体育館とバジリスク

「な、なんでコカトリスが……ここに……」


「わかんねぇ。だけど……ヤバイな」


「うん。ヤバイね~」


俺達はうまくコカトリス達に見つからずに、なんとか体育館の前まで来ることができた。


途中、俺達と同じ事を考えたのか他の生徒や先生達も体育館に向かって来ていて廊下はすごいことになっている。


正直、早めに教室を出てきて正解だったと改めて思った。


生徒達もどんどん体育館に集まってきているけど、今のところ誰も体育館までこれた生徒はトカゲのモンスターに襲われていないようだ。


ただ、いつ襲ってくるかわからないトカゲのモンスターを警戒しつつ、なるべく固まって行動するように呼びかけられている。


「ソラさん、これからどうしますか?」


「んーそうだな……」


エスカリアさんの問いかけに、少し考える。


確かにこの場にいる全員で固まっていれば安全かもしれない。


でも、もし校舎どころか学校の敷地から出てコカトリス以外のモンスターが来て、一斉に襲いかかられたらひとたまりもない。


だから逆に俺が一人で打って出て安全を確保きたいんだけど……


「……ソラさん?」


「……あ、ゴメンゴメン」


「大丈夫ですか?なんだかさっきから上の空って感じですよ?」


「ああ。ちょっと考えごとをしてただけだよ」


エスカリアさんに心配されてしまった。


まぁ、考えてた内容は言えないけど、今俺達がやるべきことは、ここにいるみんなの安全を確保して、コカトリスとあのトカゲのモンスターを倒すことだ。


そのためにまずは……


「エスカリアさん、なにかあったら誤魔化しといて下さい。……陽介、早希、悪い。ちょっとトイレ行ってくるわ」


「お、おい空」


「大丈夫だって。すぐ戻るから」


俺はそう言って、陽介と早希に声をかけてからその場を離れる。


エスカリアさんには小声で伝えたから、なにかあったら最悪、誤魔化しておいてくれたらいいなと思う。


そして、もちろん二人に言ったように、本当にトイレには用を足しに行くのではなく、目的のために動きたいから行く。


とりあえず二人に言った通りトイレまで行って個室へ入る。


そして【アイテムボックス】から防具一式を取り出して装備していく。


さすがに両手鎌はここで出したら窓から出る予定なのに引っ掛かっちゃって出れなくなっちゃうからな。


……だけどトイレの個室で防具を装備するとか端から見たらシュールだな……


……よし、準備完了だ。


後はステータスからSPを100使って【状態異常耐性】を取得してと……


……多いんだよな、消費SPが……まあ、それに見合う効果があるからいいんだけどさ。


ちなみに【状態異常耐性】の効果はこんな感じ。


【状態異常耐性】

・ありとあらゆる状態異常への耐性がつく。

・スキルレベルが上がることで効果が上昇する。


こんな感じなのだが、このスキルがあれば石化も、毒も、ある程度は無効化できるはずだ。


それに、あの魔力の広がり方は恐らく広範囲に影響していた。


石化は魔眼によって引き起こされるものだろうから視界の中に入らない限り問題ないはずだ。


あとはコカトリスとその取り巻きのトカゲのモンスターがどんな攻撃をしてくるかによるな。


「ふぅ……行くか」


俺はそう呟くと、気を引き締めて、窓から外へ出る。


外へ出ると、幸い生徒達も外に居なかったからなのか、コカトリスもトカゲのモンスターの姿もなかった。


「……いないのか?」


コカトリスも、あのトカゲのモンスターも、辺りを見渡しても姿が見えない。


【気配感知】でも気配を探ってみたから確実に体育館の辺りにはコカトリスもトカゲのモンスターもいない事が気配がないからわかる。


「いないなら好都合だ。今のうちに……」


今の俺は石化された生徒や先生達の救出を目的の1つとしているから、コカトリスがいないならそれに越したことはない。


その関係で今は幽体離脱(仮)をしたら触れなくなる関係でいまの俺は生身だから石化も毒もどっちも最大限警戒しなきゃな。


だからコカトリスもトカゲのモンスターもいないのは俺からしたら好都合だ。


そして、安全を確認した体育館から離れて行くが……


「……声が聞こえない……」


時々なにかの音は聞こえてくるのだが、それ以外の音は全然しない。


「まさか……全員もう……!?」


いや、そんなはずはない。


まだ校舎内には生徒がたくさんいるはずだ。


「……急ごう」


俺はそう呟き、高等部の校舎に向かって走り出す。


「……やっぱり、いない……」


俺は、走りながら思わずそう呟く。


高等部に向かう道の途中、他の校舎にも入ってみたが、どこも人の気配がない。


……それに石化されたと思われる人達も。


「……トカゲのモンスターの仕業か」


俺は走りながらそう結論付ける。


コカトリスが捕まえろ、絶対に殺すなといっていたから、石化された人達は連れてかれたんだろう。


それにコカトリスはステータスだけ見たらゴブリンキングに匹敵していたしトカゲのモンスターを呼び出していた。


つまりコカトリスはボスクラスだと言うことになる。


自分でここまで行動するということはないだろう。


「でも、なんで……」


そうなるとなんでコカトリス達はあのトカゲのモンスターに生徒や先生達を殺すように命令しなかったのか。


それどころか捕まえるように命令をしていた。


なんでだ?コカトリスは一体何を考えている?


『ゴブリンキングの巣』から出てきていたゴブリンは人を襲って……殺していたからモンスターが人を殺さないというわけではない。


でも、コカトリスは人を殺すように命令していない。


「……考えるのは後にしよう。まずはモンスターをどうにかしないと……」


……考えても情報が足りてないしな。


俺は、考え事を一旦中断して、再び走るスピードを上げる。


すると、前方からドスドスという音がする。


「なんだ……?」


俺が音のする方に隠れながら視線を向けると、そこにはコカトリスが呼び出したトカゲのモンスターが歩いていた。


なるほど、ドスドスという音はあいつの足音だったのか。


だけどちょうど良い。


さっきは直ぐに教室から離れたからあのモンスターのステータスを見れてなかったんだよな。


「【鑑定】」


俺はステータスを確認する。


------

名前:なし

性別:♂

種族:バジリスクLv.35


体力:4040/4040 魔力:940/940

攻撃:2680

防御:1470

俊敏:870

器用:690

知力:1940

幸運:41


所持SP:3

魔法スキル:なし

取得スキル:【石化の魔眼Lv.3】

固有スキル:なし


称号:なし

------


なるほど……バジリスク……


それにやっぱり持っていたか【石化の魔眼】。


コカトリスが呼び出したモンスターだったから持ってる可能性は高いと思ってたけど予想通りだ。


これでグラウンドの生徒や先生達を石化させたあの魔力の波動はバジリスクだと確信が持てた。


それに、バジリスクが歩き回っているということは高等部の校舎に人がいないのは石化されて連れていかれたってことがわかった。


「とりあえず倒すか」


ステータスもわかったし、あのバジリスクは【石化の魔眼】に注意すれば良いことがわかったからここで倒しておこう。


さすがに【石化の魔眼】が怖すぎるから死角からの魔法でサクッと倒したいところだが、一応他のバジリスクがいないか【気配感知】で確認してっと……


よし、近くにあいつ以外のバジリスクはいないみたいだな。


それじゃあ……


俺は【アイテムボックス】から両手鎌を取り出して魔力を両手鎌に流す。


「【ウインドアロー】!」


【ウインドアロー】で風の矢を作り出し、それを死角からバジリスクに向けて放つ。


放たれた風の矢は一直線に飛び、俺の声に反応したバジリスクの眉間に命中した。


バジリスクは【石化の魔眼】は確かに厄介だけど、ステータスは俺に比べたらそこまで高いわけではない。


だから圧倒的なステータス差があれば不意打ちで一撃で倒せる。


「よし!」


俺は小さくガッツポーズをする。


そして、その攻撃でバジリスクが死ななかったなんて事はなく、そのまま魔石と革らしき物を残して、塵となって消えていった。


よかった……ちゃんと倒せた……


ステータスの差からあまり心配はしてなかったけど、見た目がトカゲだったから、もしバジリスクがステータスに反映されない特性のような物を持っていたらどうしようかと思った。


トカゲが逃げる時に使う尻尾を切り離す習性みたいにな。


だけどそんなこともないっぽいし、この調子なら思っていたより早く他のバジリスクも倒せそうだ。


「次行くか」


俺は【吸魂】をして【アイテムボックス】にバジリスクからドロップしたアイテムをしまってから次の獲物を求めてまた走り出した。


……得られる経験値に対して俺のレベルアップに必要な経験値が足りなかったらしく、レベルが上がらなかったのはご愛敬だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る