第8話 新たなスキル

 自衛隊の調査が終わり3度目の会議が開かれた。

 幸い今回の隠密作戦は功を奏したようで、途中何体か緑色の生命体と出くわしたが、やり過ごしたり、減音器付きのライフルで対処をし、目的を達成することが出来た。

 自衛隊の報告資料を持ちながら総理が話し始める。


「それでは、今回の派遣について。まず遺体の回収に成功しました。損傷が激しかったそうですが、何とか本人と判断できたそうです。そして、穴の正体の手掛かりですが、報告によると...」




 一同に緊張が走る。




「緑色の生命体が消え、水晶のようなものが落ちていたそうです」


 総理の発言に、皆頭上に?マークが見えるが、ダンジョン説を唱えた経済産業大臣は笑みを浮かべている。


「前の部隊が交戦した場所を調査しましたが、緑色の生命体の死体どころか血痕すら残っておらず、その代わりに落ちていた水晶がこれです」


 そう言って総理は2つの水晶のようなものと、奴らが持っていたであろう剣をテーブルに置いた。

 皆が興味津々に見ている中、総理は話を続ける。


「剣については、ただ落としただけという可能性もありますが、問題は2つの水晶です。」


 1つは透明、もう1つは黒っぽい紫、どちらも片手で持てるようなサイズだ。


「これが何なのかは分かっていませんが、実は調査後、隊員の1人が私はこれについて説明できる、と申している者がいるそうです。何故かは分かりませんが、我々にも説明していただきたいと思い、今日呼んでおります」


 総理の合図により1人の隊員が会議室に入室してきた。


 その者が軽く自己紹介を済ませたところで、会議参加者の1人が何故この水晶の事が分かるのだ、という当然の疑問を投げ掛けるが、彼はそれを含めて説明してくれるという。


「まず、私がどのタイミングでこの知識を得ることが出来たかをご説明致します。」


 皆の注目が彼に集まる。


「前の部隊が交戦した場所に辿り着いた時、奴らが持っていた武器を回収したのですが、警戒心を怠ってしまい、1体に襲われました。その際、ライフルが使えない程、至近距離まで詰められてしまったので、丁度回収し、手に持っていた奴らの武器で交戦、無力化に成功しました。その瞬間、私の中に知らない筈の知識が流れ込んで来たのです」


 今回の調査で他に、体に異変が起こった者はいない。

 そして奴らの武器で倒したのも彼のみ。

 状況は一国と酷似している。


「次にその2つの水晶について。私自身も詳細には理解できていないので、流れ込んできた知識のままに説明すると、まず透明な水晶の方は、それを手に持ち、割ると自身の魔力量が少しだけ上がり、魔力がコントロール出来るようになると、身体機能を向上させることも可能」


「ま、魔力...なんだって?」


 会議参加者達はポカーンとしながら説明を聞いている。


「そしてもう1つの黒紫色の水晶についてですが...膨大なエネルギーがあるそうです」


 膨大なエネルギーという発言に目を光らせる一同。

 つまり加工次第で新たな資源になり得るということか聞くと、そこまでは分からないのだそう。


 彼が説明し終えると、透明な水晶について質問があった。

 一国曹長の身体機能向上は魔力をコントロールすることと関係があるのかと。


 答えはノーだった。

 彼が言うには仮に一国曹長が、偶然水晶を割っていたとしても、たかが、1個か2個割った程度ではあそこまで、身体機能を事を向上させることは出来ないとのこと。

 自分が知識を得たように、一国曹長も奴らの武器で倒したことで何らかの能力を得たと解釈するべきだと言った。




 そして彼の全ての意見をまとめると、


 ・奴らを殺害すると、稀に何らかの物資を落とす。そしてその現象をドロップと呼ぶ(殺害方法は問わず。殺害方法により物資を落とす確率に差があるかは不明)


 ・奴らが持っていた武器で奴らに止めをさすと何らかの能力を得る(因みに素手でも良い。能力を得るのは1回目のみ)。


 ・そしてその能力はスキルという。


 ・透明な水晶を手で割ると割った者の魔力量が少しだけ向上。


 ・黒紫色の水晶には膨大なエネルギーがあるが、加工用途は不明。


 ・あの穴はダンジョンという名前であること。


 ・奴らの総称がモンスターであること。


 ・我々が遭遇した緑色の生命体はゴブリンという名前である。




「ダンジョン...モンスター...ですか」


 彼の言っている事が真実かどうかは分からないが、作り話と一蹴する根拠がないのも事実。

 真実かどうか証明する為に、透明な水晶を割ってみろと言う者もいたが、いくつか割ったところで目に見えて違いがでることはないらしく、この水晶を集めることが当面の目標となった。


「しかし、問題は奴らを殺害しなければならないという点です。今までは防衛という形で行って来ましたが、流石に物資の収集目的で自衛隊に殺人を命じるわけには...」


 軍隊ならまだしも、自衛隊に防衛以外の戦闘をさせるわけにはいかない。

 そこで防衛大臣が解決策を出す。


「では、死体を解剖しましょう。人間ではないことが証明できれば、殺人ではなく、害獣駆除として活動させることが可能な筈です」


 元々、先に仕掛けてきたのは相手側だ。

 人以外の生命体だと、証明すれば少なくとも批判の声は減るだろうという考えだ。


「実は...」


 隊員が口を開いた。

 自身が交戦した際、死体は、しばらくすると地面に吸い込まれるように消えてしまったらしい。


 つまり、先日の戦闘での死体が消えていたのは、比喩表現ではなく、本当に消えてしまっていたということだ。


 ダンジョン説を唱えていた経済産業大臣がまた笑みこぼしたが、死体を回収出来ないのであれば、どうやって人ではないと証明するのか。


 行き詰まっていると、ある声が挙がる。


「確か、調査隊の防護マスクには、君も含め全員記録用のカメラが搭載されていたな。死体が消える瞬間も映っている筈だ」


 死体が消えてしまうのは寧ろ好都合だった。

 死体が消えるなど、人ではあり得ないことだからだ。

 その現象こそ、奴らが少なくとも人間ではないと証明する証拠になる。


 さらに言えば死亡した隊員の死体が残っていたことから、同時に人では消えないことも証明できた。

 彼らの死は無駄では無かったのだ。


 1回目の作戦で投入された機動戦闘車にもカメラが搭載されていたが、今回のように至近距離で死体を映していたわけではない為、消える瞬間は映っていなかった。


 ダンジョンと言う隊員や経済産業大臣の言葉が適当かどうかは、今だ半信半疑だが、少なくとも奴らが人間ではないことがほぼ確定し、自衛隊による害獣駆除作戦が立案されたことで3回目の会議は終了した。

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