがいないじゃない!」


 凛子は公介が開拓者を目指すとは思っていなかった。

 戦闘に役立つスキルなど、そうそう出るものではないからだ。

 自分と同じで、戦闘には役に立たないが、スキルを生かせるような職に就くと思っていた。


 公介も公介で、一緒にダンジョンに入ったら自分のスキルがバレてしまうことになるかもしれないと危惧した。


「いいじゃないか透明水晶割りまくって魔力量増やせば、体に魔力流して戦えるんだから。戦う鍛冶屋ってのも面白いだろ」


 確かに魔力量を増やし魔力制御も上手くなれば、体に魔力をながすことで力や速さが増したり、体を頑丈にしたりは出来るが、戦闘向けスキル無しで本格的に活動する開拓者は少ない。


 わざわざダンジョンにこだわらなくても、スキルを生かせる職に就いた方がいいという考えが多いからだ。


「女の子の私にモンスターと素手で戦えっての!?」


 鍛冶スキルで製作した武器なら魔力を流して使うことが出来るが、素手で戦う発想になるのは彼女の性格故か。


「まあまあ、原則成人を迎えないとDクラスには上がれないし、今そこまで決めなくてもいいだろ」


 このまま開拓者トリオが出来てしまうのは1人で活動したい公介にもまずい為、話を保留にする意味も込めて仲裁に入る。


 一般的に開拓者と呼ばれているのはDクラスからだ。

 ビギナークラスも開拓士免許の中に入っているから開拓者なのだが、スキルを取得するためだけに取る者が多いからだ。


「それもそうだな。2人が弱くても大丈夫なように、俺が強くなればいいんだし」


「そ、そうよ。高校生活もまだまだ先が長いし、ゆっくり決めましょう」


 2人ともとりあえず納得したところで、この件は一旦保留となり、一安心する公介であった。

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