異常現象(中)
「………まさかゴブリンが現れてたのはこれの前兆………?」
だとしたらこの事態はゴブリンが引き起こしたものなのか?
………ならこの近くにゴブリンがいるはずだ。
俺は【気配感知】と【マップ】スキルを使ってゴブリンを探し始める。
「なんだよ………これ………」
【気配感知】スキルの範囲内にゴブリンの反応はない。
【マップ】スキルの方も範囲を広げているが、やはり反応はない。
………ゴブリンの気配は………
「これは………っ!」
【マップ】にも、【気配感知】でも異常な気配、存在を感じ取れる。
しかもその気配は塔からどんどん出てきている。
その気配はゴブリンのような小さな気配ではなくて獣のような気配、巨体の気配。
様々な気配が塔にある1つの出入り口から出てきている。
………そして、【マップ】でも確認している。
気配の存在は全て赤く名前も???になっていてわからない。
だが、その存在がここにいることだけは分かる。
………そして塔の付近にいた人がどんどんその気配に襲われて消えていっている。
「やばいな………」
俺は急いでその場から離れようとするが、俺の足は止まってしまう。
それはビビっているとか臆しているとかではなく物理的に足を
止められている。
そして俺の足に透明ななにかが絡みついている。
「………なんだこれ………」
俺の【気配感知】になにも反応がない?
すると俺の足に巻きついている透明ななにかに色がついてくる。
………赤黒い色をした透明で太い紐のようなものだ。
そしてそれが徐々にその元に向かって色がついていく。
そしてその透明ななにかの根元………つまり俺の足を止めている原因がその姿を現した。
そいつは2メートルを超える巨体でこっちの世界でもそいつに似た見た目の存在がいる。
「………カメレオン?」
そう、その姿はまさしくカメレオンだ。
舌の色は黒で体は緑、顔はこちらを向いてないが目だけがこちらを向いていて俺の足に巻きつけられていたのはそいつの舌だったのが分かった。
「マジか!」
俺は【アイテムボックス】を開いて中から両手鎌を取り出す。
いつもなら絶対に街の中じゃ【アイテムボックス】も使わないけど、この状況では仕方ないだろう。
そしてカメレオンのモンスターに向かって俺は駆け出す。
だが、その前カメレオンが足に巻きつけた舌を戻そうとしているのかかなり強い力で引っ張られている。
普通の人だったら簡単に力負けしてそのまま引きずられてあのカメレオンの大きな口の中にいただきますされていただろう。
「………くっ!おぉりゃぁああ!!」
俺は思いっきり叫ぶように声を出しながら両手鎌鎌を振り上げる。
そして一気に振り下ろして、カメレオンの舌を切り落とす。
するとその切り落とした先の舌は伸びたゴムを戻す時みたいにすごい勢いで縮んでいく。
そしてその勢いで戻った舌によってカメレオンは自分の舌の勢いのままコンクリートの固い地面に叩きつけられる。
「ガァッ!?」
そしてカメレオンはそのまま動かなくなった。
「えっと………倒したってことでいいのか?」
正直自分でもよく分からない状況だが、モンスターなのに塵になって消えてないからまだ死んではいないんだろう。
まあ、とりあえずとどめをさしておこう。
カメレオンのモンスターの首を狙って一撃を入れる。
そして俺に首を切り落とされたカメレオンのモンスターは俺の足に絡み付いている切り取った舌と共に塵になって消えていく。
「くっそ………なにが起きてるんだ」
こんな街中であんな巨大なモンスターが現れるなんて普通じゃない。
しかも俺の【気配感知】に反応しないような特殊なスキルを持っているモンスターまでいるし………一体何が起こってるんだよ。
「………とにかく今はあの塔に向かうしかないよな………」
俺は【アイテムボックス】からとりあえずローブを着込んでフードを被る。
これで俺の顔は見えないはずだ。
そして急いであのバカでかい塔に向かうのが………せん………け………つ………は?
………なんかでかくね?
さっきよりも塔が大きく、高くなってるように見えるんだけど………?
「あー………うわ………」
それを見た俺はまた塔に向かって走り出そうとするがさっきのカメレオンの唾液かな?なんかべっとりしていて気持ち悪いし臭い粘度の高い液体が足に絡み付いていた。
「………【クリーン】」
俺はそれを我慢しながらなんとか【クリーン】を使って綺麗にする。
そして塔の方に向かってまた走り出す。
「おいおい嘘だろ………」
そして塔のところに向かうと先程とは比べ物にならない数のモンスター達がうごめいているのが感じられる。
そしてこの距離からでも分かるほど塔の方からはモンスター達の雄叫びのような声が聞こえてくる。
「くっそ………!」
俺はまた、急いで塔に向かって走る。
そして向かう道に豚のモンスターに襲われそうになっている子供を庇った夫婦の姿が見える。
男性は豚のモンスターの前に女性と子供を守るように立ち塞がり女性は子供を抱き締めて震えている。
………俺の足は自然とその家族の元に向いた。
「………【アシスト・スピード】」
俺がそう唱えると俺の体が一瞬光り、次の瞬間には既に俺は男性と豚のモンスターの間にいた。
そして俺が振るった両手鎌は豚のモンスターを両断する。
そして俺が両断した豚のモンスターは塵になって消えていく。
「え?………え?」
まだ思考が追い付いていないのか家族は口をパクパクさせている。
俺はそんな彼らに振り返らずに話しかける。
「早くここから離れてください。ここは危険です。あの塔からさっきみたいなモンスターがどんどん出てきています。ここにいてもいずれ襲われてしまいます」
俺の言葉を聞いて彼らはやっと理解したのかすぐにその場から離れる。
「あ、ありがとうございます!」
「ありがと~」
最後にお礼を言う夫婦と子供に軽く会釈をして俺はその場を離れる。
そして塔に向かう途中、俺に向かってくるモンスター達を倒し、目についた人を助けながら塔に近づく。
猪のようなモンスターには突進してくるところをタイミングよく避けて頭を叩き潰し正面から両手鎌を使って縦に真っ二つにする。
そして二足歩行の豚のようなモンスターにはすれ違いざまに首を切り裂き、後ろから来た犬型のモンスターは体を半回転させて尻尾から背中にかけて斬り裂く。
「ふう………数が多い………」
さっきから向かう途中モンスターを狩り続けているが一向に減らない。
それに倒しても倒しても増え続ける一方だ。
だが、ようやく俺は塔のすぐ近くにたどり着いた。
ここまで【吸魂】も使う余裕すらなかったけど、何とか辿り着けた。
………だが、人の気配はしない………モンスターの気配ばかりだ。
………嫌な予感がする………
「………【看破の魔眼】」
モンスター達と戦っていながら【看破の魔眼】を発動して辺りの様子を探る。
するととんでもない物が見えた。
「あ、あれは………」
それは今まで見たことのあるような存在だった。
パッと見たら普通の人と間違えられるだろう。
だが、その存在は足がない。
昔話などで表されるような典型的な幽霊と呼ばれる存在だろう。
その数は老若男女、どんなに少なく見積もっても1000体以上いるように見える。
「………嘘だろ………」
しかもそれだけではない。
その存在達は次々と天に昇っていっているのだ。
………わかりたくはない。
だけど理解してしまった。
………あれは人の魂………
それもあの数全てが…………
「くそっ!」
俺は叫ぶように言うが何も変わらない。
ただただモンスターが増えて襲ってくるだけだ。
「………邪魔だぁぁぁ!!」
俺に向かってきたモンスターを両手で持った大鎌を振り回して薙ぎ払う。
そしてそのまま駆け出してモンスターを狩っていく。
近づいてくるモンスターの大群を相手に戦い続ける。
そしてどれだけ戦っただろうか? もう数え切れないほどのモンスターを倒したはずなのにまだまだモンスターは現れて俺に向かってくる。
だが、それでいい。
「悪いな。こっから先には行かせねぇよ」
俺は不敵に笑う。
逃がすわけにはいかない、逃げるわけにはいかない。
恐らく現段階でこの辺りのモンスターを倒せるのは俺だけだ。
モンスターを逃がしたり、逃げられたらどれだけ被害が広がるかわからない。
俺が逃げるのも同じだ。
だから俺が逃げるわけにはいかない。
「俺が相手になってやるよ!かかってこいや!!モンスター!!!」
俺の声が響き渡ると同時にモンスターの群れに飛び込む。
………さあ、狩りますか!
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