治療と判別方法

「それではえ~っと……佐藤さんですね。こんにちは。今日はどうされましたか?」


境先生が呼んだ患者さんである佐藤さんの診察が始まる。


佐藤さんは30代ぐらいの中肉中背の男性だ。


その体からは汗が大量に出ており、呼吸も荒い。


どうやら熱があるようだし吐き気もあり吐きそうになっているのか顔色が真っ青を通り越して真っ白だ。


「あ……ああ……」


だが、そんな状態だからかなにかを言おうとしているが、口をパクパクさせてしまっている。


……それに俺の仮面についてもなんにも触れられないな。


「はい。ゆっくりでいいですから落ち着いて深呼吸をしてみましょう」


そして、そんな佐藤さんの状態を察してか境先生は落ち着いた声でゆっくりと深呼吸するように促す。


そして佐藤さんはそれに従いゆっくりと深呼吸をする。


……良かった、構えたバケツとエチケット袋が無駄になってくれて。


「はい、ありがとうございます。それじゃあ話せますか?話せたら症状などを教えてくださいね」


境先生は優しく問いかけると、佐藤さんは一度大きく息を吸ってから答え始めた。


「は、はい……実は……最近ずっと頭痛と吐き気が止まらないんです……それに熱も下がらなくて……」


佐藤さんが語った症状はどれも典型的な風邪の症状だった。


だけどその症状は魔力暴走の症状にも似ている。


さて……どっちかな……


……そう言えば【鑑定】でステータスに状態異常として表示されていないかな?


「んー……そうですか……ちなみに最近というのはいつですかね?」


「えっと……あの塔が建った時からなんですけど……最初は風邪かなって思ってたんですけど、ニュースであの謎の病っていうのを知って……」


「……空くん、風邪か……魔力暴走……だっけ?どっちかわかる?」


境先生が俺に小声で聞いてくる。


俺は小さく首を振ってわからないと言うと境先生も同じように首を振る。


「それじゃあ、今までの人はどうやって判別してたんですか?」


「時間はかかるけど検査して病原菌がいるかいないかで判別してたよ。幸いその魔力暴走は病原菌が見つかってなかったから薬だけ処方して対処してたよ」


なるほどな。


そうやって判別してたのか。


俺の場合は【鑑定】かワンチャンの【看破の魔眼】のどちらかで判別できたらわかるかもしれないな。


そんなやり取りをしてから境先生は佐藤さんに質問を続ける。


体調が悪くなった日や原因を詳しく聞いたりしている。


「【鑑定】」


そんなやり取りをしている境先生と佐藤さんを眺めながら俺は小さな声で【鑑定】を使う。


------

名前:佐藤さとう 大樹たいき

性別:男

年齢:31歳

種族:人間Lv.34(魔力暴走:小)

職業:会社員Lv.16


体力:296/330 魔力:85/94

攻撃:34

防御:29

俊敏:36

器用:18

知力:48

幸運:24


所持:SP15

魔法スキル:なし

取得スキル:【計算Lv.4】【交渉術Lv.3】

職業スキル:【知力強化Lv.4】【事務処理能力向上Lv.2】

固有スキル:なし

称号:なし

------


やはりというべきか俺の予想通りの結果が出た。


いや、予想通りと言うよりは……期待していた結果に近いと言った方が正しいか。


期待してた通り佐藤さんは風邪ではなく、魔力暴走という事がわかった。


だが、これで【鑑定】スキルで風邪と魔力暴走を見分けられることがわかった。


【看破の魔眼】はまだわからないが、【看破の魔眼】の方は【鑑定】のようにステータスからじゃなくてその魔力暴走の疑いのある人の魔力の流れを直接見れないかなという考えだ。


そうすれば魔力暴走かどうかがわかると思ったのだ。


「……さてと……」


そんな事を考えているとタイミング良くやり取りが終わったのか、風邪と魔力暴走の判別のための検査の準備を境先生がしようとしていた。


「すいません、境先生。さっきは判別できないって言いましたけど、風邪と魔力暴走の判別がつけれるようになりました」


だから俺は境先生に声をかける。


すると、境先生は驚いたような顔をした後すぐに笑顔になった。


「本当かい?それなら助かるよ!それでどうやったらわかるんだい?」


そして、嬉しそうな表情で俺に聞いてきた。


もちろん声は佐藤さんがいるから小さな声でだ。


「はい。えっとですね……」


俺は境先生に魔力暴走の見分け方を簡単に説明する。


ただ、これは俺が【鑑定】スキルを持っているのを話して、【鑑定】スキルがなきゃ判別は今の所できていない事を話した。


「……なるほどね。確かに空くんがいなきゃ今みたいに判別できなかったかもしれないね」


境先生は納得してくれたようだ。


「そうですね。【鑑定】以外にも判別できるスキルを取得してる人がいれば良いんでしょうが今の所は俺しかいないから仕方ないですけど」


「そうだねぇ……空くんには悪いけど、これからも頑張ってもらわないとね」


「あはは……お手柔らかに……」


……まぁ、実際問題、今後【鑑定】持ちか魔力暴走を判別できるスキルを使える人が現れないとこの先延々と境先生が言ったように検査しないといけなくなっちゃうな。


境先生としては俺に負担をかけてしまって申し訳ないという気持ちがあるのだろうけど。


「さて……佐藤さん、お待たせしてごめんなさい。それじゃあ早速ですけど、治療をしますので、手を出していただいてもよろしいですか?」


「え……どっちの手が良いとかありますかね……」


境先生がそう言うと、佐藤さんは少し不安げな顔で聞き返した。


そりゃ、いきなりこんな事言われたら誰だって戸惑うか……


「……空くん、どっちの手が良いとかあるかい?」


境先生は小さな声で俺に聞いてくる。


「大丈夫です。特にこれといった違いはないと思いますよ」


俺は小さく首を振って答える。


まだ、1人しか治療したことはないからどっちの手が良いとかはわからないが、多分大丈夫だと思う。


「わかったよ。それじゃあ左手でお願いします」


「はい」


境先生の言葉に佐藤さんは左手を差し出す。


「失礼しますね~」


そして、佐藤さんは境先生に左手を差し出したのだろうがその左手を手に取るのは俺だ。


「え?え?え?」


佐藤さんが困惑しているみたいだけど無視だ無視。


えっと……ああ、やっぱりあの女の子みたいに魔力の流れが激しくなっているし流れが所々歪になっている。


うん、魔力暴走の症状だな。


手を取っているからそこから【魔力操作】で自分の体から佐藤さんの魔力のながれを更に乱さないようにゆっくりと佐藤さんの魔力に俺の流していく。


すると女の子にやったときと同じように魔力が流れやすくなってきたから、その流した魔力を佐藤さんの魔力に馴染ませる。


これでよし、っと。


そしてそのまま続けて馴染ませた魔力を少しずつ流れを緩やかにして流れが歪になっている所を正常な流れにしていく。


「ふぅ……終わりましたよ」


俺がそう言うと境先生は頷いて佐藤さんに声をかけた。


「どうですか?佐藤さん。何か違和感はありますか?」


「えっ……あっ……はい……あれ……なんだか体が軽いような……い、いったいなにを」


境先生に言われて佐藤さんは自分の体を不思議そうに見ながら答えていた。


「それは良かったです。佐藤さんは魔力暴走という状態になっていたんですよ」


「そ、そうなんですか……」


境先生の説明を聞いてもいまいちピンと来ていないのか、佐藤さんは曖昧な返事をしている。


というか魔力暴走が治ったことで思考が冷静になってこいつなに言ってんだっていう思考になってるわ。


「まあ、そんな事をいきなり言われても理解できませんよね」


境先生もそう思ったらしく苦笑いしながら佐藤さんに話しかける。


「まぁ……正直何が何だかわからなくて……」


「そうですよね。私達もよくわかりませんでしたし」


「そうなんですか?でも、境先生はわかってたような感じでしたけど……」


佐藤さんは境先生を見て言った。


確かに境先生は俺が全部話しているから魔力暴走の事を知っていたが、佐藤さんは知らないはずだしな。


「え?ああ、私は彼が魔力暴走について教えてくれたので」


そう言うと境先生は俺が教えた魔力暴走についてわ佐藤さんに説明を始めた。


「……なるほど。そういうことだったんですね」


説明を聞き終わった佐藤さんは納得したようだ。


驚いたな。


普通に納得してくれるとは思わなかったぞ。


「ありがとうございます。あなたのおかげで助かりました」


佐藤さんは俺の方を向いて頭を下げてきた。


なんかちょっと照れくさいな。


それにしても今の話を信じてくれるなんて良い人だな。


まぁ、実際に治ったから境先生が嘘を言っているとも思ってないのかもしれないけど。


「いえ、気にしないでください」


「それでは今日の治療は以上となります。また、なにかあったらすぐに病院に来て下さいね」


「はい。わかりました、ありがとうございました」


境先生の言葉に佐藤さんはもうお礼を言って俺の方に頭を下げてから診察室から出て行った。


……これでようやく1人目か。


いや、あの女の子も含めたら2人目なんだけどさ。


「お疲れ様、空くん」


「ありがとうございます」


境先生に労われて俺は笑顔で返す。


うまく言ったと思う。


これで少しでも魔力暴走患者が減っていってくれれば良いのだが。


「さあ!空くん。次の患者さんを呼びましょう!」


「はいっ!」


俺がそんなことを考えていると境先生が元気よく俺に言ってきた。


それに俺も元気に返事をする。


俺が返事すると境先生は大きく頷いて次の患者さんを呼びにいった。


だけど俺は知ることはなかった。


この時、俺が返事をした時に境先生がニヤリとした表情を浮かべていたことを……


そして忘れていた。


診察室の外ではたくさんの人が診察室の外では待っていることを……

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