第2話 アイコン

アイコンとはその時代に支配的であった信仰における重要な出来事を図像で表現したもので、ギリシア式にイコンと呼ばれることもある。我々にとってはフレスコ画やモザイク画が馴染み深いが、これらは実はより時代を遡ったものである。20世紀後期においては、アイコンをコンピューターの上で表現することが盛んに行われたものと推測される。電磁的記録の常として、そのほとんどが現存しないが、アイコンはソフトウェアの象徴であり、ユーザーの象徴であった。もっとも、当時のコンピューターにとっては、ユーザーもソフトウェアの一つとして処理されていたので、この区別は必要がないかもしれない。人間の識別をもっぱら顔に頼り、その事実を反転させるかのように、視覚的特徴を人間的ないし性的魅力として受容していた当時の人類にとって、アイコンは顔の一種であったと言えよう。そして顔にふれることは、聖なる他者の世界への入口であった。このことは信仰上の重要なトピックでありながら、事物の識別やコンピューターの操作という生活に根ざした実感であった。原始、生活と信仰は不可分なものであったのだ。

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20世紀夜話 阿部2 @abetwo

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