第2話 詰んだんだけど
「起立、礼─」
「「「「さようならー」」」」
…ふぅ、、やっと学校終わった〜!!
鞄を持ち上げ教室を出る。長い廊下を渡り階段を降りると正面に靴箱があるのでそこで履き替えていると背後から肩をトントンと叩かれた。
「みすぎ〜今日部活ある?」
振り返るとそこにはいつもの色素の薄い金髪に銀色の瞳を持つ青年、姫宮波琉が立っていた。
「いや別に…ないけど」
というかそもそも部活に所属してすらいない。でもだからといって学校に残るのはごめんだ。何故なら家でダラダラするという予定が俺にはある。
「ごめん、用事が…」
「おっちょうど良かった、それなら一緒に帰らね?」
そう言って俺の肩に手を乗せたまま姫宮は目を輝かせる。…前々から感じていたのが、この人距離感おかしくない?…いや俺が人に慣れてないだけか…
別に断る理由もなかったのでこくりと頷くと『まじで?やったー!』と笑顔で言ってやっと肩に乗せた手をどけてくれた。
学校の正門を出て2人で左に曲がる。帰る方向が偶然同じだったようで俺の乗るバス停まで2人並んで帰ることになった。姫宮の家はバス停を過ぎた住宅街のところにあるらしい。
「…でもなんでお…僕なんかと一緒に帰りたかったの?姫宮くんなら他にも一緒に帰ってくれる人居そうだけど…」
「くふっw」
噴き出すように笑い目を細めて口を歪めた。姫宮はよく笑うタイプの人だが、笑いのツボが謎だ。何が姫宮を面白くさせるのだろう…
「いつも思うんだけどさ、なんでみずきはそんなに卑屈なの笑」
思いがけない言葉に心がズサズサと刺さる。卑屈か俺…?
「僕そんなに卑屈?」
「うん、だってすぐ謝るしー下向くし、人を避けるしー、、しまいには『僕なんかと─』って卑屈以外なくね?笑」
…俺馬鹿にされてる?そう思うとだんだんムカついてきた。明るくて友達がいて日々を充実してる俺と真反対な姫宮にはわからないだろうな。
「僕は1人が好きだから─って可能性考えたことある?」
そう言うと姫宮は眉毛をひょいと上げ黙り込んでしまった。少し言い過ぎたかなと思ったが、それは杞憂だった。
「そう言う割にはよく寂しそうな顔をするし」
「してないし気のせいじゃないの?」
バス停に着く。スマホをポケットから手にとると15:20と表示された。次のバスが来るまで15分も時間がある。
「…入学初日からイケメンだのなんだの騒がれてるのに人と関わらないのってやっぱり1人が好きなんだ」
は???右目に眼帯をつけた真っ黒な目の俺のどこがイケメンなんだ…きっとその単語は姫宮に向けた言葉なのに勘違いしてるんだろう。能天気な奴だ。
「でも俺と居るのは嫌じゃないんだね」
そう言って俺の頬に触れる。隣を向くと姫宮と視線がぶつかった。急いで逸らすが姫宮の方は俺のことをずっと見つめてくるし、頬に触れたまま指を滑らせている。
(???)
平然を装うも、俺の心臓は何故かバクバクだった。…今緊張するとこじゃないだろ…どうした俺の心臓?
「…おっとれた」
ようやく手を離してくれた。…てかさっきから何なんだ一体、挑発してくるわ顔を触るわ─
「顔にまつげついてたよ」
「……は?ついてたよって…当たり前でしょ」
「ちげーよほっぺたにまつげの抜け毛?が落ちてたから俺が取ってあげたんだよ」
「わざわざ姫宮が取る必要ある?しかも米粒とかならまだわかるけどまつげって…」
そう俺が言うとまた姫宮は視線を落としまた黙り込んでしまった。俺が悪いのか。
「…でも、まぁありがとう。…」
「ぐふっw」
「ほんと何なの笑ったり落ち込んだり…情緒不安定?」
「情緒不安定なのはみずきのほうじゃね?笑照れたり怒ったりさぁ─」
「はぁ?」
さっきの会話で照れる要素あったか?ないだろ!しかしそう反論しても埒が明かないため俺は言うのをやめた。
みゃー
(ん?猫の声がする…)
「わっw異生獣がいるんだけどwほら後ろ」
(異生獣って何…普通の猫だろ…)
そう思って後ろを見てみるとそこには翼の生えた白いもふもふな猫がいた。目はもふもふな毛に埋もれて見えない。一瞬びっくりしたが多分飼い主の趣味で飾り物をつけさせられているのだろう。可哀想な猫だ。
「ほんとだー」
「ほんとだー(棒)じゃねえよw前から思ってたんだけどみずき、異生人や異生獣のことそういうコスプレしたやつだと思ってるよね」
「??じゃなかったら何なの?」
「中学の歴史でやんなかった?」
…やったっけ? あっ今日の歴史の時間先生が喋ってたような─
「○※□◇#△!!」
猫に続いて後ろから金髪碧眼の小学生ぐらいかと思われる少女が走ってくる。催しをしていた最中なのかおさげにフリフリドレスといったロリータな格好をしている。
何を言ってるのかはよくわからない。様子を見るに飼い猫が脱走したのだろう。それを把握したのか姫宮は全速力で猫を追いかける。俺もそれに続く。
◇◇◇◇◇◇◇
(ぜーぜー…はぁはぁ)
…かれこれ10分ぐらい3人がかりで猫を追いかけているが一向に捕まらない。バスの時間も過ぎてしまった。幸い猫が道路に出るようなことは無かったためヒヤヒヤせずに済んだが休憩しては俺らが近づくとダッシュして逃げている。俺らを弄んでるなお前。
「みずき、呼吸が荒いからもう休め。過呼吸もあるんだし」
道の真ん中で姫宮がそう言って背中をさする。大したこともないのに過度に心配されているようで気恥ずかしいので手を静かにどけた。
「いやそれはストレス性のやつだから大丈夫─」
「…じゃあさ、今あのもふもふ赤い屋根の塀の上で休んでるじゃん」
そう指され左を見るとまるでおもちのように丸くなって座っている猫の姿があった。普通なら可愛らしい光景だがどんなに飼い主が呼んでも、俺らが静かに近づいても捕まってくれない存在に憎らしさを感じる。
「みずきはここで女の子と一緒に待機して、俺が後ろにまわるから」
「わかった」
挟み撃ちってことだろう。金髪碧眼の少女は言葉は伝わずとも雰囲気で何か察したのか大きな目をして留まっている。
少しして奥の方に手を振っている人物が見えた。口パクで何か言っている。
『いくぞ』
その合図で俺と姫宮は猫を目掛けて一斉に走り出す。猫の前方には俺、後方には姫宮、右には家の壁と八方塞がりとなった。唯一左が空いているが少女も勘がいいのか猫の右側を目掛けて走り出した。
もうどこにも逃げられない、さあ勘弁しろ!!
猫の方へ手を伸ばす。……が、猫は少女の腋の下をモップのようにするりとくぐり、猫とは思えない速さで障害物を駆け抜けた。即座に方向を変えて3人で追いかける。猫の方はもう体力が無いのか徐々に俺たちとの距離が縮まる。
「この先川が…っ」
猫の先には腰の高さ程度の白い柵が連なっており、柵の向こうは深い川となっている。猫の方はというと全然止まる気配がない。
(待ってこのままじゃ…)
猫が柵を乗り上げた。と同時に姫宮が猫を引き戻すように前のめりになる。
俺もさっきまで全速力で走ったせいか急に止まれる訳がなく、姫宮の背中を押す形でぶつかる─
(あっこれ死んだな……)
◯◯◯◯◯◯◯◯◯
…衝撃がない。目が覚めるとそこには気を失った姫宮と猫がいた。何故か姫宮の方は俺に床ドンされるような形で横たわっていて、猫の方は姫宮の腕の中でうずくまっておりピクリとも動かない。
体勢を整え脚を伸ばして座り、辺りを見渡してみるが一面黄緑の草原で何もない。白い花が点々として咲いているだけで遠くの方は白い霧でよく見えなかった。
…空も早朝のような青い色をしており所々にある暗い雲とそこに照らされたピンク色の光が美しい。
…………俺ら死んだんだ。ごめんお母さん、お父さん。ごめん兄貴。…そしてそこにいる姫宮と猫─
俺のせいで死んだのも同然な気がする。いや、猫のせい…?でも俺がもっと違うやり方を見つけてれば…。
目頭が熱くなる。天国でも泣くこと出来るんだとかそんなことを思いながらひとり空を見上げる。
「何泣いてんだよ…」
声の方向に顔を向けると、そこには姫宮が怪訝そうな顔で俺を見つめていた。力の籠った銀色の瞳は周りの景色とも相まってより一層綺麗に見えて、さらに俺の気持ちを沈ませた。姫宮はあぐらをかくとそこに白いモフモフの猫を置いた。猫を優しく撫でている。
「……あぁよかった、コイツはまだ生きてる」
…生きてる?こんな現実世界じゃない場所、俺たちはもう既に死んでいるだろう?
「…姫宮くん、もうお、僕達死んでるんだよ。ここは天国だと思う」
「……前から思ってたんだけどくん付けしないでくんね?俺ら友達の仲じゃん」
「あっそっか、あはは」
やっと友達できたのに、情けないな…
「…あとさ、ここ天国じゃなくね?」
そう言って姫宮は突然自分の頬をつねりだした。
「ほら、痛覚あるし…みずきもやってみてよ」
…?俺も姫宮にならって自分の頬をつねってみる。確かに痛い、けれども─
「そういうもんじゃないの?だって天国来る前は天国がどういうところかもわからないし…」
「はぁ?だってもしここが天国なら痛覚ある必要なくね??」
…それは確かにそうだけども、、、もしかしたらここは死後の世界であって天国というものは存在しないかもしれない。そんなことを姫宮に伝えると姫宮はきっぱりと否定した。
「いや俺たちは死んでない」
「いやいや、じゃあなんで僕達はこんなところにいるの?、川の中じゃなくて?」
死んだことを受け入れられてないようだ。可哀想に。橋から川の水面までまぁまぁ高さがある。しかもあの全力ダッシュで勢いで飛び込んだんだから、死ぬのもおかしくはないだろう。
「だって俺ら息してる。コイツも含めて」
そう言って俺の肩を引き寄せ、顔を近づけてきた。近い近い、姫宮の息が俺の頬に伝わる。…何だこのデジャヴ感。
「体温もある」
俺の頬を掌で優しく包むように触れる。心臓がドキドキして姫宮の顔を見れない。嫌な気持ちはなぜかしないが、自分の心臓が耐えられない。もう一回死ぬ気がする。
「わ、わかったから…!、、じゃあここが死後の世界じゃないんならここは何なの?」
俺はそう言い姫宮を退ける。
「…それは…………」
「ほらね?息してろうが体温があろうが僕達はすでに死んでるんだよ」
「異世界」
…は?
「ここは異世界なんだよ、」
???ラノベの世界じゃあるまいし、異世界なわけないだろう??第一異世界だとしたら普通女神とかいたり、教会に飛ばされたり…する感じじゃないのか??何もないところに飛ばされるって…
「…異世界だとしても神様が何もないところに飛ばす訳ないでしょ…」
「はぁ?神様なんかいねぇよ、俺が言いたいのは俺たちはワープホールみたいなもので異世界…まぁ俺の先祖がいる世界に飛ばされたんじゃないかってこと」
「先祖…天国じゃん、」
「違うって!」
(違うって何が違うんだ、死んだショックで錯乱してるんじゃないか?)
「俺の父さんはドラゴンと日本人のハーフでその父さんの父さん、お爺ちゃんがドラゴンなんだけど…」
??????ど、ドラゴン???頭にはてなマークを浮かべていると姫宮がさらに話しかける。
「みずき…マジで中学の歴史の授業聞いてなかっただろ、、まぁいいや、それでドラゴンは普通地球にいないだろ?」
「うん、まぁ…てか姫宮く…姫宮ってドラゴンのハーフなの??」
「あぁ」
そう頷くと姫宮はプラチナブロンドの髪から赤みのある黒の角と、腰からこれまた黒いドラゴンの様な尻尾を出してきた。…コスプレではないのか。
「で、じゃあドラゴンはどこからきたかっていうとワープホールで来たんだよ」
「えっそうなの」
姫宮は角を出したまま尻尾をユラユラさせたあと、すぐに引っ込めた。どういう仕組みになってるの?それ、
「うんそう。それでここ数十年間の最新の研究で向こうがワープホールを作って来てるんじゃないかって話になったんだよ、」
「へぇー」
…どういうこと?全然話が見えない。
「向こうから来れるってことは…その逆の僕らがいる世界から向こうへ行くってこともあるんじゃないかってこと?」
「そう!!」
姫宮は目を大きくして瞳を輝かせる。…話の意味が分からない。いや理解はできるが中身が突拍子なさすぎていてリアリティがなかった。
「…分かったけど、こんな何もないところで僕達3人…いや2人?と猫一匹はこれからどうすればいいの?」
「フフw」
「はぁ…何がそんなにおかしい?笑い事じゃないよ?」
距離感も笑いのツボもおかしいのは姫宮にドラゴンの血が流れているからだろうか。
「…さぁ、、どうすっかな…」
あぁ詰んだ詰んだ。異世界に飛ばされたとしても神様…じゃなくてワープホールがこんなところに飛ばす…なんて事あるか?荷物はないし、辺り一面草草草、たまに花。死んでろうと死んでいなかろうと俺たちの物語はここで終わりだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
※終わりません!!!
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