星の昔話ー言葉が生まれる前
「とおいとおい昔の話です。まだ言葉がなかった時代です。そこには一つの〈はじめの星〉がありました。
それはとてもとても大きくて、世界がすっぽり入ってしまうほどでした。星の外には虚空がありました。
その星には顔がありました。古い絵に出てくるお日様のような顔です。星は一人ぼっちでしたが、さみしくありませんでした。星はまだ自分のことを星と思わないで、ぜんぶ一つだと思っていました。
星は言いました。
『僕は始まりであり、終わりであり、闇でもり、光である。そしてその全てでもない。僕はすべてのために。すべては僕のために』
星には大きな大きなしごとがありました。でも、ひとりでするのが大変だったので、星は仲間をつくりました。
つくり方はかんたん。頭の中で考えればすぐつくれるのです。
ただ、名前がぜったいに必要でした。星はまず自分の名前を考えました。その時、星は虚空に映る自分の姿を見て自分を〈知り〉ました。星はそのあたまでいっぱい
名前を考えて、たくさんの星をつくりました。
たくさんの星は、はじめの星と比べると小さく、自分たちが小さいのを〈知って〉悔しがって、もっと小さい仲間を欲しがりました。
『もっと小さい星をつくって。つくって』
〈小さな星々〉は暗黒の微小を浮かべて言いました。はじめの星はしかたなくもっと小さい星をつくりました。
〈生星〉ができました。生星と名付けた時に、はじめの星は彼らを〈知り〉ました。
しばらく経つと生星も悔しがって仲間を欲しがりました。
『もっともっと小さい星をつくって。つくって』
はじめの星はしかたなくもっともっと小さい星をつくりました。〈有星〉ができました。でも、有星も仲間を欲しがりました。
こうしてはじめの星は仲間をどんどん増やしました。
有星の次は〈取星〉。その次は〈愛星〉。その次は〈受星〉。その次は〈触星〉。その次は〈処星〉。その次は〈名星〉と〈色星〉。その次は〈識星〉。その次は〈行星〉。
行星も仲間を欲しがり、はじめの星にお願いしました。はじめの星は言いました。
『僕は世界を作る力を使い果たしてしまった。だから今度は君たちだけでつくっていいよ。でもつくるときは必ず僕に教えてね』
はじめの星みたいに一つの世界を作る力はなかったので、行星はそれぞれ生き物をつくりました。もちろんはじめの星に相談して。はじめに生まれたので〈はじめの
生き物〉と呼びましょう。
はじめの生き物はその下に何も望みませんでした。はじめの生き物ははじめの星がまだ見えていて、はじめの星と会話ができたからです。
なぜなら、行星がはじめの生き物をつくる時に、はじめの星が自分の一部をこっそり分けたからです。
しかし行星はわがままで、欲張りでした。はじめの生き物だけでは飽き足らず、また仲間をつくろうとしました。
とうとうはじめの星に黙って仲間をつくってしまいました。でも失敗して不完全な星ができました。それは〈衛星〉と呼ばれました。夜空に見えるお月様も衛星です。
こうやって行星ははじめの星を悩ませるので〈惑星〉と呼ばれて他の星からいやみを言われました。
衛星は自分が失敗だと分かっていたので自分のことを恥じて隠れるようになりました。だから、太陽が昇ると、月は逃げるように隠れるのです。」
カサインは薄れゆく意識の中で父の声を聞いた。それはカサインがまだ幼い時に父がベットで読み聞かせてくれた昔話だった。年に数回会うか会わないかの関係だったのにどうしてこんなに憶えているのだろう。
「さて、とても長い時間が流れました。ある山にアンブロシウスという子供がいました。彼は外の世界に憧れて、生まれ故郷から旅立ちました。それはとてもとてもキレ
イな夜でした。
彼はたくさんの星を見て幸せでした。
すると、小さな池を見つけました。池には夜空の星が映っていてキラキラ輝いていました。でも、誰かの泣き声が聞こえます。
『しくしく。しくしく』
そこには裸の子供がいました。子供は黒くて白い髪をもち、全身は月のようにかがやいていました。
子供は池に映った星に手を伸ばしてすくって集めようとして、池にはたくさんの小さな波ができました。
アンブロシウスは聞きました。
『どうして君は泣いているんだい?』
裸の子供は答えます。
『僕は迷子になったの。おうちに帰れなくなったの』
『それはかわいそうだね!一緒に帰り道を探してあげよう。君はどこから来たの?』
『上から、夜空から来たの。それ以外はわかんない』
アンブロシウスは困ってしまいました。なんとかして助けてあげようと星の名前をたくさん言いました。アンブロシウスは星にくわしかったのです。
『君の故郷はシリウスかい?』
最初に天狼星の名前を言いました。彼にとって天狼星は特別だったのです。
『ううん』
『じゃあ、アルビレオ?アークトゥルス?それともフォーマルハウト?』
『ううん。僕故郷を忘れちゃったの。ほんとうは何かを頼まれてここに来たんだけど、それも忘れちゃった』
アンブロシウスは悩みました。でも子供が泣いているのを見たくありませんでした。アンブロシウスは他人の気持にびんかんな子供だったのです。
なんとかして喜ばせたいと思いました。彼は魔法を使って池一面にヒメユリを咲かせました。アンブロシウスは魔法にくわしかったのです。
ヒメユリの形は星に似ていました。そしていっぱいのヒメユリ畑を見て裸の子供は喜びました。
『やったー。おうちだ!おうちだ!』
アンブロシウスは子供を見捨てられなかったので一緒に旅をすることにしました。ともに過ごすには名前が必要でした。
『うーん。君は月に似てるから〈つきあかりのしょうねん〉はどうかな。君だけの特別なあだなだよ!』
裸の子供はただ『ありがとう』とだけ言いました。
こうして二人は仲間になって、いろんなところを旅しまし
た。めでたし、めでたし」
「アンブロシウスはいい子供だね。カサインも彼のようになれるかな?」
「僕なれるよ!」
「いい子だ。そんないい子にはこのブローチをあげよう。カサインもがんばって、たくさん勉強してアンブロシウスのようになるんだよ」
父が首にブローチをかけながら言う。
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