第13話 一般開放の検討
それから約2ヶ月弱が経ち、自衛隊員や、将来現場でスキルによる犯罪を鎮圧する役目を担う警察官なども、かなりの人数がモンスターを素手で倒すことに成功していた。
民間警備会社にも優先的に倒させるべきだという声も与党内で挙がっている。
しかし、元々自分がスキルを発現したかどうか、判明しない者も多く、判明したとしても、犯罪の鎮圧に役立ちそうなスキルを発現させた者は少ない。
しかし、スキルに伸び代が存在するなら役に立つかもしれないスキルが、かなりの人数に発現している。
それが一国曹長と同じ身体強化である。
知識スキルを得た隊員の言った通り、一国は魔力をコントロール出来るようになり、体に魔力を流せば、40代という年齢にも関わらず、100mを10秒台に迫るタイムで走ることが出来る。
さらに身体強化のスキルを併用すれば、もっと速く走れる。
一見すると、有用なスキルに思えるが、欠点もあった。
これは身体強化に限ったことではないが、スキルを使用すると、かなりの疲労が伴うのだ。
知識スキルではこのような事はなかったのだが、身体強化や水を出した隊員など、行動する事で力を発揮するようなスキルではこのような現象が起こる。
知識スキルの隊員が言っていた通り、スキルの発動には魔力が必要で、それを消費し過ぎたことが原因だという説が濃厚だ。
ダンジョンが出現するまで、魔力という力は我々人間には備わっていなかったのに、何故それを消費すると疲労する体になってしまうのか。
魔力そのものが人間のエネルギーに置き換わったという考えと、魔力を消費するという行動自体に負担がかかるという考えがある。
だが、水を出した隊員より一国の方が疲れる事が少なかったことから、透明な水晶を割った事や魔力の消費を何回も繰り返すことで体が慣れていくのでは、と思われている。
因みに一国は最初の頃と違って今はスキルを使うか使わないかをある程度コントロール出来るようになっていた。
「そろそろ一般にも開放してみてはいかがでしょうか」
7度目の会議で、そう発言する者が出てきた。
約1ヶ月前、アメリカがダンジョンやスキルを発表してしばらく、驚くべき発見がアメリカであった。
なんと紫色の水晶を加工できるスキルを発現させた兵士が現れたのだ。
その兵士が水晶に手を触れると、黒い油のようなものに変化。
他の水晶も同じように加工し、ある程度量が溜まったところで、その液体をガソリンを作る温度まで蒸留させると、見た目はほぼレギュラーガソリンの色と同じになった。
実験として車に走らせてみると、通常のガソリンと同じ量に比べ、明らかに燃費性能が上がり、さらに有害な排気ガスを一切排出しないことも判明し、研究員たちは度肝を抜いた。
黒紫色の水晶は原油に変わる新たな資源だと証明されたのだ。
この兵士は現在、家族と共に国に保護されているとか。
それからアメリカは、日本と同じく、素手でも倒せるようなモンスターがいるダンジョンを何ヵ所か整備し、一般開放した。
国益になるようなスキルと判断されれば、直接国の機関に雇われ、かなりの報酬を約束している。
ロシアや中国なども似たような形で準備を進めているらしい。
「しかし、一般に開放するとなると色々とリスクが...」
「総理、私から提案が、」
まだ、一般開放を渋っている総理に、ダンジョン説を唱えた経済産業大臣が声を挙げる。
「スキルによる犯罪は新たな法整備でどうとでもなります。重要なのは、管理です。免許制にし、スキルを持っている者を把握して、データベースを作れば、犯罪の抑止力にも繋がる筈です」
彼の意見はこうだ。
アメリカが黒紫色の水晶を加工できるスキルを発見したということは、いずれ日本や他の先進国でもそのようなスキル持ちが出てくる筈。
そうなれば、先進国が中東に頼っていたエネルギーの問題が解決し、ダンジョンによるエネルギー革命が起きる。
その波に乗り遅れないよう日本でも、1日でも早く、そのような国益になるスキル持ちを発見する必要がある。
それには当然、スキルだけでなく、大量の水晶も必要になる。
大量の水晶を集めるにはそれを集める人間も大量に必要。
だから免許制にし、1人1人を管理することで、スキル持ちが大量に生まれ、犯罪が起きても対処しやすくなるというわけだ。
自衛隊だけでは人手不足な上、弾薬や車両の整備費も馬鹿にならない。
「しかし、相手はモンスターなんだぞ。死人が出れば批判も比例して大きくなる。朝昇新聞に叩かれちまうじゃねーか」
犯罪もそうだが、1番の懸念点は命だと林産副総理が発言した。
国が許可したダンジョンで死人が出ればマスコミには叩く材料になるだろう。
ゴブリンのダンジョンでも奥にいた、巨人のようなゴブリン。
他のダンジョンでも恐らく、奥に行けばもっと恐ろしいモンスターがいるかもしれないのだ。
というより自衛隊は最初に出た死亡者を教訓にし、安全を考慮してダンジョンの奥まで入る事は控えていた。
だが、アメリカで、軍が最新鋭の戦車を投入し、奥まで探索したところ、行き止まりに着いた場所に、下へ続く階段のようなものがあったのだ。
階段は人が通れるレベルの大きさで、とてもじゃないが大型兵器が通ることは不可能。
それに加え、壁や地面に砲撃しても傷1つつかず、それ以上進むことは断念した。
つまり戦車や装甲車などの、大型兵器が使えるのは実質1階のみなのである。
しかし、先へ続く道があるということは、奥には更なる、未知の資源があるかもしれない。
アメリカが市民に一般開放したのは、そういった理由から、生身でモンスターと戦える人間を軍人や市民関係なく、1人でも増やしたいという思惑もあるのだろう。
「死亡リスクはダンジョンに限った話ではありません。仕事中に事故で亡くなる人がどれだけいるかご存知ですか?それならば免許も種類別に分ければ良いではありませんか。他国に遅れをとってからでは遅いですよ」
透明な水晶を割れば割るほど、魔力が増え、魔力を流せば力や速さが増すことは一国で証明済みだ。
そういった者には特別な免許を交付し、ダンジョンにもそれぞれ危険度を設けて、特定の免許が無ければ入れないような仕組みを作れば良いという考えだ。
「分かりました。あなたのダンジョン説を的中させた実績を信じて、早急に国民への一般開放を検討致しましょう」
総理が説得に応じたところで7度目の会議が終了した。
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