ゴブリンキング(前)

最初に動いたのはゴブリンキングだった。


「グルァァァァァアアア!!!」


ゴブリンキングの咆哮と同時にその声の大きさからゴブリンキングん中心に突風が吹き荒れる。


「なっ!?」


俺は慌てて距離を取るが突風に煽られてしまった。


「ぐぅう……」


何とか踏ん張り耐えきったが正直予想以上の威力だった。

………あれがただの咆哮ってマジ?


「………ってボーッとしてる場合じゃねぇ!」


そんなゴブリンキングの後ろにいるゴブリンメイジとゴブリンクレリック達はゴブリンキングと距離があったからなのか平然と魔法を放つために俺とゴブリンキングにそれぞれが杖を向けている。


「「「グギャギャギャガギャー!」」」


「ガギャグギャガギャァ!」


「ガギャグギャグギャーゴ!」


後衛のゴブリンメイジ、ゴブリンクレリックは全部で5体。

3体がゴブリンメイジ、2体がゴブリンクレリックという編成のようだ。

そしてゴブリンメイジの3体からは【ファイアアロー】が3本、2体のゴブリンクレリック達からはこちらに向かってきているゴブリンキングになんらかの魔法が飛んでいく。


「ちっ!」


俺は急いでその場から離れ、魔法を避けた。

本当は同じように魔法を使えれば良かったのだが流石に間に合わない。

そしてゴブリンキングに飛んでいった魔法はゴブリンキングがダメージを受けることはなくゴブリンキングに溶け込んでいく。


「………はぁっ!?」


なにが起こったか一瞬わからなかったがこちらに向かってきているゴブリンキングのスピードが上がったことで理解した。

おそらくあのゴブリンキングに使われた魔法は【付与魔法】の【アシスト・スピード】だろう。


「くらぇえええええ!」


「なっ!?」


こいつも喋るのか!?

と思いつつ咄嵯に両手鎌を構えてゴブリンキングの鉈による攻撃を防ごうとする。

だけど鉈を受け止めようとした瞬間嫌な予感がした。


「………っ!?うぉおおお!!?」


俺は横に転げるようにして攻撃を避ける。

その次の瞬間、ゴブリンキングの攻撃によって石造りの床が砕け散った。


「あぶねぇ………」


もし今のまま受けていたら俺もああなっていたのだろうか。

そう考えると背筋が凍りそうになる。


「避けたか………」


ゴブリンキングが俺を見ながら呟く。


「あぁ、なんとかな………」


俺は答えながら立ち上がる。……本当に強いな。

さっきの一撃で今の自分の純粋な力ではゴブリンキングに対抗出来ないことが分かった。

だからといってここで逃げるわけにはいかない。


「それにしてもお前は随分流暢に話すんだな………」


「当然だ。我はエルマ様の部下であるゴブリンキング、ギャドなのだぞ?あの方の力で我にも力が湧いてくるのだよ」


…………また出たよ。

エルマ、あの野郎が上司なのは知ってたけどここまで強化する手段があるとは思ってなかった。

でもまぁ………そっちの方が都合が良いな。


「なるほどな。それなら納得だあいつならそれぐらいやりかねない」


「ふん!貴様も直ぐにわかるぞ侵入者!この圧倒的な力の差がな!絶望しろ!あの方の力に!」


「いや、全然分からん」


確かに圧倒的かもしれない。

だけどそれはエルマの話だろ?

俺には関係ない。


「はっ!余裕ぶってられるのは今のうちだ!放て!魔法部隊!」


その言葉と同時に3体のゴブリンメイジからそれぞれ火、水、風魔法の【ファイアアロー】、【ウォーターアロー】、【ウインドアロー】が一斉に襲ってくる。


「【ウインドカッター】!【ウインドカッター】!【ウインドカッター】!【ウインドカッター】!」


それを俺の魔法スキルの中で最もスキルレベルの高い【風魔法】の使いなれた【ウインドカッター】で相殺していく。

そして勿論俺の魔法攻撃にゴブリンメイジの魔法が対抗できるわけもなく俺の【ウインドカッター】はゴブリンメイジに向かって飛んでいきゴブリンメイジ達を真っ二つにする。


「グギィ!?」


「ガァア!?」


「ギャギャッ!?」


3体のゴブリンメイジ達は悲鳴を上げながら倒れていく。

そして1つ【ウインドカッター】をゴブリンクレリックに放った。

だが、ゴブリンキングがゴブリンクレリックの前に立ち俺の【ウインドカッター】を鉈で弾き飛ばす。

いや、おかしいだろ………

だがゴブリンメイジが倒れる光景を見てもゴブリンキングは全く動揺せずそのままゴブリンクレリック達に指示を出す。

ゴブリンクレリックは杖を構えて待機していてそれを見たゴブリンキングは俺に向かって駆け出してくる。


「グルァァア!!」


「ちぃ!」


俺は両手鎌を振るうがその攻撃をゴブリンキングはなんなく盾で受け止める。

そして俺を押し返して少し距離を取り再び突進してきた。


「くっ………」


俺はそれを何とか避ける。

だけどおかしいだろあの固さは。


「ちっ………」


流石にこのままじゃ分が悪いか。

……仕方ない。

俺は全力でゴブリンキングから離れて魔法を発動させる。


「【アシスト・パワー】!【アシスト・スピード】!【アシスト・ディフェンス】!」


【付与魔法】を使って身体能力の強化と防御能力の上昇を行う。

これでまともに戦えるはずだ。

だけどこれだけじゃない。

身体に魔力を流して身体能力を強化する。


「はぁあああ!」


「ぐぅ!?」


ゴブリンキングの鉈での攻撃を避けつつ、ゴブリンキングの腹に蹴りを入れる。

流石に効いたようでゴブリンキングが後ろに下がる。


「……はぁっ!?」


俺はその隙にゴブリンキングの後ろに回り込む。

そして両手鎌を後ろから振り下ろす。


「……!?」


ゴブリンキングはそれをギリギリで気づき避けたようだが頬に傷を負う。

どうやら俺の予想通りみたいだな。

俺は一旦その場から離れゴブリンキングの様子を伺いながら様子を確認する。

そして気づいた。


「……なるほどな。【看破の魔眼】」


【看破の魔眼】を使ってゴブリンキングの武器と盾を集中して見る。


「やっぱりな……」


おかしいと思った。

だってゴブリンキングの持っている武器は普通の魔鉄製の鉈と盾だ。

なのに俺の攻撃を受け止めたりするどころかあのゴブリンキングが使っている盾は俺の攻撃を防ぐどころか俺の両手鎌を弾いた。

そして鉈は俺が受け止めようとしたら直感的に嫌な予感をさせた。

理由は【看破の魔眼】を使ったから分かった。

鉈と盾どちらにも魔力が纏われている。


「お前も魔力を纏わせられるのかよ………」


俺の言葉にゴブリンキングは笑みを浮かべた。


「そうだ!我のこの力はあの方に与えられた力だ!この力で貴様のような侵入者を蹂躙するのだ!貴様も我が力の糧となるがいい!」


そう言ってゴブリンキングは俺に向かって突っ込んでくる。


「はっ!やってみろ!俺は負けられねぇんだよ!特にエルマの部下とかいう奴らにはな!」


俺はゴブリンキングの鉈の振り下ろしを両手鎌で受け流して懐に入り込み、【アシスト・パワー】を使い強化された脚力を存分に使って思いっきり蹴った。


「ぬぉおお!!」


ゴブリンキングは俺の蹴りを受けて吹き飛ぶがすぐに体勢を立て直す。

そしてゴブリンキングはまた俺に向かって走ってきた。


「ははっ!面白いな!」


俺は楽しそうな表情をしてゴブリンキングに向かっていく。


「はぁあ!【ウインドカッター】!」


「グルァアア!」


俺の【風魔法】の【ウインドカッター】をゴブリンキングの鉈と盾が相殺していく。


「はぁああ!」


「グルァア!」


今度も俺がゴブリンキングに向かっていき攻撃するが、その攻撃をゴブリンキングは難なく防ぎ反撃をしてくる。

それを俺が避ける。

そして俺が攻撃を仕掛ける。

そんな攻防を繰り返していく。

そしてようやく。


「【ファイアアロー】!」


「ガァア!?」


俺の放った【火魔法】の【ファイアーアロー】がゴブリンキングに直撃した。

俺の攻撃を防ぎ続けていたせいでゴブリンキングは咄嵯の対応が遅れ、そのまま【ファイアアロー】を受けた。

そして俺はその隙を狙って一気に距離を詰めてゴブリンキングの首を切り落とすために駆ける。

だがゴブリンキングは倒れながらも俺に向かって拳を振り上げてきた。


「くそがっ!」


俺はゴブリンキングの腕に足を乗せて拳の軌道と同じように上に跳ぶ。

そして空いている左手でゴブリンキングの顔に一撃入れてから着地する。

………正直ステータスが上がってても【鎌術】や【柔術】、【拳術】のスキルレベルが上がってなかったらここまで身体がついてきてくれなかったと思う。


「はぁ………はぁ………」


「ぐぅ………」


ゴブリンキングは俺に殴られた衝撃で鼻から緑色の血を出しながら膝をつく。

それに顔の左半分は俺の【ファイアアロー】を受けたから焼け爛れている。

俺は息を整えてゴブリンキングに近づくと、ゴブリンキングはゆっくりと立ち上がった。


「やるな………だがまだ終わっていないぞ………」


「それはこっちも同じだ。だけどもう終わりだよ」


俺は右手で持ったままの両手鎌をゴブリンキングに向ける。


「これで終わりだ」


俺は両手鎌を横に振るう。

だが俺の攻撃がゴブリンキングに当たる前に後方から光が飛んでくる。

その光はゴブリンキングに当たるとゴブリンキングの傷が逆再生のように治っていった。

光が飛んできた方を見るとそこには【付与魔法】を使っていた2体のゴブリンクレリックが杖を向けていた。


「なっ!?」


それを見て俺が驚いているとゴブリンキングはニヤリと笑みを浮かべた。


「残念だったなぁ。我はまだ生きているぞ?」


俺の横に振った両手鎌はゴブリンキングの鉈に受け止められていた。


「ちっ!」


俺は舌打ちしながら脚でゴブリンキングを蹴り飛ばす。

ゴブリンキングはまともに俺の蹴りを受けるが直ぐに体勢を立て直されてしまい俺の両手鎌を掴む。


「っ!?」


俺は両手鎌を直ぐに手離させようとするがゴブリンキングの力が強すぎて柄からゴブリンキングの手が離れない。


「貴様の攻撃など効かぬわ!」


「ちょっ!?うぉおおお!嘘だろー!!!」


そしてそのままゴブリンキングに両手鎌ごと持ち上げられ両手鎌ごと俺はぶん投げられる。

そしてなんとか空中で回転しながら受け身を取り床に着地することができた。

だが、かなりゴブリンキングに距離を離されてしまった。


「あ゛ー!くそが!さっきお前がゴブリンクレリックを守っていたのはこの時のためか!」


「そうだ!我には回復手段がないからなぁ!」


そう言ってゴブリンキングは再び俺に向かって走り出す。


「【デスサイズ】!」


それを見た俺は【デスサイズ】を使い両手鎌に黒い靄を纏わせる。

さっきまで使う暇がなかったから全く使えていなかったがここまで距離があるのなら使える。


「さぁ!まだまだいくぞ!頼むから直ぐに殺らてくれるなよ!」


「くそが………!」


前には圧倒的な力を持つゴブリンキング。

そしてその後方には既に【回復魔法】の準備をしているゴブリンクレリック。

この分だとゴブリンキングに傷をつけても直ぐに回復されるだろう。

先にゴブリンクレリックを倒しに行きたいがそんな隙をゴブリンキングが見逃すわけがない。

………え?………これ無理ゲーじゃね?

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