第9話 検証

 自衛隊による害獣駆除作戦は成功した。

 今回は前回より多くの車両が投入され、害獣駆除という名目の元、火力で敵を木っ端微塵にしたのである。


 中でも一番の戦果はあの10mを越す巨大な害獣の撃破だろう。


 1度目の作戦で100mmを越す砲弾に耐えたとはいえ、それを何発も嵐のように撃ち込まれては耐えられず、跡形もなく消し飛んだのだ。


 勿論死骸はしばらくして消えたそうだが、かなりの数の水晶を回収することに成功した。




「では4回目の会議兼検証を異例ではありますが、会議室以外で始めたいと思います。議題は回収してきた水晶について。黒紫色の方はまだ加工用途が判明していない為、調査中です。よって今回は透明な水晶の方を検証したいと思います。一国陸曹長、こちらへ」


 今回の会議はいつもの会議室ではなく、陸上自衛隊の基地で行われる。

 理由は水晶を割ることによる魔力量上昇の検証である。


 もし水晶を割ることで彼の身に変化が起きれば、知識が流れ込んできたという隊員の発言が本当だったことになり、彼が同時に言っていたダンジョン説も濃厚になる。


 その実証実験に選ばれたのは、一国曹長だ。

 水晶とは別に、奴らの武器で倒したことによる身体機能の向上が既に実証されてる彼なら、適任だろうとの判断だ。

 一国は挨拶と自身が大役に選ばれたことによる感謝を述べ、実験を開始する。


「一国陸曹長に割っていただく水晶の数は50個です。10個割る度に50m走と握力をそれぞれ2回測定し、平均を前の測定結果と比較します」


 測定を行う度に10分の休憩を挟む。

 いくら一国曹長が日々訓練を重ねているとはいえ、ほんの少しの疲れでも、結果に差が出てしまうからだ。


 まずは1回目、実験開始前の結果と比較する。

 水晶は一国の手の中で割れると、体の中に吸収されるように消えた。


 水晶を10個割り終えたところで計測を開始する。

 結果はほんの僅かだが、タイムが縮み、握力の数値も上がった。

 目に見えて分かるレベルではないが、実験前の良かった方の結果より、割った後の悪かった方の結果の方が、良い結果だった。


 その後も20個、30個と割る毎に測定を重ねるが、やはり僅かながら良い結果がでた。


 しかし、40個目の測定になると、その差が埋まりだし、ついに50個目にはほとんど変わらなくなってしまったのだ。


 何故そうなったかは分からないが、陸上の100m走で12秒を11秒に縮めるより、11秒を10秒に縮める方が難しいのだから当然だろうという意見で取りあえず落ち着いた。


 しかし重要なのはあの隊員が言っていたことが事実だったということだ。


「今日の実験で彼の話も単なるデタラメでは無いことが証明されました。午後の会議ではこの穴...ダンジョンをどう扱うべきかを議論しますので、それぞれ考えをまとめてきてください。」


 あの隊員が言っていたスキルという力か、それとも魔力とやらをコントロールしたことで身体機能が向上したのかは分からないが、少なくとも水晶を割ることで結果が変わったことを実証できただけでも大きな収穫だった。


 つまり、同時にや、というワードも嘘ではない可能性が高まってきた。


 総理の発言により4回目の会議は終了した。

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