準備と錬金

たっぷりと防具を作るための素材を買ってきた翌日。

今日は朝から自分の部屋で【錬金】用の魔方陣を描いている。

前回の【錬金】で【言語理解】のスキルを付与した指輪を作っていたのだが、失敗が多すぎて魔方陣が描いてあった紙がボロボロになってしまったためにこんなことになっている。

………つらい………

前回も結構時間がかかったし魔石(小)も全て無駄にしてしまった。

今回はもっと慎重にやらないとな。

そう考えて【アイテムボックス】から取り出した魔石(小)を砕いて画材に混ぜる。

そして筆を持ち魔方陣を描こうとした時、部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。


「ソラ様、入ってもよろしいでしょうか?」


「?いいよー」


「失礼します」


入ってきたのはアーニャさんだった。

そして入ってきたアーニャさんの手には黒色の生地があった。


「突然申し訳ありません」


「いや、別にいいけど………どうしたの?」


「あの、もしよかったらなのですがこの生地を【錬金】していただけませんでしょうか?この針と糸も」


そう言ってアーニャさんが俺に差し出してきたのはアーニャさんが持っていた黒色の生地と裁縫用の針や糸が入っている裁縫箱。


「別にいいけど………何に使うの?」


「えっと、実はお嬢様と作りたい物がございまして………」


「へぇ〜どんな物?」


「えっと………それは完成してからのお楽しみということでお願いできませんか?」


「まあ、いいよ。楽しみに待つことにするよ。それで?なにと【錬金】すれば良いかな?」


「えっと………魔鉄と【錬金】していただきたいのですが………できますでしょうか?」


魔鉄か………今は在庫がないな………

まあ良いか元々作ろうとしていたものに魔鉄を使う気だったし一緒に装備用の魔鉄を作っちゃえば良いかな。


「オッケー。だけど針はわかるけど生地や糸にも魔鉄を【錬金】するんだね」


「はい。生地や糸に魔鉄などの魔法金属を錬金することによって素材自体の強度が高くなるんですよ」


へぇ〜そんな効果があるのか。

知らなかったな。

じゃあさっそく始めよう。

俺は机の上に置いてある筆を取り魔力を込めていく。

すると筆の先端からは青白い光が溢れ始めた。

よし!準備完了だ。


「へぇ~そうだったんだ。わかったよ、ちょっと待っててねまず錬金用の魔方陣を描かなくちゃだから」


「わかりました」


アーニャさんにまた生地と針と糸を返して持っててもらう。

それから少し時間が経ってようやく魔方陣が完成した。

よし。

今回は上手くいったな。


「よし、出来た。じゃあ次はっと………」


俺は【アイテムボックス】から前回の失敗作である指輪の残骸を大量に出す。

そしてそれらを乗せられるだけ【錬金】用の魔方陣の上に置いてっと。


「【錬金】」


その瞬間、黄緑色の光が溢れて指輪だったものが魔方陣の上にインゴットとなって存在していた。


「成功です!」


おお、良かった。

ちゃんと成功したみたいだな。

【鑑定】してもちゃんと魔鉄のインゴットと表示されているな。


「それにしても初めて【錬金】を見ましたがあんなに綺麗なのですね」


「そうなの?」


「はい。私はこれまで【錬金】を見る機会がなかったのですがとても綺麗だと思いました」


そっか。

確かに【錬金】のあの黄緑色の光は綺麗だよな。

なんというか見ているだけで落ち着くような感じがするんだよな。


「それでは早速これを【錬金】していただいてもよろしいですか?」


「うん。もちろん」


俺はアーニャさんから受け取った裁縫箱に入っている裁縫道具一式を取り出し、その中に入っている針を魔方陣の上に乗せて魔鉄のインゴットも乗せる。


「【錬金】」


そしてさっきと同じように魔力を込めるとまた黄緑色のの光が溢れ出した。

光が収まると魔方陣の上にはまち針などの複数の裁縫用の針が置いてあった。

【鑑定】したら魔鉄の針と表示されているけどちゃんとまち針と裁縫するための針にわかれてるしオッケーオッケー。


「ソラ様、お見事です」


「いや、それほどでもないよ」


そして今度は糸と魔鉄のインゴットを魔方陣の上に乗せる。


「【錬金】」


そしてまた黄緑色の光が溢れて魔方陣の上には糸が乗っていた。

【鑑定】結果は魔鉄の糸。

うん。これも成功だな。

だけどこの魔鉄の糸はとても面白い性質をしている。

鑑定結果には"魔鉄"と表示されていたが金属のような硬さはなく普通の糸のように使える。

そして強度は普通の糸の比ではないぐらい硬くなっていて俺が全力で引っ張らなきゃ切れそうにない。

だけど逆に言えばステータスの高い俺が全力で引っ張らない限り切れないってことだ。

勿論武器を使えば簡単に切れるだろうけどその武器も切れ味が悪かったら刃が通らなそうな硬さをしている。

そして生地も同じように【錬金】するがやはり生地も糸と同じような性質になってた。


「こんなところかな」


「ありがとうございます!これでやっと作れます」


「それで?何を作るの?」


「さっきも言ったと思いますがそれは出来てからのお楽しみですよ」


「やっぱりダメ?」


「ダメです。それではありがとうございました。失礼します」


「ちょっ………」


俺が呼び止める間もなくアーニャさんは俺の部屋を出ていってしまった。

行っちゃったか……まあ良いやどうせ完成した時にわかるんだし。

その後の俺と言えば残りの指輪の残骸を全て魔鉄のインゴットに【錬金】して俺の防具を作るための素材にする。


「ふう……終わった〜」


機能性などを考えて【錬金】する防具のデザインをしていたらかなり時間が経ってしまっていた。

もう日が完全に暮れてしまっている。


「………一旦ご飯食べるか………」


部屋を出ていつも通りなら既にアーニャさんの作った美味しいご飯の並べられている居間に向かう。

居間に入るとそこにはエスカリアさんとアーニャさんがいた。

ユキも2人の近くに陣取って丸まって2人のしている事を興味深そうに見ていた。

だけどいつも並べられているご飯は用意されてなくアーニャさんはエスカリアさんと2人で俺が見えない位置で何かをしていた。

一体何をしているんだろう?


「エスカリアさん?アーニャさん?何してるの?」


「きゃっ!カミヤマ!?えっとこれはですね……」


「なんでもありません。それよりもご飯にしましょう直ぐに用意します」


「う、うん……」


明らかに怪しいけど何も教えてくれそうにないし見ようとしてもエスカリアさんにブロックされて見ることは出来なそうだから素直に諦める。

そして直ぐにアーニャさんのご飯の用意が終わったのでエスカリアさんと一緒に席に座る。


「いただきます」


「「いただきます」」


3人同時に食べ始める。

最初の頃はアーニャさんが俺達と一緒に食べるわけにはいかないと強情だったが今ではアーニャさんも一緒に食べているし、2人ともいただきますの意味を教えてあげたらいただきますを言ってくれるようになった。


「今日は少し遅かったですね?」


「申し訳ありません。少し熱中してしまいまして………」


「それって出来るまでお楽しみってやつ?」


「ええ」


「そうですわ。だからカミヤマは見ちゃダメよ」


「はーい」


そんなことを話しながらアーニャさんが作った料理を食べていく。

うん。相変わらずめちゃくちゃおいしいな。

俺の作る物より100倍美味しい。


「ごちそうさま」


「ご馳走様でした」


「はい。お粗末様でした」


俺達が食事を終えたタイミングを見計らってかちょうどよく食器を片付けてくれる。

本当に気が利いてありがたいな。


「それじゃあ2人とも何を作ってるか知らないけど2人も頑張ってね」


「カミヤマも頑張ってくださいね。自分の防具なのですから絶対に手抜きなどしないようにしてくださいね」


「魔力切れにはお気をつけくださいねソラ様」


「勿論。わかってるよ」


2人の言葉に返事をして俺は自分の部屋に戻る。

さて、早速作業を始めるとするかな。

俺が作る防具は手甲と脚甲、胸当てだ。

全身鎧は邪魔になるだけだし重そうだから脚下。

革という選択肢もあったが今俺が持っている革はユキと一緒にいたウルフの革しかない。

流石にユキと仲間だったかもしれない奴らの革を使うのは正直気が引けるから却下だ。

つまり全部魔鉄製の防具を作るのが強度的な問題でも1番というわけだな。

さてと………頑張るか………これも俺の安全のためなんだから。

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