病(中2)と治療

あの後、戻ってきた3人は俺に魔力の感知方法を教えてくれた。


エスカリアさんは完璧な特訓のプランを。


アーニャさんは俺の魔力を感じるための練習相手を。


アイカさんはそんな練習している俺のコーチをしてくれた。


3人とも俺の練習にそれぞれ形は違えど付き合ってくれてありがたい限りだ。


しかもどうやら、魔力を感じられるようになるのに時間が掛かるらしく、かなりの時間俺の練習に付き合わせてしまった。


だけどそのおかげで俺の感覚はかなり鋭くなったと思う。


最初は全く分からなかった他人の魔力も今ではだいぶ分かるようになった。


……まあ、その結果に至るまでの練習が本当にきつかったけど。


特にエスカリアさんが考えたらしいトレーニングは本当に地獄だったなぁ……


なんていうか……人の限界を越えさせられたというか……


魔力を感じる練習は本当に辛かった。


まあ、その甲斐もあってか、魔力を感じるだけでなく、俺は自分の魔力の他に他の人の魔力を操る事もできるようになった。


そのやり方は思っていたより単純だ。


自分の魔力をその魔力を操る対象の人物に流して相手の魔力に馴染ませるだけ。


それだけで、その魔力の持ち主は他の人の魔力を操れるようになる。


……まあ、俺の【魔力操作】のスキルが無ければ出来なかった芸当だろう。


実際、【魔力操作】のスキルレベルが上がってなかった時は出来なかったけど、今は出来るようになってるからな。


……まあ、逆に言えば俺の【魔力操作】のスキルレベルが更に上がるぐらいの難易度だったって事なんだけどさ。


ちなみにこの魔力を流すのは誰でもできるわけではない。


魔力を扱える人間ならできるけど、魔力を扱えない人間にはできないのだ。


まあ、当たり前なんだけどな。


そして問題なのはその魔力を使うという点と【魔力操作】だった。


俺はレベルが上がっているというアドバンテージがあるから魔力も問題無かったし、【魔力操作】もレベルが上がった事で問題は無くなった。


じゃあ他の人は?


という話になるのだが、結論から言おう。


無理だ。


魔力を多めに持っている人がいてもそれを他の人の魔力に馴染ませられるほどの【魔力操作】のスキルを持っているとは到底思えない。


既にある程度【魔力操作】のスキルレベルが上がっている俺だってできるようになるのに丸1日かかったんだ。


つまりは、あの患者さん達を助けられるのは現時点では恐らく俺だけだって事だ。


……無理じゃない?


***


「すごいな……」


今、俺がいるのは事故の時にお世話になった病院の受付などがあるホールのような所にいる。


この付近で1番大きな病院でいつもそれなりの人はいたが余裕はあった。


だけど今は全く違う。


このフロアには患者さんとその家族と思われる人達しかいない。


それも全て満席状態。


いや、もう限界を越えている。


もう座れる席が無いから床に座り込んでいる人も居る程だ。


……うん。


これはエスカリアさん達を連れてこなくて正解だったな。


放送された病院であれだけの患者さん達がいたんだ、患者さんが多いのも予想してついて行きたいと言っていたエスカリアさん達をなんとか説得して連れてこなかったんだよな。


あの時の俺の判断は間違っていなかったようだ。


「でも……これじゃあなぁ」


俺は目の前に広がる光景を見ながら呟く。


患者さん達は皆一様に苦しそうな表情をしている。


中には泣いている子供もいるし、心底心配している表情で苦しんでいる家族を抱き締めている人もいる。


……どうやっても手が足りないよな……


「……ん?」


俺がそう考えながら歩いていてふと視線を向けると、そこには苦しんでいる小さな女の子とその子を背負っているお母さんらしき人が入り口で立っていた。


「すいません。大丈夫ですか?」


俺はその親子に声をかける。


するとその母親はこちらに振り向き、泣きそうな顔をしながら言った。


「え、ええ。私は大丈夫です。でも、この子が……」


そこまで言うとその女性は涙を堪えるように唇を噛みしめていた。


そして女性が目を向けた先にいる女の子は苦しそうにぜぇせぇと言ったような呼吸を繰り返しており、明らかに異常だと分かる状態だった。


すごく苦しそうだ。



「実は……娘が高熱を出して寝込んでしまったんです。そしてニュースを見てここに来たのですが……こんなに……」


そう言って女性が女の子から視線を外して視線を向けた方は、あのとんでもない人数の患者さん達。


「これじゃあ……」


この子はこのまま苦しみ続けなければならないのか?


まあ、俺が居なかったらだけどな。


「あの、その子の手を握っても良いですか?人の手を握った方が安心すると思いますので」


俺がそういうと女性は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になり、俺に頭を下げた。


「ありがとうございます。どうかお願いします!」


俺は女性のその言葉に返事をする代わりに、その女の子の手を握り、女の子の魔力を感じる。


そうしてみてわかったが練習に付き合ってもらったアーニャさんと比べるとかなり魔力の流れが激しくてながれも所々歪になっている。


恐らくこれが魔力暴走を起こしている原因なのだろう。


まあ、これぐらいならまだ対処出来るけど。


俺はその流れを乱さないようにしながら自分の魔力をゆっくりと流していく。


すると少しずつだが魔力が流れやすくなってきた。


そしてその魔力を女の子の魔力に馴染ませてあげる。


するとその女の子の魔力が大分操作できるようになってきたから女の子の魔力の流れを緩やかにしてあげていく。


そして女の子の魔力が安定してきたところで、女の子の魔力を操作して歪になっている魔力の流れを正常な形に直してあげた。


「これで大丈夫かな」


俺がそう言いながら握っていた手を離すと、女の子の息遣いが落ち着いき、先ほどまでとは打って変わって穏やかな表情になっていた。


「……うん?ママ?あれ?ここはどこ?」


どうやら目を覚ましたらしい。


それを見た女性は目を見開いて涙を流しながらその女の子を強く抱き締めていた。


……良かった。


「良かったね。もう苦しくないから大丈夫だよ」


俺がそう言うと女の子はキョトンとした表情で俺を見つめていたが、やがて俺に微笑みかけてくれた。


「お兄ちゃん!ありがとう!!」


女の子は元気よく笑顔で俺にお礼を言ってくれる。


「お、おう。……お大事にな」


俺は少し照れながらも女の子にお別れを告げてから周りの人に気づかれない内にその場を離れた。


……良かった。


うまく行った。


あの子もあの母親の人も喜んでくれてるみたいだし、あの子の笑顔も見れたからな。


そして、これで俺が人の魔力暴走を治せるって事が証明された訳だ。


……さてと……最初の予定通り境先生の所に向かうか……


そして俺は男子トイレに入り、個室に向かう。


だが、幸いにも人が居なかったらみたいだからそのまま【隠密】を使って気配と姿を消してからトイレを出て境先生がいるはずの場所に向かう。


俺が退院するときに通された診察室にいたら良いなぁ……

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