解決と信頼

あの後結局考えが纏まらず【吸魂】を使ってゴブリンジェネラルからドロップした魔石(大)と両手剣を【アイテムボックス】に回収して部屋から出た。


「……とりあえず今は帰ろう」


「ワン?」


俺はユキと一緒に来た道を戻る。

その際、また倒したはずのゴブリンも復活していたが全てユキが倒してくれた。


「……ありがとうな」


「クゥーン」


そしてダンジョンから出るともう夜だった。

俺はユキを撫でてから家に【飛翔】スキルで飛んで帰る。

いつもより近い夜空に興奮しそうになるが我慢する。

そしていつも通り家の庭に降りたらユキを下ろして俺とユキに【クリーン】をかけてからそのままユキと一緒に玄関から家のなかに入る。


「ただいま………」


「ワンッ!」


すると玄関に向かってくる足音が聞こえてくる。

そしてアーニャさんが姿を現した。


「お帰りなさいませカミヤマ様。ご無事で何よりです」


「………うん。ありがとう」


「………カミヤマ様?」


俺はその言葉を聞いて涙が出そうになったけど必死で堪える。

話さなきゃいけないのにどうしても話せない………ごめんなさい。


「……ちょっと疲れてるみたいだからもう休むね。ご飯と風呂はいいや」


「あっ、お待ちくださいっ!」


俺はアーニャさんの制止を無視して自室に向かう。

そしてベッドに寝転ぶと一気に緊張の糸が切れて眠気が襲ってくる。


「……明日ちゃんと話をしよう」


そうして俺は眠りについた。


次の日。

目を覚ますと既に昼を過ぎていた。

昨日の疲労もあってかなりぐっすり眠れたようだ。

だけど今日こそはエスカリアさんとアーニャさんと話し合わなければならない。

俺は覚悟を決めてリビングに向かった。

「おはようございますカミヤマ様」


「あ、ああ。おはようアーニャさん」


そこにはテーブルでお茶を飲んでいるエスカリアさんがいた。

俺が来たことに気付いたのか席を立って近づいてきた。


「体調は大丈夫ですか?無理をされてませんか?」


「だ、大丈夫だよ」


俺は思わず一歩下がってしまう。

そんな俺を見たアーニャさんはため息をついてから近付いてくる。


「カミヤマ様、なにかあったのですか?様子がおかしいですよ」


「そ、それは……」


「話してください。私たちが力になれるかもしれません」


「………いや、でも………」


「カミヤマ様………私達そんなに頼りないでしょうか………」


エスカリアさんが悲しそうな顔をしながら言ってくる。

俺は慌てて首を横に振る。


「ち、違うよ!2人の事は本当に信頼しているし、これからも一緒に居て欲しいと思ってる!」


「ではどうして!」


「………それは………」


………話すべきか………?

ダンジョンを潰したらあの異世界への出入り口が無くなるかもしれないってことを………

それにもし仮にそうだとしたら俺はどうすれば良いんだ………

そんなことを考えていると不意に肩を叩かれた。


「カミヤマ様」


「え?」


声をかけられたので振り向くといつの間にかアーニャさんが立っていた。


「なにがあったのかは知りませんが私たちはカミヤマ様のお側におります。ですので安心して話していただけると嬉しいです」


「アーニャさん……」


俺は少し考える。

ここで言わなかったら俺はきっと後悔するだろう。

2人にダンジョンを潰してほしくないと言われたら管理者さんに相談してなんとかしよう………


「………分かった。実は───」


俺は昨日からのことを全て話した。

2人は真剣に聞いてくれていた。

もうすぐダンジョン、『ゴブリンキングの巣』が攻略出来そうなこと、そしてその結果異世界に繋がっている出入口が一緒に消滅してしまいかねないということも全て。

話終わったあと2人を見ると呆然とした表情をしていた。

やっぱりダメだったかなぁと思っているとアーニャさんが口を開いた。


「カミヤマ様、あなたはこんなことで悩んでいたのですか?」


「………え?こ、こんなこと?」


「ええ。カミヤマ様………いいえ、カミヤマ!あなたは私達を舐めすぎですわ!」


「!?」


エスカリアさんがいきなり大声で怒鳴ってきた。

俺は突然のことなので固まってしまう。


「カミヤマが何を考えているのか分かりませんでしたが今の話を聞いて理解しました。あなたはダンジョンを攻略してしまって私達があっちの世界に行けなくなってしまうと悩んでいたのですね?」


「う、うん。確かにそうだけど」


「全く………私はあなたの妻です。あなたに責任を取ってもらいます。………だからあっちの世界に戻るなんて選択肢はないですわ!」


「エスカリアさん……」


いや、エスカリアさんは別に妻でもなんでもないでしょ?

だけどその言葉が今は嬉しい。


「カミヤマ様………いえ、ソラ様。私はエスカリア様とソラ様についていくと決めております。ですので心配なさらないでください。それに例え世界が滅んでしまっても離れませんよ」


「アーニャさん……」


なんというか、その、ありがとうございます。


「……ごめんなさい。俺が間違ってました」


俺は頭を下げる。

そして2人が俺に言った言葉を思い出す。

………ああ、そうか。俺は勝手に勘違いしてたんだな。

2人はいつかあっちの世界に帰りたいだろうと考えていた。

だけど2人は………エスカリアさんとアーニャさんは

俺は改めて決意を固めて下げていた頭を上げる。


「エスカリアさん、アーニャさん」


「はい」


「ええ」


「………俺はダンジョンを潰します」


「はい」


「ええ」


「そして必ず帰ってきます。2人と一緒にいるために」


「ええ、待っております」


「無事に帰ってくるのを待っていますわ」


俺はもう迷わない。

たとえどんな結果になろうとも俺は自分の意思を貫く。

俺を信じてくれた2人のためにも。


「………さて、そうと決まれば早速準備をしましょう」


「はい」


「え?なにを?」


「決まっております」


「カミヤ様の装備を整えるのです」


「…………へ?俺の装備ですか?」


「はい」


「ソラ様の武器はとても立派です。一目見ただけで業物だということがわかります。ですが防具はどうですか!あんなジャージといわれる服ではいざという時に危険です!」


「そ、それはそうかもしれませんけど……」


「それにソラ様は最近ダンジョンに入り浸りすぎです。もっと体を休めるべきです」


「いや、でも……」


俺はダンジョンに行きたくないわけじゃない。

むしろ行きたくて仕方ないんだよ。


「それに!ダンジョンの主ということは普通のゴブリンキングより強いはずです!万全の体勢で挑むべきですわ!」


「それはそうかもしれないけど………」


俺はチラッとアーニャさんを見る。

するとアーニャさんはニコッと笑ってから口を開く。

あ、これダメなパターンだ。

俺は直感的に悟った。

だが遅かったようだ。

アーニャさんは俺の腕を掴むとそのまま引っ張っていく。


「さあさあ、まずはお買い物に参りましょう」


「ちょっ、アーニャさん!?」


「大丈夫ですよ。時間はありますしゆっくり見て回りましょう」


「そういう問題じゃなくて!俺はこれからダンジョンに行くんですよね!?」


「今日はお休みですわ!」


そう言ってエスカリアさんもアーニャさんの掴んでいる腕と逆の腕を掴んできた。


「え、エスカリアさんまで?」


「安全に帰ってくるためにも防具は必要ですわ」


「ええ。ソラ様なら【錬金】スキルがあるので金属類などは足りるはずですが布などが足りないはずです。自分に合った装備を作るにはまずは素材です。こっちの世界には武具などを売っている店がなさそうなのでソラ様の自作というのが難点ですがそこは我慢してください」


「いや、ちょっと!俺はダンジョンに行かないと──」


「はいはい。そんなこと言わずに一緒に行きますよー」


「ちょっ!?」


俺は2人にズルズルと引きずられていく。

………まずは着替えさせてくれない?

………なんでこうなったのかなぁ。

結局俺はエスカリアさん、アーニャさんに連れ回され様々な店を見て回った。

まあ、でも楽しかったな………主に精神的に疲れたけど。

特にエスカリアさんとアーニャさんが色々買おうとする度に止めてたのは大変だったよ……だって2人とも自分が使うものを買うんじゃなくって俺の防具とか作るための材料ばかりなんだもん。

でもそのおかげで色々な材料が買い揃えられた。

これで防具を………作るのは俺か………

………また地獄見なきゃダメ?

俺の身を守るため?

うん。

そうだよねでもさ………あ、はい。

しっかり作らせていただきます………

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