初めての入院患者治療
「お邪魔しま~す……」
あの後、家に帰った俺はいつも通りの行動をして寝室に入った。
そして、いつもはこの後はただ、寝るだけなのだが今日はちょっと違う。
ベッドに入るまでは同じだが、そこで俺は目を瞑って寝に入らずに幽体離脱(仮)をする。
そして、そのまま【飛翔】スキルを使って病院にもう一度向かって侵……お邪魔して、魔力暴走の治療をしてあげようかと思っている。
もう十分昼間にしただろと思うがこれがそうもいかない。
俺が治療したのは境先生が今日病院に来て、担当していた患者さんだけだ。
そう"今日"来ただ。
つまり今日より前の、テレビのニュースでやっていたような既に入院している人達には一切関わっていない。
まあ、真司先生に会うにはあの方法しかなかったんだ。
別に俺が会いたくないというわけではない。
単純に会えなかったってだけだ。
だからこうやって入院している人達の治療に幽体離脱(仮)して来たのだが……
「……魔力暴走で入院してる患者さんってどの階にいるんだ?」
俺は今、病院の中を見て回っている。
だが、どこの病棟、病室に魔力暴走の患者さんが入院しているのかがわからない。
俺が入院してた時は怪我での入院だったから病気の方はどんな感じなのか全く知らないんだよな……
しかも俺が教える前までは同じ症状の人がどんどん出ていたらしいから感染症を疑われて隔離されててもおかしくないからなぁ……
「う~ん……誰かに聞けばわかるんだろうけど……今はこの状態だしなぁ……」
今の俺は幽体離脱(仮)状態だから人に見えるわけないし、声を出しても誰にも聞こえない。
それに、もし仮に霊感の強い人に見つかっても幽霊だと勘違いされるだろう。
まあ、そうだったとしても怖がられて終わりだけどな。
「さて、どうするか……このまま探し回っても良いけど、正直効率が悪いよな……」
俺は頭を捻りながら考える。
なにか言い案がないかな……
「……まあ、ないな。うん、諦めて適当に探すか」
特になにも思いつかなかったので、俺は全ての病室を確認していく事にしたのだった。
***
「……えっと……ここか」
……あれから30分ほど経った。
俺の目の前には魔力暴走を起こしてベッドに寝かされている患者さん達がいた。
なんとか魔力暴走の患者さんがどこにいるのか看護師さん達の話を聞いて見つけることができたのだ。
……ちなみに、話をしていた看護師さんは俺が見えていないかったので、図らずしも盗み聞きのような形になってしまったが、そこは治療のためと思って勘弁してほしい。
「……よし、始めるとするか」
俺は考えるのを辞めてから患者さんの方を向く。
患者さん達は全員、入院しているだけあって症状がかなり酷い。
顔色も悪くて、目の下には隈ができていて肌の色が土気色になっている。
呼吸も浅くて苦しそうだ。
それにかなり熱があるのだろう。
汗をびっしょりとかいている。
……これは早く治療しないとまずいな。
そう思ってベッドに寝かされている患者さんの手を取……触れない……
そうじゃん……俺、幽体離脱(仮)の状態なんだから触れないじゃん……
「あ、でも……関係あるのは魔力なんだから……」
そう言って患者さんの手を取ってみると、普通に俺の手が患者さんの手をすり抜ける。
だけど、俺の予想通りならこれで問題はないはずだ。
意識をそのまま手がすり抜けている状態で患者さんの手に意識を集中させて魔力を感じてみる。
「うおっ!?なんだこれ!?」
すると、俺の思った通りに患者さんの魔力の流れを感じられた。
だが、その流れは今まで魔力暴走の患者さんと比べて感じられる魔力の流れが更に激しくなっていて、とてもじゃないが簡単に抑えられるような流れの激しさじゃなかった。
「ぐっ!こ、こんなに激しかったのかったのか……」
しかもそれだけじゃなくて魔力の流れの歪みも感じ取れる。
「って、そんな事を考えている場合じゃないか」
俺は患者さんに魔力を少しずつ、ゆっくりと流していく。
普通の患者さんだったらもっと魔力を馴染ませるのが早かったかもしれないがここまで流れが早いと魔力を馴染ませるのに時間がかかる。
そして、そのまま俺が魔力を流し続けて1分くらい経って、ようやく患者さんの魔力に俺の魔力が馴染んできた。
「ふぅー……これで……」
そして、そのままいつも通り魔力の流れを緩やかにしていくんだけど……
「くっそ……流れが激しすぎるんだよな……」
流れが激しすぎて俺の魔力の操作が追いつかない。
激しい川の激流を無理矢理人が緩やかにするような物だ。
無理でしょ?
「……仕方ないか。少し荒療治になっちゃうけど……」
俺はかなり強引に患者さんの魔力の流れを俺の魔力で抑え込む。
そして、そのまま俺の魔力が患者さんの魔力に完全に混ざったところでさらに魔力を流す。
そのおかげか俺の魔力が馴染む量が増えたおかげで魔力操作がしやすくなった。
俺はその調子で患者さんの激しく流れている魔力の流れを抑えて緩やかにしていく。
いや、これは今日治療した患者さん達よりはるかに大変だぞこれ。
「……よし。これなら」
だが、そのおかげか、魔力の流れが大分緩やかになっていった。
これなら治療できる。
俺はそう判断して、患者さんの魔力の流れを緩やかにしてしてからあちこち歪んでいる魔力の流れを正常な流れに治療していく。
「……とりあえずこれで大丈夫かな?」
それから数分後、俺は魔力暴走の患者さんの治療を終えた。
治療した魔力暴走の患者さんは治療が終わる頃には顔色が良くなり、呼吸も落ち着いてきていた。
多分、もう朝には目を覚ますと思う。
「……ふう……疲れたぁ……」
俺はその場でへたり込んでしまう。
なにせ、今回は俺の魔力暴走の治療をする時よりもずっと長い時間、魔力暴走の患者さんの治療をしていたからだ。
「それにしても……やっぱりこの患者さんの魔力は異常だったな……」
俺の目から見ても明らかに他の治療してきた人達と違っていた。
もしかして……ていうかほぼ確実に他の患者さん達も似たような症状だから魔力の流れも同じように……
いや、ネガティブなことを考えるのは辞めよう。
今は患者さんが元気になってくれたんだ。
それでいいじゃないか。
「さて……それじゃあ他の患者さん達も治療するか」
俺はそう呟いて次の患者さんの治療を始めるのだった。
そして、その日の夜は治療で潰れたのだが、魔力暴走の患者さん達は治療できた。
……だけど、なんであそこまで悪化してたんだろう?
魔力の多さか?
それとも時間が経ったから?
あるいは両方か?
まあ、どちらにせよ入院している患者さん達の魔力暴走の治療は成功したから良しとしようかね。
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