青い花の咲く国
土蛇 尚
その庭の青は
「姫さま、姫さま。またここにいたのですか?」
城の庭、そこで眉を曲げて困り顔を向ける若い騎士。咎める相手はこの国の王女。この庭に近づく人は滅多にいない。姫の秘密の場所。
「いいでしょ。なんで大陸の向こう側の言葉なんて勉強しないといけないわけ?なんの理由があるの?ほらとても綺麗よ。このお花」
姫は庭に咲く青い花を一輪摘んで騎士に差し出す。背の低い質素な花だ。細やかな領土しか持たないこの国にとても似合っている。
「姫さまには王家の者として、高い教養と権威を持っていただかないと困ります。ほら私と戻りましょう。あと同じことを、決して私以外にしてはなりませんよ。姫は常に花を貰う側でなければなりません。ただ一つの例外を除けば」
姫と騎士は王宮へと戻る。騎士は姫から貰った青い花を手帳に挟んで、鎧の下にしまった。
バザールの開かれる王都、船から下ろされたばかりの商品が並び多くの民でごった返す。その風景を騎士と姫は見下ろす。
賑やかで幸せな日常のはずだった。
そのバザールのど真ん中を馬に乗った騎士が突っ切って行く。背には王国の国旗と、これまでにみたことのない黒い旗の2本が背負われていた。あの旗の意味するものは。
「なんて危ない。どこの騎士団?」
「姫さま、戦です。黒です。砦が陥落した様です。黒ではなく赤だったら良かったのですが」
「え?戦って何?赤とか黒とか何?」
「赤は侵攻を確認、防衛体制に移行と言う意味。黒は砦の陥落、王都死守の意味です。ついてきてください。帝国の大攻勢がついに始まったんです」
そう言われて姫は、状況も分からず騎士に手を引かれる。真っ直ぐな廊下を二人で早足で進む。騎士の手はいつもよりも力が入っていて少し痛い。
導かれた先は王宮の広間だった。この国の騎士達が既に集合していた。姫の父、この国の王が跪いた騎士たちの前に立つ。姫はその横に促されるままに立った。
「お父様、これは一体?」
「お父様ではない。陛下だ」
「陛下、お願いいたします」
臣下のひとりが国王に大きな籠を差し出す。中にはあの庭の青い花が入れられていた。あまりの量に籠は真っ青な蓋がされている様だ。
国王はそれを騎士ひとりひとりに一輪づつ渡していく。
姫と一緒にいた騎士も国王の前に出る。
「陛下、私は既に持っております。ありがとうございます」
「そうか」
この国に咲く青い花。口にするだけで一瞬で猛毒が回り死に至る。その様はとても静かで、風でも吹いたかの様に命が消えると言われている。
それを騎士達に渡す。その意味は
『最後の瞬間まで戦え。戦えなくなればこの花を口にしろ』
「待って!私そんなつもりじゃ!違うの。征かないで!」
騎士は花を挟んだ手帳のページを破いて姫に手渡す。
「船の中で読んでください。では征ってまいります」
「姫さま。大陸を渡る船が出ます。急いでください」
姫は側近達に無理やり引っ張られて船に乗せられた。船からは国が燃え上がるのが見える。騎士から受け取った手紙を開く。
『実の妹の様に思っておりました。どうか生きて下さい」
この国の青い花の花言葉は『守りたいもの』『戦う理由』『旅立ち』
終わり
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