コカトリス(前)

高等部の準備室から中等部の校舎、三階の窓へ向かって飛ぶ。


なにか後ろから声がしたが、もう俺は中等部の校舎へ向かっているから反応できないのは勘弁してほしい。


まあ、【飛翔】スキルで戻る気になれば戻れるけど俺に関してのボロを出すのも怖いからな。


それにしても、あの子達が無事で本当によかった。


それに、目的の石化させられた人を直接見れたし、俺が石化を治せる事もできた。


石化を解除する方法が他にもあるかもしれないけど、とりあえずそれは置いておこう。


コカトリスをどうにかして、その後ゆっくり考える事にしよう。


っと、危ない。


そんな事を考えている間にも中等部の校舎の三階の割れている窓が視界に入ってきた。


そこを目指して【飛翔】スキルを使って調整して割れている三階の窓から中等部の校舎の中に入る。


正直三階を選ばなくても直接屋上に行くこともできた。


だけど浮いてる途中でコカトリスに見つかって【石化の魔眼】を使われたら洒落にならないから三階にしたのだ。


それに、俺の【気配感知】が感じている石化された人の気配は屋上にはないし、バジリスク達が運んでいる石化している生徒や先生達は一階の教室や廊下に集められている。


しかも感じられるだけでその気配の数は結構ある。


多分中等部の校舎の大半の人が石化されているんだろう。


それに加えて高等部の人も数人。


こうして考えると良くエスカリアさんは高等部の校舎まで来れたな。


確かにグラウンドから離れるように中等部と高等部の校舎をつなぐ渡り廊下はあるがとっさに行動しなきゃいけなかっただろうに。


そう考えればやっぱり凄いよな。


まあ、それは置いといてだ。


石化された人達も助けたいがそのためには、あのどんどん石化された人達を運んでいるバジリスクを何とかしないとな。


だけどそれはコカトリスに戦闘音で俺がいるのがバレるかもしれないから今は無理だ。


コカトリスは出きるなら不意打ちをしたいからな。


石化されてる人も命の保証がされてるからまだ良いけど、普通だったら確実に死んでいたはずだし、早く助けてあげないとな。


だからまずは……


「コカトリスを倒さないとな」


俺はそう呟くと同時にコカトリスがいる屋上に向かって走り出す。


バジリスクは全て一階に集まっているみたいだから、屋上にいるコカトリスだけを相手にすればいい。


そしてしばらく走り、屋上に続く階段に辿り着く。


……よし。


一旦一息ついて息を整えてから壁に背中を預けて幽体離脱(仮)をする。


すると、俺の身体は力なく壁に力無く倒れていく。


よし、成功!


そして、屋上に入るための扉をすり抜けて中に入るとそこにはコカトリスの姿があった。


コカトリスは座り込んで卵を暖めて孵すような体勢をしている。


そしてコカトリスの前にはあの校庭でグラウンドに落とした物と同じ宝玉があった。


「コッコッコッコッコッ。順調、順調。この調子でどんどん石化させるコケェ」


幽体離脱(仮)をしている俺はコカトリスの独り言を聞いて確信する。


コカトリスは俺の存在に気づいていない。


宝玉の事は気になるが、とりあえず今はコカトリスを倒す事が先決だな。


俺はコカトリスの後ろに回り込む。


このコカトリスはゴブリンキングとほぼ同格の存在だと思う。


そうなってくると前みたいに俺が魔法を使った攻撃のために使う魔力を感じられて魔力を使った攻撃で逆に反撃される可能性がある。


だからこそ、気づかれる前提で……


「【ウインド「コケーッ!」カッター】!」


やっぱりというべきか、コカトリスは俺の攻撃に対して魔力を纏わせた翼で叩くように翼を振ってきた。


だけど俺はその反撃を予想してたから、コカトリスが翼を振ってくるのをギリギリで避けながら、コカトリスの後ろからコカトリスの首に向かって風の刃を放つ。


当たれ!


「コッ!?」


だけど俺の放った【ウインドカッター】は少しコカトリスの身体をかすっただけだった。


「コケーッ!見えないけどなにかいるコケッ!どこにいるコケッ!?」


どうやら俺のいる正確な場所はわからないようだ。


まあ、不意打ちが失敗したからには、ここからは正々堂々と戦うしかないか。


魔法がこのままの状態で通用しないなら、近接戦闘も使った全てで戦うしかない。


俺は直ぐに自分の身体に向かって行き、直ぐに自分の身体に戻る。


そして、屋上へ向かって扉を勢い良く開いて屋上に入る。


「なっ!?次はなんだコケッ!?」


コカトリスは俺の突然の登場に驚いて動きが止まっている。


だけどまたコカトリスが動き出すのを待ってやるほど俺は優しくない。


俺はすぐさまコカトリスの懐に入り込み、両手鎌をコカトリスの頭に向けて振り上げる。


「コケェーッ!!」


コカトリスは本能からかガードはせずに仰け反るようにして後ろに下がる。


「くそっ!避けられたか!」


「……危なかったコケ。まさかこの世界にこんなに動ける人間がいたなんて驚いたコケ。でももうお前は終わりだコケ。お前は石にしてやるコケッ!」


そう言うとコカトリスは眼に魔力を流して【石化の魔眼】を発動しようとしてくる。


だけど事前に【石化の魔眼】を使ってくる事がわかっていたから対策は既にしてある。


俺は両手鎌を使って床を四角形に切り裂く。


「なにをしたコケ?なにも起きないコケ?」


コカトリスはそんな俺の行動に首を傾げている。


「お前の切り札の対策だよ!」


俺は四角形に切り裂いた床がしたに落ちない内に両手鎌の先を刺す。


「うおおおぉぉぉおおお!!!」


そして力任せに切り裂いた床を刺した両手鎌を使って持ち上げる。


……これはコカトリスを倒すための事だから勘弁してほしい。


「これで終わりコケーッ!」


そして、コカトリスはそんな事お構い無しとばかりに【石化の魔眼】を使ってきた。


「そんなわけ無いだろうがっ!!」


それに対して俺は持ち上げた四角形に切り取った床をコカトリスの視界を遮る壁にするように立てる。


「コケッ!?」


そして、使用された【石化の魔眼】は俺が作った壁に遮られて効果は現れなかった。


そして、魔力の波動が止まったのを見計らって、コカトリスの顔の前にあった四角形の壁を蹴り飛ばす。


俺が蹴り飛ばした壁は粉々になって礫になってコカトリスに襲いかかる。


「コケェエエーッ!?」


それに対してコカトリスは魔力を流した翼と足を使って対応して防ぐ。


「……ふう、なんとか上手くいったな」


俺がやった事は至極単純なものだ。

ただコカトリスの【石化の魔眼】を防ぐ為に作った四角形の瓦礫を持ち上げて、コカトリスの視界を遮って俺に効果が及ばないようにした、それだけだ。


この作戦自体は単純だが、コカトリスの石化の能力を知っているからこそ出来ることだ。


あとは必要の無くなった壁を次の攻撃の起点にすれば邪魔な壁は無くなる。


……まあ、穴ができたからそこは気を付けなきゃいけないんだけどな。


「コケッ……コケーッ……これはマズイコケッ……これは逃げるが勝ちコケッ!」


コカトリスはそう言って俺の事を警戒してか俺から直ぐに離れようとしている。


「逃がすか!」


俺はコカトリスを追おうと走り出す。


既にコカトリスは落下防止のフェンスの上に立っていて直ぐにでも逃げられそうだ。


だけどそれを許すわけにはいかない。


「【ウインドカッター】!」


俺はコカトリスの翼を狙って【ウインドカッター】を放つ。


俺の放った【ウインドカッター】はコカトリスの右翼に命中し、コカトリスの右翼を斬り落とす。


「コケーッ!?」


コカトリスは痛みで叫び声を上げながらバランスを崩し、そのまま背中から屋上にフェンスの上から落ちてくる。


「今度こそ終わりだ!」


俺は落ちて来るコカトリスに向かって駆け出し、コカトリスの頭に両手鎌を振り下ろす。


「コケッ!?それはマズイコケッ!!」


コカトリスは咄嗟に転がって俺の攻撃を避ける。


「なっ!?」


コカトリスは俺の【ウインドカッター】で右翼を切られた事でコカトリスの右半身は吹き出ている血で赤く染まっていてそれ以外の白かった部位も所々血で赤くなっている。


そして、転がってうつ伏せになり、息を荒くしたままこちらを見てくる。


「はぁ……はぁ……危なかったコケ……」


……避けられた。


今のは完璧に決まったと思ったんだが……


やっぱり一筋縄では行かないな……


「クッ……それなら!こっちだコケッ!」


コカトリスはそう言うとうつ伏せに倒れた体勢から起き上がって俺が両手鎌で床に開けた四角形の穴に向かって走る。


片方の翼が切られて左右非対称のコカトリスはバランスが悪くなっているはずなのに立てて走れているのはさすがと言うべきか。


そして、コカトリスはそのまま真っ直ぐに穴の中に飛び込むと姿を消す。


「くっそ!校舎の中に!」


というか本当に俺が作った穴に逃げ込まれるのは予想外だ。


戦闘中に落ちないようにしたりは気をつけてはいたがまさか逃げるために使われるなんて……


俺は慌ててコカトリスを追うようにその後に続いて穴の空いた場所に飛び込んだ。


絶対に逃がさないぞコカトリス!

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