第20話 2人の友

 学校に着いた公介は教室のドアを開け、自分の席へ着く。

 まだHRまでには少し時間があり、スマホを見ようとしたが、ふいに声をかけられた。


「よう!主人公しゅじんこう!」


 声の主は小学校からの友人である、友田ともだ 千尋ちひろだった。


「俺の名字は主人しゅじんじゃねえ、主人あるじだ」


 千尋は公介をからかうとき、決まってこの読み方で呼んでくる。


 千尋は悪い悪いと、対して気持ちのこもっていない謝罪を済ませるが、どうやらからかうために話し掛けたわけでは無いようだ。


「公介さあ、お前朝の投稿どういう意味で書いたんだ?」


 朝の投稿とは間違いなく予知のことだろう。

 公介と千尋はフォローし合っていて、あの投稿にいいねを付けた内の1人は彼だ。


 聞かれることは予想していたが、返答を考えていなかった為少したじろいでいると、公介の方から話しだす。


「確かお前、週末にダンジョンでスキル取得するとか言ってたよな...もしかして予知のスキルとか」


(こいつ勉強はそれ程でもない癖に、こういうのには勘が働くんだよな)


 友人の勘の鋭さに参っていると、また新たな声が教室のドアの方から聞こえる。


「それはいくらなんでも無理があるでしょ」


 千尋と同じ、小学校からの友人、広井ひろい 凛子りんこだ。

 おしとやかにしていれば美人だが、頑固な性格のせいでそれが隠れてしまっている。


「なんだ凛子、いつもより遅いじゃないか」


 彼女はいつも自分達よりも早い時間に登校してくる。

 こんな風に2人で会話しているときにやってくるのは珍しい。


「知ってる癖に。朝は苦手なのよ。とくに週明けはね」


「そうだったな。まあ苦手なのに遅刻しないだけ立派か」


「そんなことより何で無理があるんだよ」


 苦手と言いつつ遅刻しないことに感心している公介を尻目に、千尋はどうして自分の発言には無理があるのかと尋ねた。

 凛子は呆れた口調で説明する。


「あんたねぇ、仮に公介が予知スキルをその日の内に発現させたとして、何時間も後に起きることを予知するのに、どれだけの魔力と魔力制御、それに熟練度が必要か分からないの」


 公介は自由設定のスキルで魔力量も魔力制御も熟練度も直ぐに上げられるが、10時間後に起きることを予知できる程、それを満たした予知スキル持ちは今のところいない。

 少し考えれば分かることだが、千尋は考えてから発言するタイプの人間ではない。


「あ、それもそうか」


 彼女の発言に千尋が納得したところで、凛子が話を続ける。


「でも、公介の投稿は確かに気になったわね。あんたって、ああいうことを発言するような人だっけ」


「ま、まあ勘だよ勘。なんとなく今日はそーいうことを言ってみたかったんだよ」


 流石に2人から聞かれると受け流す訳にもいかず、かといって良い返答も思い付かない公介は、少し苦しい言い訳をする。


 あまり深掘りしないでほしいことを察したのか、2人共それ以上の追及はしてこなかった。


「今日はみんなでどっか寄り道しようかと思ったんだけど、流石にあんな投稿されちゃ、また今度だな」


 千尋がそんなことを言っていると、HRの時間になり、2人はそれぞれ自分の席に着いた。




 因みに、公介が地元から上京してきたにも関わらず、小学校からの友人達と同じ学校に通っている理由は親が関係している。


 小学校に入学した際、3人の母親はPTAで一緒になった時に仲良くなり、その影響で子供達も友人関係を築くようになった。


 上京の話も意見が一致し、3人一緒なら離れた場所でも付き合いに困らないだろうということで、親達が話し合ったらしい。


 勿論、最終的に決断したのは公介達だが、特に入りたい高校があったわけでは無いので、成り行きで決めてしまった部分もある。

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