異変と異常事態

ゆっくり寝た翌日。


現在は昼休みを終え、午後の授業中だ。


今日は授業の担当教員が休みとのことで自習となっている。


本当だったら今の時間も学校を休んで昨日のゴブリンについて調査に行くつもりだった。


だけど事故で治療のために入院(建前)という休みでかなりの日数、学校を休んでいる。


だから、これ以上あまり休むわけにもいかない。


というかこの状態で休んでいったら確実に留年するだろう。


そうなると、また面倒なことになる。


だから学校に来ているし、今も自習とはいえちゃんと授業を受けている。


それに、朝起きてからゴブリンなどの目撃情報が無かったか調べてみたが、都合の良いことにゴブリンを写真や動画を撮った人は見当たらなかった。


………だが、それでもゴブリンを見てしまった人がいるらしくその人は警察に通報したらしい。


幸い、人が襲われるなどの被害は出なかったが、ゴミ袋が荒らされていたり、窓ガラスに傷が入っていたりと、被害が出なかっただけで色々と問題が起きていた。


なんとかそれだけの被害に収まっていて良かったと思う。


確かに調査もした方が良いとは思うが、これ以上休んで留年するのは避けたいので、調査は放課後だな。


俺はそう思っていた。


キーンコーンカーンコーン


授業の終わりを学校全てに伝えるチャイムが鳴った。


特に教員もいないからクラスメイト達が教室の外に出たり、教室内の友人の席の元に行ったりしている。


もちろん例外もある。


俺みたいに1人でいるやつもいるし、図書室にいるような真面目な生徒などは一人で勉強をしている。


時間は3時か。


それを認識した時だった。


「えっ!?」


突然視界が揺れ始めた。


いや、視界だけじゃない、体全体が揺らされている?


これは地震か?


少し揺れている程度で俺も各々休み時間に好きなことをしているクラスメイトも特に気にしていなかった。


「地震か?」


「え?揺れてるの?」


「言われるまでわからなかった」


そんな声が聞こえてくる。


どうやらみんなもこの揺れを認識してきたらしいが特に今やっている事をやめる事もなかった。


俺もこのぐらいかと思っていたしな。


しかし、数分経ってもまだ揺れ続けていた。


そして、徐々に揺れが強くなってきた。


最初は震度2くらいだったが今は震度4くらいにはなっている。


「おい!これ結構強くないか!?」


「皆!机の下に隠れろ!」


流石におかしいと思ったのか、何人かが騒ぎ出して机の下に隠れていく。


それを見た他のクラスメイトもどんどん空いている机の下に隠れていった。


俺もそれに倣って机の下に隠れた。


すると、その後すぐに教室の中は真っ暗になってしまった。


恐らく、校舎全体がこんな感じだろう。


この教室だけでなく、廊下からも悲鳴のような叫び声が聞こえてくるってことは、少なくとも学校の敷地内では同じことが起きているはずだ。

俺はスマホを取り出してライトをつける。


周りを見るとクラスメイト達も同じように机の下でスマホを取り出そうとしていた。


そして震度が表せないぐらいになっただろう、窓も割れて蛍光灯が落ちてくるような音も聞こえてくる。


そんな時だった。


「「「「キャーッ!!」」


女子の悲鳴のような叫び声が窓の外から聞こえてくる。


最初はただ、この状況に悲鳴をあげている、そう思っていた。


だけど、なにかが違う。


この状況の悲鳴にしてはおかしくないだろうか?


普通なら、もっと恐怖に満ちた声を上げるんじゃないだろうか?


だけど、さっきの悲鳴は恐怖の悲鳴ではなくどちらかというと、驚きの声に近い気がする。


それに今のこの異常な状況で冷静になる方が無理があるかもしれないけどな。


そう考えながら机の下でかなりの時間を過ごしている。


すると、だんだんと揺れが弱くなっていくのがわかった。


俺は恐る恐る机の下から出た。


「おい、もう出てきても大丈夫だぞ」


「本当か?」


「ああ、多分大丈夫だと思う」


「怪我してるやつはいないかー?」


周りのクラスメイトも次々と出てくる。


とりあえずクラスメイト全員無事のようだ。


「おい!空、大丈夫か!?」


「空~大丈夫?」


俺とは離れた所で机の下に隠れていた陽介と早希が合流してきた。


二人ともかなり心配そうな顔をしている。


「ああ、一応な2人も大丈夫だったか?」


「おう!俺も大丈夫だぜ!」


「私も大丈夫だよ~でも、すごい地震だった……ね……」


早希は何かに気づいたように黙ってしまった。


俺は何に気がついたんだろうと思い、聞いてみる。


「どうした?早希、なんかあったか?」


「あ、うん……あのね、空……あれ見て……」


そう言って指差したのは窓の外。


俺達は一斉にその方向に顔を向ける。


そこには、巨大な影があった。


「なんだよ……あれ……」


「……塔?」


視界を向ける先にあるのは、陽介が呟いたような、ビルよりも大きな、見たこともないような大きさの塔だった。


その塔はさっきまで影も形も無かったのに急に現れたのだ。


……まさかさっきの揺れは地震じゃなくてあの塔が現われたことによるものだったのか?


いや、それよりもまずは確認しないといけないことがある。


「なあ、2人とも。あの塔の頂上、見えるか?」


「ん?……いや、見えねえな」


「うん、見えないよ」


「そうか」


2人の言う通り、俺にも全くと言っていいほど見えない。


ということはやはり、俺達の視力では全く見えない高さにまでその塔は伸びているということになる。


俺は再び窓から見える塔を見る。


やっぱり、この距離から見ても何もわからない。


それに、理解も出来ていない。


あの揺れの中、外から聞こえてきた驚きの声はあの塔が出てくるのを見たからだろう。


多分、この2人だけではない。


もっと多い、それこそあの塔が見えている人はなにが起こったのか未だにわかっていないだろう。


だが、俺はなんとなく理解まではしないものの察してしまった。


普通の方法じゃ絶対にありえない状況からあの塔は現れた。


そして、俺の予想が正しければ、俺達がこれから生きていく上で、いや、俺達の世界を良くも悪くも大きく変える存在となるはずだ。


「どうした?空」


「いや、なんでもない」


「そうか?なら良いんだけどよ」


「まぁ~空がそう言うならそれでいいよ~」


俺の態度を見て少し不思議に思ったのかもしれないが、特に深く追求することも無く、2人は納得してくれた。


正直今深く聞かれても、俺もどう答えて良いか困ってしまうし、助かった。


あの塔は確実に俺やダンジョンみたいなファンタジーな存在だろう。


だから、今ここで話しても、信じてもらえるかは怪しいところだし、あの塔に関しては全くどんな存在なのかわかっていない。


もし、わかっていることがあれば今すぐ2人にも教えたいが、それが出来ないのが残念だ。


「ソラさん!」


俺が考えていると後ろの方で声が聞こえた。


振り向くと、そこにはエスカリアさんがいた。


「エスカリアさん!大丈夫ですか!?」


「はい!私は大丈夫です。それより、あの塔は一体……」


「えっとですね」


俺は簡単に今の状況をエスカリアさんに説明した。


もちろん、陽介と早希がいるからあくまで今のこの状況の説明だけだ。


「な、なるほど。つまり、今はあの塔の事を気にするべきということでしょうか?」


「ああ、そうなんだけど……」


「どうするのかもまだ決まってないよな?」


「避難するのか~教室で待機なのか……」


そうやって4人で相談している時だった。


「お、おいなんだあれ?」


クラスメイトの一人が外を指差す。

全員が一斉にその方向を見ると、そこにはさっきと同じような光景が広がっていた。


いや、さっきよりももっとひどいかもしれない。


なぜなら、塔から次々と飛行する鳥のようなやつが飛び出しているのが見えているからだ。


その鳥のような生物は、目を凝らすことで姿を捉えることができた。


その鳥は足が3本あり、体の大きさはかなり大きいが、その中でも翼は異様に大きい。


まず間違いなくあの鳥はモンスターだろう。


【鑑定】は距離が遠すぎて出来ないのかいくら使っても一切ステータスが出てこない。


だが、問題はその鳥のモンスターの背中に乗っている存在。


鳥のモンスターの背中にはまた別のモンスターらしきものが見えた。


その姿はそれぞれ多種多様だが、ここから感じられる強さからはゴブリンキングのような強さを感じられる。


いや、中には俺よりも強そうな気配を放ってる奴もいる。


それこそ俺よりも強そうな気配がするモンスターとか……


そんな奴らが宝玉のような物を持って大量に空を飛んで様々な方向へ飛んでいく。


まるでそれぞれが何かを探しているかのように。


……これは不味くないか?

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