説明と救出
ある程度は予想していたとはいえ、実際にこうやって近くで見るとかなり衝撃的な光景だ。
まさか、こんなところで石化死体を見ることになるとは思わなかったぜ。
「あの……助けに来てくれてありがとうございます」
そう言って頭を下げたのは声からして先ほど中から俺の扉をノックした音に反応してくれた子だろう。
その子の後ろに隠れるように二人の女の子がいる。
……俺の今の格好からしてその反応は正しいんだけど心にくるものがあるな……
そして、そんな三人の後ろにいるのは石化された教師。
三人共、バジリスクに襲われたのだろうか?
それにしては三人の服には汚れが一切ないし怪我もしていないように見える。
もしかするとバジリスクが調理実習室に来る前に三人が避難して無事だったのか?
まあ、それはそれでよかったけど。
だけどそうだとしたら疑問が浮かぶ。
三人はなぜバジリスクに襲われなかったんだろう。
襲われていたとしてもなんで教師だけ石化されているんだ?
「あの~……」
「……あっ、ゴメンゴメン。気にしなくて良いよ。それより君達はどうしてここにいるのかな?」
「えっと、私達、午後の授業が調理実習だったんですけど、突然トカゲみたいな化け物が窓を壊してきて……その……私達の腰が抜けちゃって、逃げ遅れちゃって準備室に逃げたんですけど先生が……」
……なるほどな。
なんで教師だけバジリスクに石化されていたのかもだいたい理解した。
多分こんな流れだろう。
まず、あのコカトリスとバジリスクが授業間の休み時間に現れた。
この調理実習室はコカトリスとバジリスクが現れたグラウンドに接した場所にあるから、バジリスクもここを標的の一つにしたんだろう。
この逃げ遅れたって言った子がいるって事は他の生徒は逃げていて、この教師はバジリスクに腰を抜かしたあの三人の生徒を逃がすために準備室に逃がして扉を閉めようとしたときに【石化の魔眼】を使われて石化したってところか。
そしてこの三人が無事だったのはは扉を閉めるように先生が石化された。
そして、バジリスクが殺すなと言われていたから石化した教師が壊れてしまう可能性があったから扉を壊す事も、開ける事もできなくて俺が来るまでバジリスクが準備室の中に入れなくなったからかな。
まあ、教師だけ石化しているのはこんな感じの流れがあったからだろう。
鍵がかかってたのはこの三人の誰かがかけたのかな?
で、なんで石化した教師を移動しなかったのかはわからないけど、多分目の前で石化しちゃっただろうし未知への恐怖かな?
「なるほどね。状況はわかったよ。とりあえず今はもう大丈夫だから安心してくれ」
「はい!本当にありがとうございました!」
そう言うとその子は深々と頭を下げる。
他の二人も同じ様に頭を下げてきた。
「そ、それで、あの化け物はどうなったんですか?」
さっきまで少し怯えている様子だった女の子の一人が聞いてきた。
「ん?ああ、それなら俺が倒したから問題ないぞ」
俺の言葉を聞いて女の子達は驚いた表情をする。
そしてすぐに疑わしい目で見てくる。
「本当に……ですか?あなたがあの化け物を……?」
「そうだよ?ほら、これを使ってね」
俺は三人に良く見えるように俺の武器である両手鎌を見せる。
三人は俺が見せた両手鎌をマジマジと見て確認しているようだ。
「……これ、本物なんですか?」
「もちろん。これを使って扉の前に陣取っていたバジリスクを倒したんだよ」
俺がそう言うと三人は驚きながら顔を見合わせている。
だけどまだ三人は信じきれていないらしく、疑いの目でこちらを見てくる。
まあ、普通は信じてもらえないだろうな。
だけど今は普通の状況とは口が裂けても言えない状況だ。
それに、俺も顔を隠しているし声も変えているから探されても俺に辿り着く可能性は限りなく低くなっている。
だから俺が力を隠す必要なく、自由に力を使える状態だ。
だからこんな事もできる。
俺は両手鎌の刃の部分に自分の右人差し指を軽く滑らせる。
すると俺の人差し指の先が両手鎌の刃の部分によって切れて血が出てくる。
「ちょっと!?何してるんですか!?」
「え?だってこれが一番本物だってわかりやすくないかなって思って【ヒール】」
慌てる女の子にそう言いつつ、俺の人差し指から少量の血流している切り傷を魔法で治す。
あ~本当に納得させるためにこれらの事を隠す必要が無いの本当に楽。
「……本当みたいですね……正直傷が治ったのも信じられないんですけど……今、なにをしたんですか?」
「うん。わかってくれて嬉しいよ……まあ、これは考えるなってやつだよ。多分この状況ならすぐにわかると思うよ」
そう言うと三人はなにか聞きたそうな顔をしていたけど、これ以上なにかを聞くのは無理だと察してくれたのか、それ以上はなにも俺に聞いてはこなかった。
そんな三人を尻目に俺はまだ準備室に置かれたままの石化された教師に近づいていく。
「……あの、なにを?」
「いや、ちょっとね」
俺が幽体離脱(仮)をしないでここまで来たから石化した人を直接確認できる。
とりあえず石化しているとはいえ女性だから下手なところは触らないように調べよう。
まずは手を触ってみてと……
ふむふむ……触った感じはまんま石だな。
感触は冷たいし、硬い、そしてざらざらした感覚がある。
表面を撫でたり軽く叩いたりしてみるけど石以外に特に変わったところはない。
ただ石化とはいえコカトリスの殺すなという命令があったからか、体の中までは石化していないようで、心臓も脳もちゃんと動いている。
多分この石化は表面だけの石化で、体内は無傷の状態なんだと思う。
これなら【回復魔法】で状態異常を回復する魔法を使えば特に問題無く元に戻るだろう。
まあ、ものは試しだろう。
石化を解除できてらそれで良いし、ダメだったらまた別の方法を考えてみればいいだけだ。
とりあえず石化して動けなくなっている教師の頭に右手をのせる。
「【リカバリー】」
そして石化している教師の頭にのせた右手に魔力を流して【リカバリー】を発動させる。
【リカバリー】は今の俺が使える状態異常を回復させる魔法の中で最高の【回復魔法】だ。
これで効果が無かったら、もう俺にはどうしようもない。
【回復魔法】のスキルレベルを上げるか、また別の方法を探すしか無いだろう。
頼む!効いてくれよ!
俺がそう願っていると教師が光に包まれていく。
そして、教師の石化した表面がポロポロと崩れていき、光が消える頃には元の人間の姿に戻っていた。
すると、石化が解けた事で、体勢を崩してしまい倒れそうになる教師の体を俺は抱き抱える。
そして、そのままゆっくりと床に横にして寝かせる。
一応脈なんかも確認してみるが、正常のようだ。
良かった。どうやら上手くいったらしい。
「よし!うまく行ったみたいだな」
「せ、先生が!」
「え!?嘘……」
「……!?」
俺の言葉を聞いて女の子達は驚いている。
一人は驚き過ぎて声もでない様子だけど、他の二人は驚きながらも冷静さを失っていないようだ。
「これでこの人は良しっと……後はコカトリスを倒せば」
石化の治療は俺でもできるって事がわかったし、次はコカトリスを倒すだけかな。
……そういえばここからグラウンド見れるよな?
俺は準備室の窓からグラウンドを見てコカトリスを探していく。
だけどコカトリスの姿もバジリスクの姿も、石化されて連れていかれたであろう生徒や教師の姿はどこにも見当たらない。
……いや、バジリスクは視界に入った。
バジリスクは二匹がピタッとくっつくように列になって歩いていてその間には石化された人達がいる。
その足取りは乱れること無く、中等部の校舎に向って歩いている。
そして、バジリスクが中等部の校舎に向かっているってことは……
「あっちにコカトリスはいるのか……」
「あ、あの……私達これからどうすれば?」
「……助けてくれるんじゃないんですか?」
「あぁ、ごめんね。とりあえず、コカトリスは俺がなんとかするから、君達はここに隠れていてくれないかな?」
「で、ですけど……」
「大丈夫だよ。多分すぐ終わると思うから」
そう言って俺は窓の方に視線を向ける。
こうしてコカトリスがいる方向さえわかってしまえば、【気配感知】で詳しい場所を特定できるからな。
俺は準備室の窓を開けて窓枠に乗る。
「それじゃあ、ちょっと待っててね」
俺は三人に声をかけて、窓から中等部の校舎へと飛ぶ。
目的地は中等部校舎の屋上!
コカトリスはそこにいる!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます