上司と地獄

「失礼します!」


「「「「失礼します」」」」


火神さんに続いて俺を含めた5人が中に入る。


俺が最後に中に入ると、そこには1人の男性がいた。


見た目はとてもがっしりとした体つきをしているが、顔付きや雰囲気は優しそうな人だ。


ただ、疲れているのか目の下には大きなクマが出来ており、そのせいもあってかなり弱々しい印象を受ける。


「お、おお!火神君じゃないか!それに君達も!帰還予定時刻になっても帰還しなかったから心配したぞ!」


男性は火神さんを見ると嬉しそうに声をかけてきた。


火神さんは男性の前まで進むと敬礼をする。


「申し訳ありません。想定外の事故が起こりまして、帰還が遅れてしまいました」


「なに!?それは本当か!?」


男性が驚いた表情をしながら火神さんの方を向く。


「はい。今回の任務はモンスターの出現地域の調査でしたが、そこで予想外の事態に陥り……」


火神さんは途中まで話すと、チラッと俺の方を見る。


おそらく俺が一緒に来ていることを説明したいんだろう。


だけど俺は未だに【隠密】のスキルを発動させているため、男性には俺の姿が見えていないはずだ。


なので火神さんが口パクで『お前が説明しろ』と言ってきた。


まあ、こればっかりは仕方ないか。


俺は【隠密】を解除すると、そのまま火神さん達の隣に並ぶ。


「どうも、初めまして」


「な、なんだと!?君は一体どこにいたんだ!?」


突如現れた俺に驚きながら俺を指差す男性。


うん。やっぱり気づいてなかったよね。


やっぱりはっきりとした位置がわからないとはいえなんとなくはわかる火神さんがおかしいんだな。


「彼は先程話させていただいた予想外の事態の際に出会いました。彼のおかげで命拾いをしたんです」


「なんと……そういう事だったのか……」


俺の説明を聞いて納得する男性。


「それで……火神さん、そちらの男性は?」


「ああ。こちらの方は我々の上司にあたる方だ」


「そ、そうなんですか……?」


まあ、報告しに行く体でって言っていたから少なくとも火神さんよりも階級が上の人なのはわかっていたから上司なのもわかる。


ただ、疲労からか全身に覇気がないというか……なんというか……頼りなさそうというのが正直な感想だ……


「えっと……はじめまして。私は陸上自衛隊の特殊部隊、通称陸自の隊長を任されている。真島 光一と言いう。よろしく頼む」


真島さんが俺に手を差し出してくる。


……特に問題はないよな?


今はフル装備だから手袋もしてるから指紋も取られる心配はないし。


問題ないと判断した俺もそれに応えようと手を伸ばして握手に応じる。


「改めまして。まずは名前を名乗れない事をお許しください」


「いや、構わんよ。こちらも詳しく事情を知っているわけではないからな。君の判断は正しいよ」


「ありがとうございます。では改めて、私は……」


それから俺は火神さんから聞いた通りに自己紹介をして、火神さんに説明したのと同じ理由を説明していった。


そして、俺の話を聞き終えた真島さんは顎に手を当て考え込む。


「ふむ……なるほど……大体理解できた。つまりこの事態は君のおかげで防げたというわけか」


「いえ、私一人の力ではここまでの対処はできませんでした」


「……そうか。しかし、それでも君の行動がなければ今回の件はもっと被害が広がっていたはずだ。本当に感謝している。それに隊員達の中にも

黒いローブを着た人物に助けられたと聞いている。それも君なのだろう?」


……まあ、覚えはあるなぁ……


「はい、恐らく俺ですね」


「そうか……ありがとう。君には本当に感謝している。ただ、一つだけ確認したいことがあるのだがいいかな?」


「はい。大丈夫ですよ」


「……君は高校生かな?それとも大人なのかな?いや、そもそも人間なのだろうか?」


……ん~?


どういう意味?


「あー、すいません。年齢とかは秘密ってことで。だけど人間ではありますよ」


魂は別として"身体"はだけどな。


でも、そんな事は言えないし……


俺は苦笑いを浮かべながら答える。


「……そうか……わかった。君の言葉を信じるとしよう。それにしても不思議な事もあるものだな。君のような人間がいるとはな……」


まあ、そう思うよね。


普通に話を聞く感じは人外レベルの強さがあるようには見えないし。


「さて、本題に入ろう。君がここに来た理由は私に説明をしに来ただけではないのだろう?」


「はい。実は……」


火神さんが今回の任務についての報告をしていく。


その間、俺は黙って話を聞いていた。


「……以上が今回の任務の報告になります」


「ふむ……ご苦労だった。火神君。詳しいことは報告書を読んで判断する事になるが、まず間違いなく今回の任務は今までで一番の成果だろう。彼にも出会えたしな」


「はっ!ありがたきお言葉です!」


「それと……君はなにかあるかい?何かあったから君もここに来たのだろう?」


真島さんが俺に問いかけてくる。


「はい。その通りです。火神さん達も関係があるので聞いてください。実は……」


俺は火神さん達にもした話を再び真島さんに話す。


俺が話を終えると、真島さんは腕を組みながら眉間にシワを寄せて考えていた。


「……なるほど。話は理解した。それで君はどうするつもりだ?このままここに残るのか?」


「いえ、家に帰らせていただいてもよろしいでしょうか?」


「それは構わないが……大丈夫なのか?」


「はい。問題ありません。俺も早く家に帰ってゆっくり休みたいので」


「……わかった。では、帰りは我々に任せてくれ」


「ありがとうございます」


真島さんにお礼を言うと、俺はその場から離れる。


「……またしばらく帰れないし寝れそうにないな……」


「……お疲れ様です……」


「なにを言っているんだ。君達にも手伝ってもらうぞ」


「「「「「……え?」」」」」


「彼に聞いたぞ。君達は彼に協力すると言ったのだろう?ならば手伝ってもらうぞ」


「……マジかよ……」


……後ろからえげつない会話が聞こえてきたが聞かなかった事にしておこう。

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