病(後)と説明と協力者誕生
しばらく病院内を歩いて行くと、ようやく目的の診察室が見えてきた。
部屋の扉の前に着くと中からは何かを話している声が聞こえてくる。
おそらくまだ診察中なのだろう。
それにその診察室の回りにもあの受付辺りよりは少ないが順番待ちの人達も沢山いる。
このまま待ってたら日が暮れる所か日を跨ぎそうだ。
どこかのタイミングで中に入らないといけないな。
そう思い俺はとりあえず診察室の近くに立ちタイミングを伺う。
そしてしばらくして患者さん達が出ていった所で俺は素早く診察室に駆け込み、すぐにまた扉を閉める。
そして診察室の中に入ると人が足りないのか自分でカルテなどの診察で使ったであろうものを片付けている境先生が居た。
だが、当然ながら【隠密】を使っている俺の姿が見えるわけもなく、俺が診察室に入ったのも境先生は気づかない。
それじゃあ、次の人を呼ぶ前にさっさと終わらせよう。
「どーも境先生。久しぶり」
「!?」
俺が急に声をかけると境先生はとても驚いた表情を顔に浮かべた。
「こ、声が……誰も居ないよな……」
そう呟きながら辺りをキョロキョロと見回している。
……これ反応が面白いな……
「ふぅ……疲れてるのかな……幻聴が聞こえるなんて……」
境先生はそう呟くと、指で目をグリグリしている。
そしてそれを姿を見せずに延々と見ている俺。
なんか……シュールだな……
「……よし、これで大丈夫。でも、終わりが見えないよな……なんで外科の僕が内科まで出てきてるんだろ……」
境先生はそう言うと深くため息をつく。
……病院の闇を見た気がする。
多分この異常事態だから仕方がないんだろうけどな。
そうじゃない限り外科の境先生がこうやって熱などの症状が出ている魔力暴走の検診をするのはおかしいと思う。
まあ、それぐらい手が足りないんだろう。
てかそろそろ姿を見せないと次の患者さんを呼ばれちゃうだろうから姿を現さないとな。
今、外で待機している人達には悪いが治すためだと思ってちょっと待っててもらおう。
「疲れでもなんでもないですよ境先生」
「……え?」
俺が姿を現すと、境先生は口をポカーンと開けて固まってしまった。
「あ、あはは……いや、そんなはずは……いきなり人が現れるなんて……やっぱり疲れてるんだ……仕事が終わったらゆっくり休もう、そうしよう」
「いや、境先生、現実逃避したい気持ちもわかるけど、本当に居るんですよ。俺が」
「……」
「ほら、俺はここにいますから」
俺が手をヒラヒラさせると境先生は再びフリーズしてしまった。
そして数秒後、まるで夢から覚めたかのようにハッと我に返った境先生。
俺の姿をまじまじと見ると、信じられないといった表情を浮かべながら俺に問いかけてきた。
「……あれ?……空くん?……どうして?それにさっきのは……?」
「えっと……まあ、色々ありまして……」
「……そうなんだ……うん、まあいっか」
俺が説明しても境先生は疲れきっていて脳が正常に働いていないようで、ちゃんと理解できていないような感じだった。
「……わかってます?」
「……ああ、大丈夫だよ。……それで……その……えっと……」
境先生はそれでも突然現れた俺に戸惑っている様子だったが、段々と思考が冷静になって来たのか、だんだんといつもの様子に戻っていく。
そして、少し間を置いた後に境先生は俺に話しかけて来た。
「……とりあえず座って。お茶を出すよ」
境先生はそう言うと診察室の奥に消えていき、暫くすると湯飲みと紙コップを持って戻って来る。
そして俺の前に紙コップを、自分の座った席の前に湯飲みを置くと再び椅子に座って、一口お茶を口に含んでから話し始めた。
「さてと……まずは何があったか聞かせてくれるかい?」
「はい。実は……」
俺は境先生に今までの事を話した。
もちろん俺がステータスにゴーストという種族がある事と話がそれては困るから魔力暴走を治せる事はとりあえずまだ言わなかったが、それ以外は全てだ。
境先生ならきっと大丈夫だろうっていう判断だ。
境先生は真剣な眼差しで時折相槌を打ちながらも黙って聞いてくれた。
そして俺が全てを話し終えると、境先生は顎に手を当てて何かを考えるように目を閉じる。
それから数分程沈黙の時間が続いた。
そして目を開けた境先生が俺の方を見てゆっくりと口を開く。
「なるほどね……大体わかったよ。あの異常とも言えた治りの早さもね」
どうやら境先生は全てを理解してくれたようだ。
「ははは……まあ、そういうことです」
「うん、でも空くんが来たのはそれだけじゃないんでしょ?こんな時にわざわざ定期検診に来るってわけでもないだろうし」
境先生の言葉を聞いて俺は思わず息を呑む。
流石は境先生。
俺が言いたいことを察してくれたらしい。
そんな境先生はとても真剣な表情をしていた。
「はい。俺が境先生、あなたの力を借りに来たんです」
「……僕の力を……」
「はい。……俺が今、多く発病している病気……魔力暴走の患者さん達を助けるためにあなたが必要なんです」
「……」
俺がそう言うと、境先生は少しだけ俯いて考え始める。
そして、暫くして顔を上げると、真っ直ぐに俺の目を見つめながら語りかけてきた。
「僕には……何ができるんだろう……」
境先生は悲しげな表情を浮べている。
俺の話を聞いて自分が無力な事に気が付いているのかもしれない。
確かに出会ってからわかったが、境先生は優秀な医師だ。
だが、境先生には火神さん達のようにレベルアップした人のような力強さを持ち合わせていない。
つまり、魔力暴走を治すための【魔力操作】のスキルは無いだろうしあったとしても治療できるだけのスキルレベルじゃないだろう。
まあ、だからこそ俺が来たんだけどさ。
「境先生、俺も診察に付き添う事を許してください」
「え……?」
「俺が診察に付き添えば魔力暴走を起こしている患者さんをすぐに見つける事ができます」
「……それって……もしかして……」
俺の考えが伝わったのか、境先生はハッとしたような表情になる。
「はい。俺は魔力暴走を感知できるので、魔力暴走を起こしかけている人がいればすぐにわかります。そして、その人達を診察する事もできます」
「そっか……空くんが居れば……」
「はい。俺も知り合いに頼んで直ぐにでも魔力暴走を治せるように準備します。だけどそれだと時間が掛かりすぎてしまうので……」
実際、火神さんや真島さんに頼むとしても俺が教えた方が早く済むと思う。
だけど俺が情報の大公開をしたせいで色々と混乱が起きてそうだし、更にそこからこの魔力暴走の事を伝えたらもっと大変になりそうな気がするんだよなぁ……
そうなってくると他の所に伝えたら良いんだろうけど、俺は火神さん達以外のコネクションなんてない。
だから結局は俺がやるしかないってことだ。
それに、境先生を利用しているようで申し訳ないがそうやってこの病院で治療できているとわかったらこの病院の院長である人が確認に来るかもしれない。
そうなればその人から病院のネットワークがあったりするだろうしそれを利用して他の所に情報を拡散してくれる可能性だってある。
まあ、あくまでも可能性の問題だしそもそも境先生が協力してくれなかったら意味がないから、なんとしてでも説得しなくちゃいけない。
俺が医師免許を持っていないという問題もあるがそこは勘弁してもらいたいが……どうかな……
……最悪、記憶消去(物理)をして境先生にも口外をしないように頼めばいいか。
「……わかった。協力しよう」
俺が色々と考えていると、境先生は決心した様子で俺の申し出を受け入れてくれた。
「いいんですか?」
「うん。……僕がやれる事は少ないだろうけれど、それでも少しでも役に立てるなら……」
「ありがとうございます!」
俺は頭を下げてお礼を言う。
これでやっと一歩前進した。
病院の中でずっと会った魔力暴走の患者さん達に片っ端から治療するっていうことも考えていたが、それは正直現実的に厳しいと思っていた。
だが、境先生の協力が得られた事でそれが可能になった。
「それじゃあ、ちょっと待ってて」
境先生はそう言って席から立ち上がると、診察室の奥にある扉の中に入って行った。
そして本当に少しの時間が経ち、戻ってくる。
「はい、これ」
「これは……白衣ですか?」
境先生は手に持っていたものを俺に手渡してくる。
受け取ったものは真っ白い綺麗な布で仕立てられたものだった。
「うん。僕の白衣で悪いけど、治療するなら必要かなって思って」
「いえ、十分です!ありがとうございます」
「ふふ……どういたしまして」
俺は早速着てみると、サイズはまあ、少し小さいが着れないことはなかった。
「どうでしょう?」
「うん、似合ってるよ」
「はは……そう言われると照れますね」
「あはは、ごめんね。でも、本当によく似合っているよ」
「はい、ありがとうございます」
……あ、ダメだこれだけじゃ足りないな。
俺は【アイテムボックス】を開いて中を探る。
そして見つけた前に作っていた魔鉄のインゴットを取り出す。
そしてそんな俺の行動を不思議に思ったのか境先生が声をかけてきた。
「えっと……空くん、なにそれ?」
「ああ、これはですね話したと思いますけどこれが【アイテムボックス】ですね」
そう言いながら【アイテムボックス】の中から取り出した物を境先生に見せる。
すると境先生は驚いた表情になった。
「へ、へぇ~実際に見てみると凄いんだねぇ……本当に常識が通用しないなぁ……」
「はは、そうかも知れませんね」
実際、俺も最初見た時は驚いたしな。
まさかこんな物があるとは思わなかったし。
俺はそう思いながら【錬金】のスキルを使うための魔方陣を作っていく。
もう手慣れた物だ。
そしてあっという間に完成させる。
「よし、できた」
「……さっきから作ってたけどなにそれ?」
完成した魔法陣を見て境先生が聞いてくる。
「まあ、説明するよりも見た方が早いとおもいますから見ててください。【錬金】」
俺はそう言うと【錬金】を使って魔鉄のインゴットを俺の顔の鼻から上を隠せる仮面の形に変形させた。
「わ、すごい……」
「まあ、こんな感じで色々な物に姿を変えられるんですよ」
「そっか……それでなんで仮面なんて作ったんだい?」
俺が仮面を作った事に境先生は疑問に思っていたようだ。
確かに普通の人ならわざわざ顔を隠すような物は作らないだろうしな。
だけど俺の場合は別の理由もある。
俺は境先生にその事を説明する。
「いや、顔は隠しておかないと不味いと思いまして……」
「え?どうしてだい?」
「だって顔を見せていたら面倒事になる未来しか見えないんですよ」
「ええ……」
俺の言葉に困惑している様子の境先生。
「それに、これからやる事を考えるとやっぱり顔を見られるわけにはいかないので……」
俺がそう言ったら境先生はなるほどなと言った顔をして頷いてくれた。
「確かにね。これからする事を考えたら隠した方が良いかもね」
「まあ、そう言う事なので気にしないでください。患者さんに聞かれたらやけどが酷くてと誤魔化すんで」
「そっか……じゃあそろそろ良いかい?」
「うっす。大丈夫ですよ」
境先生は俺に確認を取ってから患者さんを呼ぶ準備をし始めてくれる。
「それではどうぞ~」
それに俺が答えると境先生は扉から顔を出して次の人を呼ぶ。
普通はここも看護師さんが呼ぶんだろうけどやっぱり人手が足りないんだろうな……
……よし。
それを解消するためにも頑張りますか。
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