病(中)

「ええ。これは恐らく……魔力暴走ですね」


「魔力暴走?」


なんだそれ?


名前からして魔力が制御できないとかそういう事なのかな?


「赤子などの子供がなりやすい症状で体内にある魔力が多いとその魔力を制御しきれず、その影響で身体が耐え切れなくなってしまい、その結果として起こるとされています」


「えっと、つまりどういう事だ?」


「簡単に言えば、膨大な魔力が制御できずに身体に悪影響を与えているのです」


えっと……つまり……あれか?


端的に言うと魔力が制御できていないだけってことか?


「じゃあ、治す方法はあるの?」


「もちろんです。ただ、その方法が難しいんです」


「難しい?」


「ええ。その方法は体内に溢れ出ている魔力を正常な流れに戻す事です」


「正常な流れ?」


……おかしくないか?


俺の場合は心臓の辺りに感じる魔力を流して使ってるんだけど。


魔力を正常な流れにって言い方だと、普通は常に1ヵ所に魔力が留まらずに魔力が身体を巡っていると言っているように聞こえる。


「ソラさんは例外中の例外ですよ?」


俺の考えを察したのかアイカさんはそう言った。


……なんで考えてることがわかってるの?


エスパー?エスパーだったりするの?


「管理者ですから」


……いや、理由になってないんですけど。


「まあ、それは置いときまして」


「いや、置いておかないで欲しいんだけど」


「とりあえず、話を戻しますね」


「ちょっと?」


アイカさんのスルースキルが凄まじい。


もう、これは慣れるしかないかもしれない。


俺は諦めてアイカさんの方に意識を向ける。


「そもそもの話、ソラさんは普通の人間とは違います」


「そうですね……」


「ステータスに人だけではなくゴーストまでありますからね」


「ああ、確かにな」


エスカリアさんの言葉に俺は同意する。


いやまあ、確かに俺は普通の人間じゃないよ。


だってゴーストとしての魂もあるし、進化もしてハイヒューマンになったからそもそも純粋な人じゃないかもな。


「そうです。その点がソラさんが他の人と魔力が違う点なのです」


「俺だけが違う?」


「はい。普通の人は魔力は常に身体を循環しています。ですがソラさんは違う。魔力はモンスターと同じように魔石に対応する位置……心臓に魔力が留まっているんですよ」


「……なるほど……ソラ様は人としてだけではなくモンスターとしての特性を持っているから」


「はい。だからソラさんは魔力が暴走する事もなく、安定しているのだと思います」


「なるほど……アイカさん、解説ありがとう」


「いえ、これくらいならお安い御用です」


さすがはアイカさんだな。


なんでも知ってるんだな。


俺は改めて画面を見る。


画面に映っている患者さんは苦しんでいる様子だが、今のところ死人はでていないみたいだし、なんとかなりそうな気はしてきた。


てか、このまま放置してたら本当に死者とか出ちゃうんじゃないか?


……不味そうだな……


「でも、そうなるとその暴走を止めるにはどうすればいいんだ?」


「そうですね……まずは処置する人物が治療する患者の魔力の流れを感じる必要があります」


俺の疑問にアーニャさんが答えてくれる。


……でも、その言葉通りなら治療には患者の人の魔力を感じる必要があるって事になるけど……


「……俺がやるとしたらできるかな?」


「どうでしょうか?私も実際に見た事はないのでなんとも言えませんが……」


アーニャさんが申し訳なさそうに答える。


いや、まあ、そりゃそうだよね。


いきなりこんな事を言われても困っちゃうか。


でも、実際問題この患者さん達を助けるためにはやるしかないだろう。


今のままだとどんどん患者が増えてくだけだし。


それに多分世界で見てもこれを治せるのは俺しか居ないだろうし。


……よし!


「エスカリアさん、アーニャさん、アイカさん、俺に他の人の魔力を感じる方法を教わる事ってできますか?」


俺は姿勢を正して3人に頭を下げる。

俺の突然の行動に3人とも驚いていたようだけど、すぐに真剣な表情になり俺の言葉に答えてくれた。


「私は構いません。ソラさんのお役に立てるならば」


「わ、私もいいですよ!」


「私も大丈夫です」


3人から了承を得た事で俺はホッと息をはく。


これで断られていたらかなりショックだったからなぁ……


3人はそう答えると立ち上がる。


「では、早速やりましょう」


「ええ!私が練習メニューを考えさせていただきますわ!」


「それではソラ様の練習相手は私がやらせていただきます」


「皆……!」


3人の協力に感謝しながら、俺は椅子から立ち上がる。


エスカリアさんは俺の練習メニューを考えるのか部屋に戻って行った。


そしてアーニャさん、アイカさんはというと……


「それでは私が相手をしている間は極限……」


「ええ。その時に私が……」


……なにか話していた。


いや、相談しているというべきかなあれは?


だけどそんな2人の朝ご飯の食器を片付ける手は一切止まっていなかった。


まるで事前に打ち合わせをしていたかのようにテキパキとした動きで動いている。


すごいなぁ……


さて……練習はどうなるかな?


俺はアーニャさんとアイカさんの会話の中で聞こえてきた極限という言葉に少し不安を感じながらも3人が戻ってくるまで待っていた。

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