自衛隊と事情説明(する側)

「……グッ……ここまでだ……ファム……止まってくれ」


「ピィ?……ピィイ!」


俺は意識を取り戻してすぐにファムに声をかける。


すると俺の声に反応するようにファムはブレーキをかけるように翼で風を受け勢いを殺し翼を畳んで地面に着地した。


「……ゲホッ……ゴホ……」


俺は咳き込みながら息を整える。

……危なかったな……あともう少しで(自衛隊の人達が)落ちる所だった……


「ピィイ」


「……ありがとう、ファム……助かったよ」


「ピィ」


俺が礼を言うとファムは嬉しそうに返事をした。


「……ふぅ……しかし凄いスピードだったな……」


「ガゥ……」


いつもは【飛翔】スキルを使って飛んでいるから風の影響なんかは一切感じていないが、今回は違う。


確かに速くはなったが、それでも風が吹き荒れる中での飛行はかなり厳しかった。


「ピィ?」


「ああ、大丈夫だよ。ちょっと疲れただけだから」


そんな俺の姿を見て心配そうな顔で見てくるファムに俺は安心させるように言う。


実際、多少は疲れたが特に問題はない。


そしてファムは俺の言葉に安心したのかその身体を大きくしている幻覚を解いて元の大きさに戻った。


「ピィ〜」


「よしよし」


そしてそのまま俺の肩に飛び乗りファムは俺に甘えるように頭を擦り寄ってくる。


それを指で撫でてやりながら俺は考える。


「……どうしようかな」


俺達は今、自衛隊の人達が集まっているであろう場所から結構離れた場所にいる。


それにファムも大きくなったからその姿を見られてたら確実に騒がれてるだろう。


さて……そうなってくるといよいよこの人達をどうするのかが問題になってくるな……


まぁ、とりあえずは起こさないとな。


このまま放置しておくわけにもいかないからな。


さすがにこのまま野ざらしにしておいても良くないだろう。


俺は気絶したままの自衛隊の人達を縛っている縄を解く。

縛っておく必要ももうないしな。


ユキとファムも噛み千切ってくれようとはしているけど、無理そうだ。


まあ、そうだよな。


自衛隊の人達を縛っていた縄は魔鉄糸を使ったものなんだし簡単に切れるはずがないんだよな。


「ん………」


「おっ………」


俺達が縄を解き終わると1タイミング良く人の男性が目を覚ます。


その男性はまだ意識がはっきりしていないようだったが、俺達の姿………というかユキとファムを見ると驚いて声を上げる。


「お、お前らは一体何者だ!?」


男性はそう言って警戒心をあらわにする。


「………」


………どうしよう、声を出しても良いのか………


俺は少し迷ったが、結局声を出す事にした。


事情を説明するにしてもまずはちゃんと話せる状態じゃないとダメだと思ったからだ。


……今まで黙っていたり、関わりも最低限にしていたのにこんな所でその努力が無駄になるなんて……


「あー……この子達はユキとファムです」


「ガウッ!」


「ピィイ!」


2人は元気よく挨拶をする。


「……ユキとファムだと?それはどういう事だ!?」


「えっと、説明しますんで落ち着いて下さい」


「落ち着けるか!なんで化け物が人間と一緒に行動してるんだ!?それに!お前も名前を名乗らないなんて怪しすぎるだろ!」


「ば、化け物って……」


俺の言葉に男は激昂するが、ユキとファムを見る。


ユキとファムは俺の後ろで大人しくお座りをしている。


それを見た自衛隊の人はユキとファムを見て訝しげな表情を浮かべている。


……やっぱり、普通の人にこの2匹を連れて歩くのは怪しいよな…… 俺は内心ため息をつく。


しかし、ここまで来た以上は仕方ない。


俺は覚悟を決めて口を開く。


「この子達は俺の仲間で、危害を加えることはありません。あと、俺の名前は……まあ、名乗れませんね」


「なっ!?」


俺がそう言うと自衛隊の人は大きく目を見開いて驚く。


「いや、だって俺の名前を教えたら色々と面倒な事になると思うんで」


「な、何を言っているんだ?」


「詳しい話は後でしますからとりあえず俺の話を聞いてくれませんかね」


「……分かった」


俺の言葉に自衛隊の人は渋々といった様子だが、納得してくれたようだ。


「それで……お前は一体何者なんだ?」


「えっと、俺は……そうですね……たまたま力を手に入れた一般人ですよ」


……我ながら苦しい言い訳だと思う。


「ふざけてるのか!それに力ってことはステータスの事だろう!なに惚けた事を言ってるんだ!」


……ええ……


本当なんだけどな……


「ただステータスを手に入れただけでこんな危ない所まで来るんじゃない!それになぜあの化け物を従えている!答えろ!」


「……」


……本当に何も知らないのか?


……いや、でも普通はそうなのか?


俺はこんな事態が起こる前からモンスターと戦っていたし、この事態が起こってからもアイカさんから話を聞いていた。


だから直ぐに事態も把握できたしこうやって行動している。


でも、他の人達は違う。


そもそもあの塔がダンジョンというものを知らない人が殆ど、というか全員だろう。


それに突然現れた謎の男からいきなりこんな風に言われても信じられないだろうしな。


あっちから見たらモンスターは化け物にしか見えないし。


「……」


「おい、なんとか言ったらどうなんだ?」


「……そうですね……これは全てあなたからしたら夢のような出来事なんですよ」


「はぁ?そんなわけあるわけが……」


「信じてくれとは言いません。けど、今は俺を信じて下さい」


「……」


俺が真剣な顔で言うと自衛隊の人は黙ってしまう。


そして俺をジッと見つめてくる。


「……分かった。今はお前を信じることにする。ただし、少しでもおかしな動きをすれば容赦しないからな」


……容赦しないって言われてもなぁこの人の実力じゃ俺には敵わないだろうし。


「わかりました……それじゃあとりあえず、俺の話は全て本当の事です。最後まで聞いて下さい俺の言葉は嘘偽りなく真実なので」


それから俺は今までの事情を全て話す。


もちろん俺がモンスターの特性というか種族にレイスという事と『ゴブリンキング』事は隠してだ。


化け物と呼んでいる存在はモンスターということ。


そのモンスターはあの塔………ダンジョンから出てきていること。


そしてアイカさんから教えてもらったことは全て教えた。


それらの話を聞き終えた自衛隊の人は目を丸くしていた。


「お前は一体……」


「まあ、そういうわけなんです。ですから今起こっていることを詳しく伝えて欲しいんです」


「……」


俺がそう言うと自衛隊の人は何かを考え込むように俯く。


「……分かった。出来る限り協力しよう」


「……!ありがとうございます!」


「……だが、俺だけの言葉じゃ信用されないかもしれないな……」


「それは……」


確かにそうだ。


いくら俺の言葉を信用してくれと言っても実際に見ていないと意味が無い。


俺がそう考えていると自衛隊の人はある提案をしてきた。


「だったら俺の部下に会わせよう。あいつらは俺の隊の中でも優秀な奴らだ。きっと力になってくれるはずだ」


「!良いんですか?」


「ああ、構わない。むしろこっちから頼む」


「分かりました。それではお願いします」


俺は自衛隊の人の案を受け入れることにした。


この人の話が本当ならこの人は信頼できる人だと思ったからだ。


それにこの人の部下に会えばこの人以外にも色々と分かるかもしれない。


「それで!その部下という人達は!?」


「……いや、その……だな……」


俺の言葉に自衛隊の人はバツの悪い感じで頬を掻く。


「?なにか事情でも?」


「いや、その……実はだな…………」


自衛隊の人は少し言い辛そうにしていたがやがてゆっくりと口を開いた。


「その……そこで寝てる奴らが俺の部下だ……」


「……はい?」


……えっと、どういうことだ?


俺は自衛隊の人が指差した方向を見る。


そこには気絶していて意識のない自衛隊の人達が……


……え?この人達?


……マジ?

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