宝玉とニワトリ
あのモンスター達が塔から出てきてるってことは、あの塔はダンジョンのようなものじゃないのか?
そうなると、あの大きさからして『ゴブリンキングの巣』よりも遥かに大きな規模になっているはず。
それに、あの強さのモンスターがうようよいるってことはあのダンジョンのモンスターの強さもかなり高いはずだ。
……早く離れた方がいいな。
そう思い、俺は急いでエスカリアさんと陽介と早希を連れてその場を離れようとしたのだが……遅かったようだ。
「おい!あれを見ろ!」
クラスメイトの1人が大声で叫ぶ。
その方向に全員の視線が向いた。
その方向はグラウンドだ。
グラウンドに目を向けると、そこにはさっき見つけた鳥のモンスターとそのモンスターに乗ったモンスターがいた。
そのモンスターは、見た目は俺達がよく見るニワトリだ。
しかし大きさは俺達の何倍もあり、そして額に生えた一本の角は禍々しい。
そして、尾は蛇のように長く、鱗に包まれており、その目は赤く光っている。
翼もニワトリのような純白の翼ではなく、鱗の生えている翼でイメージとしてはドラゴンの翼のようだ。
あきらかに今まで見てきたどのモンスターとも違う存在感を放つそれは、俺はともかく、そいつを見たクラスメイトや生徒が恐怖で動けなくなるぐらいの圧力を持っていた。
「……なんだよ、あいつ……」
俺は思わず呟いてしまう。
それだけあのモンスターはマズイ。
気配からして今の俺が全力でやりあって五分五分といったところか?
それに、あのモンスターは多分、このクラスの生徒や先生だけじゃなく、学校全体を襲ってくるはずだ。
だけど、そのニワトリのモンスターを見てグラウンドにいた生徒達は校舎の中に逃げてきているが鶏のモンスターはそれを追う様子は見えない。
なんでだ……
「コカトリス……」
隣にいる早希がボソッと言葉を漏らす。
「コカトリス?……なんだ、そのコカなんとかっていうの」
「コカトリスだよ~コカトリス!知らないの!?」
「いや、初めて聞いたぞ」
「えぇ~」
陽介に対して早希が呆れたような表情をする。
まあ、確かに俺もゲームやアニメでしか見たこと無いからそういう事に興味がない陽介じゃ知らなくってもしょうがないな。
コカトリスという存在は、簡単に言えばニワトリとヘビを合わせたような姿をした魔物だ。
伝承などではその吐息に猛毒を持っていると言われていて、対象を石にしてしまう石化のブレスを吐いたり、見た相手を石化する魔眼を持つと言われている。
「……【鑑定】」
両隣にいる陽介と早希に聞こえないような声で俺は小さくつぶやく。
【鑑定】であのモンスターが本当にコカトリスかを確かめる。
結果はすぐに出た。
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名前:なし
性別:♂
種族:コカトリスLv.74
体力:14500/14500 魔力:1680/1680
攻撃:6400
防御:3600
敏捷:1950
器用:2800
知力:2450
幸運:67
所持SP:15
魔法スキル:なし
取得スキル:【毒の吐息Lv.6】【石化の魔眼Lv.7】【気配察知LV.4】【蹴術LV.5】【瞬歩LV.8】【毒耐性Lv.6】
固有スキル:なし
称号:なし
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どうやら正真正銘あのニワトリのモンスターはコカトリスらしい。
そしてステータスも今の俺とほとんど変わらない。
いや、むしろ少し向こうの方が上かもしれない。
それに加えてあのスキル。
全体的にスキルレベルが高く、一部名前からしてマズイスキルがある。
詳しく知りたいからスキルに【鑑定】したいけど……そんな暇は無さそうだな。
既にコカトリスはなにかしらの行動を起こそうとしているのが俺の視界に見えている。
魔法を使って止めようにもこの衆人環境の中、魔法を使うわけにもいかない。
「お、おい。あのコカトリスだっけ?なにかしようとしてないか?」
陽介がそう言った瞬間だった。
コカトリスがその手に持っている宝玉をグラウンドに落とす。
すると、その宝玉は地面の中に吸い込まれていき、代わりにコカトリスの足元に大きな魔法陣が現れた。
あれはマズイ……!
「全員今すぐグラウンドから離れろ!」
俺はエスカリアさんと陽介、早希だけでなくクラスメイト全員に向かって、叶うことなら学校全体に微かでもいいから聞こえてほしいと願って叫ぶ。
だが、遅かった。
コカトリスの足元の魔法陣から、爬虫類のような鱗を持った存在が複数出てくる。
そして、だんだんとその姿を魔方陣から現し、コカトリスの周りに完全に姿を現した。
コカトリスの体の大きさは約六メートル。
対して、新しく現れたニワトリのモンスターの高さが半分ぐらいだから三メートルぐらいか。
その数は全部で三十匹ぐらい確認できる。
だが、その姿はコカトリスに比べると明らかに姿が違う。
なんというか……黒色のトカゲを想像してもらえば良い。
黒色のトカゲがそのまま大きくなっている、そんな感じだ。
コカトリスと比べて、気配的にも全体的にかなり弱いと思う。
だけど、それでも普通の人間よりは圧倒的に強いだろう。
あの宝玉はいったいなんなのか……あの宝玉が地面の中に吸い込まれていったかと思うと魔方陣が出てきて、あのトカゲのモンスターが出現した。
普通に考えたらあの宝玉はモンスターを出すだけのアイテムってことになるんだけど……それだけじゃないと思う。
「おい!お前らなにしてる!早く逃げるぞ!」
俺が考えている間に、コカトリスから距離を取ろうとしていた先生や生徒達がまだグラウンドにいる生徒達をグラウンドから離そうと声をかける。
だけど、生徒達は動かない。
それはクラスメイトだけではなく、他のクラスや学年の人達も同じだろう。
先生達が必死に声をかけているが、恐怖で動けなくなっている生徒や先生達もいる。
「お前ら!人間共を捕えろコケー!絶対に殺すなケー!」
コカトリスが先生やまだグラウンドから離れていない生徒達の方に顔を向けて命令する。
というかやっぱりキングクラスだから言葉を話せるのか……コカトリスの言葉に反応したトカゲのモンスターが一斉に動き出す。
そして、コカトリスの命令通り、トカゲのモンスターはまだグラウンドにいる生徒達を捕まえようと襲い掛かる。
「キャーッ!!!」
「逃げろ!!!」
「うわぁああああっ!!!」
突然の襲撃に対応できず、パニックになって校舎に向かってバラバラになりながら逃げ惑っている生徒や教師がいる。
そんな生徒達に向かってトカゲのモンスターが襲い掛かる。
その襲いかかるトカゲのモンスターの目には魔力が集まっているのが感じられた。
……ヤバイッ!
あいつらはコカトリスが呼び出したモンスター……ということはあのトカゲのモンスターは!
「くっそ!」
「きゃっ!」
「うおっ!?」
「わ~」
俺は近くにいるエスカリアさん、陽介、早希の三人を巻き込むように、床に倒れ込む。
幸い、割れた窓の破片は外に落ちているから窓からは一応距離を取れば良いだろう。
「お、おい空!いきなりなにすんだよ!」
陽介が文句を言ってきたけど、今はそれどころではない。
俺が予想したとおり、コカトリスが呼び出したトカゲのモンスターの目に集まった魔力が解放された。
放たれた魔力はしばらく放たれたかと思うとだんだんと魔力の波動が消えていく。
……そして、音が消えた。
「ソ、ソラさん、ど、どいてください」
「空~重いよ~」
「わ、悪い」
エスカリアさんと早希の声を聞いて、すぐに起き上がる。
「悪い。三人とも大丈夫だったか?」
「はい。私は平気です……」
「あたしもだいじょぶだよ~」
「俺もだ」
よし、三人とも無事みたいだな。
……だけど外から音が聞こえない……
「……え?」
最初に疑問の声を上げたのは誰だったかわからない。
だけどその言葉をきっかけに窓の外を見ようとしていたクラスメイト達から次々と声が上がる。
そう……外の音が全く聞こえなくなっていたのだ。
さっきまではうるさいぐらいに聞こえていたはずの悲鳴も、逃げろと言っていた先生達の声も今では全く聞こえない。
「なんだこれ?どういうことだ?なにが起こってるんだ……?」
陽介もその不気味なまでの静寂を感じているようで、困惑しているようだ。
早希なんかはまだ状況を飲み込めず、辺りをキョロキョロしている。
「……ソラさん……まさか……」
「……ああ。そのまさかだよ」
俺は割れている窓からゆっくりと顔を出して、外を見る。
するとそこには、俺の予想通りの光景が広がっていた。
「な、なにが起きてるの……?」
俺の後ろから同じように窓の外を見た早希が震えなから言う。
そこには、さっきまでグラウンドにいた声を発していた人間全てが石になっていた。
「これは……どうなってるの……?」
早希声を震わせながら呟く。
「……とりあえず、ここから離れよう」
俺はそう言って、早希の手を取ってなにも言わずついてきてくれたエスカリアさんと陽介と一緒に教室から離れる。
殺すなってコカトリスは言っていたから、石化させられただけでまだ殺されはしないはずだ。
今、コカトリス達を倒すにしても、石化された生徒や先生を助けるために姿を現すわけにも、俺の力を不特定多数に見られるわけにもいかない。
それに、今それらの事を抜きにしてあそこに行ったとしても、あの石化に対する有効な手段がない以上、俺も石化されるだけだ。
だから今は逃げるしかない。
とにかく今はグラウンドから離れる事を優先するしかない。
だけど、学校の外に出ても他にもコカトリスのようなゴブリンキング級のモンスターは学校の敷地外いるだろう。
確実にコカトリスだけじゃないんだ、この状況を作り出しているのは……!
俺は、今は逃げるという俺の考えが正しいと思う。
だから体育館に向かってエスカリアさん、陽介、早希と一緒に走る。
体育館ならグラウンドからは遠いし、あそこなら扉を塞げる物も多い。
そして何より、あそこは広いし隠れられる場所も多い。
幸い、トカゲは犬などの様に鼻がいいわけではないだろうし、匂いで追ってくることはないだろうから、あそこに逃げるしか今はないはず……
それに俺が隠れられさえすれば【アイテムボックス】から武器、防具の一式が出せる。
そうすれば、後は耐性のスキルをSPを使って取得すれば戦えるはずだ。
……このまま逃がしてくれよ……頼むから……
そう願いながら、俺は三人に足並みを揃えて体育館に向かうのだった。
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