進む先とお助け

「おい、ユキ!いきなりどうしたんだよ!」


取り敢えず全速力で俺が走ったらユキには簡単に追い付くことができた。

そしてそのままユキに並走して話しかけ続ける。


「グルルル………」


だけどユキからのちゃんとした返答はなく、ただ唸り声をあげるだけだ。

ただひたすらに走っているだけだ。

おかしいな………今まで俺の言うことを聞かないなんてこ事はなかったんだけどな………

まぁ、とりあえず今はなにかあるかわからないけど追いかけないと………


「グルルッ!」


ユキが突然走る速度を上げた。

だけどその走りに迷いなく進んでいるからどうやら目的地があるみたいだ。

………まあ、目的地があって良かったよ………

進化した影響とかで適当に走っているとか言われたら流石に困る。

俺はユキの後ろ姿を見ながらそう思った。

しばらくするとユキが立ち止まる。

目的地に着いたという事かな?


「ここなのか?」


「グルゥ………」


俺はユキが止まったところを見る。

そこは壁が崩れて瓦礫が大量に落ちている場所だった。

ここになにかあるのか?

俺はユキの視線の先を見る。

だけどユキの視線は瓦礫の山に向いていて俺の方は見ていない。

………もしかしてだけど………この瓦礫の下か?


「ガウッ!」


ユキは瓦礫を前足でテシテシ叩いている。

………あ、これ確定だわ。


「なにがあるんだ?【マップ】【看破の魔眼】【気配感知】」


俺は瓦礫の下に何があるのか確認するために感知系のスキルを全て発動する。


「ん?これか?」


【マップ】の方で確認すると瓦礫の中にがあり、さらに【気配感知】で調べるとそこに何かがいるのがわかった。

………あれ?

この気配は?


「人じゃん!?」


それも1人や2人ではなく、5人の気配が感じられる。

俺は慌てて【気配感知】でその気配を感じる所に細心の注意を払いながら瓦礫を掘り起こす。

うおー!!!急げ俺!

安心安全に迅速に掘り起こせ!

さすがの俺でもスコップなんかを持っているわけではないから素手で掘って、大きな瓦礫をどかしてを繰り返してなんとか埋まっている人達を助け出す。


「大丈夫ですか!?」


俺が助け出した人達は迷彩服を着ている自衛隊の人達だった。

俺が声をかけると全員気を失っているようで返事はない。

だが、呻き声を上げていて意識はあるようだ。

だけどパッと見てわかるだけで全員腕や足など、どこかかしらの骨を折っているようだ。


「………酷いな………」


俺は思わず顔をしかめてしまう。


「ガウ?」


「ピィ?」


そんな俺を不思議そうに見つめるユキとファム。

その目はまるでこの人達大丈夫?

と言っているようだった。


「………大丈夫だよ」


実際この人達はレベルが上がっていたのか瓦の下敷きになっていたのに重傷だが命に別状はなさそうだ。


「………さてと、どうしようか」


この場に放置するにしても自衛隊の人達が集まっている場所に運ぶにしてもなんにせよまずは治療しなきゃか………


「【ハイヒール】」


俺は一番重症そうな人に魔法をかけてみる。

すると俺の手から【ヒール】を使ったときよりも強い光が出てくる。


「………ダメだな。これでも1回じゃ治らないか」


今の【ハイヒール】は今俺が使える【回復魔法】の中では1番の回復量を誇る。

だからこの【ハイヒール】を使ったのだが1回じゃ足りなかったらしくまだ痛みで苦しんでいるようだ。


「………もう1回………【ハイヒール】」


俺はもう一度同じ魔法を発動させる。

今度はしっかりと骨が折れる前に戻るイメージで。


「………よし、これでいいだろう」


2回も使えば十分だったのか、ちゃんとイメージしたのが良かったのか今度はきっちり怪我が癒えたようだ。


「………うん、大丈夫そうだね」


失礼かと思うけど一応【鑑定】で状態を確認する。

すると体力も回復しきっていて骨折しているところが綺麗に治っているのがわかった。


「………うまくいったみたいだし他の人も………」


【ハイヒール】はもちろん【ヒール】の上位スキルなだけあって【ヒール】よりもはるかに魔力が消費される。

幸いにも俺の保有魔力はかなり多い方なので問題ないので続けて他の4人も治していく。


「………ふぅ」


5人とも無事に完治したのを確認して一息つく。

まぁ、全員完治したのは良いんだけど………

とりあえずこの辺りで感じられる人の気配はこの人達しかいないからこの人達がここで下敷きになっていた理由が知りたいんだけど………

俺は改めて周りを見渡す。

見えるのは壊れたビルや建物、瓦礫ばかりだ。

………うーん………さすがにこれらだけじゃ原因がわからないな。


「……ユキ、ファム、どう思う?」


俺は隣にいるユキに意見を求める。

するとユキとファムは首を傾げていた。

多分ユキもファムも何が原因かわかっていないのだろう。

………仕方ない。

わからないことを考えていても仕方ないだろ。

………だから………


「この人達どうするかな………」


俺は目の前で寝ている自衛隊の人達を見る。

この人達も体力も回復したようだがまだ目を覚ます様子がない。

それにしてもこんな瓦礫の中に埋まってよく無事だったよな………

やっぱりステータスって偉大なんだな。

………そういえばステータスを他人が見ちゃったけど特になんにも無さそうだな………

陽介と早希と一緒に話した時にステータスがどんな物か俺もわかっていなかったから見せあってはいなかったけどこれなら他の人に見せても大丈夫そうだな。

おっと、今はそんなことを言っている場合じゃないな。

俺はもう一度自衛隊の人達に目を向ける。

………さて、どうしようかな………1回は放置するかも考えたけどモンスターがいつ現れるかもわからないし、ここにこのまま置いとくわけにはいかない。

さすがにそこまで人間はやめていない。

かと言ってここにずっといるのは俺が嫌だ。

だからこの人達を運べば良いんだろうけど意識のない人を5人も運べる手段が俺にはない。

………どうするかな………


「ピィ!」


俺が悩んでいるとファムが何か思いついたようで俺に向かって鳴いた。


「え?なにか思い付いたのか?」


俺はファムの方を向いて聞いてみる。


「ピィ!ピィピィ!!」


俺の言葉を聞いてすぐに自分の胸をドンッと羽で叩いて自信満々な様子を見せる。


「………マジで?」


「ガウ?」


俺は思わずユキと一緒にファムの方に向いて首を傾げてしまった。


「ピィ!」


俺達の様子を見てさらにドヤ顔を決める2匹。

………うーん、どうしようか………


「………やってみるか」


「ピィー♪」


俺が試しに言ってみるとファムは嬉しそうにその場で飛び跳ねる。

そして俺の肩に飛び乗ってきた。


「………でも本当にできるのか?………」


ファムはモンスターとはいえまだ小鳥という分類に入るし産まれてからそこまで時間も経っていない。


「ピィーイ!」


だが、俺の心配も束の間、ファムは俺の肩から降りて身体に気合いをいれ始めた。


「………うわっ!?」


俺が驚いて声をあげると同時にファムの体が光り出す。

眩しい光が収まるとそこには………


「………まじで………?」


「………ガァ………」


「ピィイ!」


そこには俺よりもはるかに大きくなったファムの姿があった。

………なるほど………実体のある幻覚か………

自分の身体を実体のある幻覚で大きく見せているのだろう。

その姿はそこまで元のファムとは変わっていないが獣らしさというか鷹に近づいたような気がする。

そして体の大きさが変わると同時に翼も大きくなっていた。

………確かにこれだけの大きさなら俺だけじゃなくてユキもこの意識を失っている5人も背中に乗せて飛べそうだな………


「凄いぞファム!いつの間にこんなことが出きるようになってたんだ!」


「ガウガァガウ!」


俺は嬉しくなって思わずファムの頭を撫でてしまう。

すると気持ち良さそうな表情をするファムも俺に頭を擦りつけてくる。

だけどそんなファムはいつも通りのつもりだったんだろうがファムの身体は現在幻覚で大きくなっているわけで………


「グオッ!」


その質量を受け止めるためになんとか全身に力を入れる。

ステータスの差もあったからかなんとか受け止められたが少し衝撃はあった。


「おぉ………これはなかなか………」


「………ピィーイ………」


俺がダメージを受けたことに気づいたのかファムはすぐに離れていった。


「ピィイ?」


「ああ。大丈夫だよ。気にするな」


「………ピイ!」


ファムは俺に負担をかけてしまったと思ったのかちょっと落ち込んでしまったが俺がフォローすると元気を取り戻した。


「………よし、とりあえずこれでこの人達は運ぶことはできそうだな」


「ピィ!」


俺の言葉にファムは再び自信ありげに羽で胸を叩く。

するとさっきと大きさが違うからその胸を叩く動作をしたことで風が起こる。

しかも結構強い風だ。

それを見て俺は思わず笑ってしまった。

成長はなかったが擬似的にとはいえファムが大きくなった姿を見れたがファムはそのままなんだなって思えた。


「ピィ〜♪」


俺が笑っていることが嬉しいのかファムも笑顔になる。

………よし。この人達を運ぶか。

目を覚ます気配を感じなかったから【アイテムボックス】から布を取り出して【錬金術】で糸にしてさらにそれに魔鉄を混ぜて【錬金術】で縄に変える。

そしてその縄を意識がない人達にぐるぐると巻き付けて縛り上げる。

………なんか犯罪者になった気分だな………

まぁ、やましいことは何もしていないが。

これもこのままファムに乗ったら【飛翔】スキルを使うわけじゃないんだから落ちてしまうかもしれないからその対策だ。

だから俺は悪くない。

そしてその縛った縄の先を手に持って自衛隊の人達をユキと一緒に背中に乗せていく。


「よっと………」


「ガウゥ………」


俺は1人づつ丁寧に背中に乗せて【飛翔】で飛んでいく。

ユキも俺に続いて自衛隊の人を口に咥えてファムの背中に跳んでいく。


「ピィ〜」


「ガウ♪ガウ♪」


ユキは俺と一緒にファムに乗ると楽しそうに飛び回る。


「よし!ファム、頼むぞ!」


「ピィイ!」


俺の声を聞いてファムは羽を大きく広げて飛び上がった。


「うおー!」


「ガゥー!」


俺は思わず声をあげてしまったが、ユキもその景色に感動して雄叫びをあげる。


「うわー!すげー!」


「ピィーー!!」


いつも【飛翔】スキルを使って飛んでいるがファムに乗って見る空の眺めは最高だった。

いつもより高く、遠くまで見える。

これが空を飛ぶ鳥の視点なのかと思うくらいの高さからの景色だ。


「よし!ファム、あっちの方向だ!」


「ピィ!」


俺はファムに指示を出すと、ファムは力強く羽ばたく。

するとグンッと身体が引っ張られる感覚があり、今まで感じたことのないスピードで進んでいく。


「うおおおぉぉぉ!?」


「ガウゥ!?」


あまりの速さに俺とユキは驚きの悲鳴をあげる。


「ピィイィイイイ!!!」


ファムもかなりテンションが上がったのか大きな鳴き声をあげて加速していく。

「ちょっ、待てってファム!」


「ピィイイイイイ!!!」


俺の制止の言葉を無視してファムはさらに速度を上げていく。


「うわぁああああーーー!!?」


「ガァアアアーーーン!!!!」


ファムのスピードに俺とユキは振り落とされないように必死に掴まるしかなかったのだった。

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