新たな命の可能性と魔王軍について

「………なんだこれ?」


エルマに引き分けだと言われたが実質負けだったあの戦闘から少し経ち、近くに【気配感知】で感じたゴブリンの集落を全滅させた。

そしてなにかないかと思い集落の中を漁っていると驚く物があった。


「………卵?」


それは片手に収まるぐらいの大きさの水色の卵で【鑑定】しても『????????の卵』としか鑑定結果には出なかった。

………さっきから【鑑定】しても鑑定結果が見えない事が多いな………スキルレベルが足りてないのかな?

このダンジョンでは卵を産むような生物は見当たらないし、モンスターもゴブリン系統のモンスターとウルフしか見ていない。

だからこれは一体なんの卵なのか分からない。

ただ分かる事はこれがただの卵ではなく、異世界から持ち込まれたという事だけだ。


「一応持って帰るか」


こんなもの放置しておいたら何が起こるのか分かったもんじゃない。

もしかしたらエスカリアさんやアーニャさんなら分かるかもしれないしな。

とりあえず拾った謎の卵を【アイテムボックス】に入れる。

さて、これで今日の探索は終わりにして帰ろうかな。

そう思いながら俺は来た道を戻っていく。

勿論3、2、1階層とゴブリン達を全滅させたのは言うまでもないだろう。


***


「ただいま………」


疲れ切った声を出しながら家に帰るとパタパタという音と一緒にアーニャさんが出迎えに来てくれた。


「お帰りなさい。カミヤマ……さ………ま………」


いつものように俺の顔を見た瞬間笑顔になるのだが、その表情はすぐに固まり段々と顔色が悪くなっていく。


「どうしたんですかアーニャさん?」


そんな彼女の態度を見て何かあったのだろうかと思い声を掛けると彼女は震える声でこう言った。


「カ、カミヤマ様、そ、そのお姿は………」


「えっ?」


彼女に言われ自分の体を改めて見る。

俺の今の姿はまずジャージが切り裂かれていてゴブリンの緑色の返り血じゃない俺の赤い血が滲んでいる。

傷はもうないが結構色が濃いものだったようで服の下も酷い有様だろう。


「あーっと………これはちょっと色々ありましてね」


「!?大丈夫なのですか!!」


俺の言葉を聞くとアーニャさんは慌てて駆け寄って来て怪我の確認を始める。

確認は俺の服をまくり上げてまで行われた。

その行動は突然の事だったしエルマとの戦いで疲労してしまっていた俺は止めることはできなかった。


「い、いや、別に大したことないですよ!だからアーニャさん落ち着いて!」


「でも……」


何とか彼女を落ち着かせようと試みるが中々納得してくれず困っていた時だ。


「何してるんですの?」


「グルァ?」


呆れた様子でそう言いながら玄関にやって来たのはエスカリアさんとユキだ。

エスカリアさんもユキも玄関が騒がしくて来てくれたのか知らないが。


「あっ、エスカリアさん!アーニャさんを止めてくれませんか!!このままじゃまずいんで!!」


「?何がですの?」


「カミヤマ様のお体に異常が無いかどうか調べているところです」


「カミヤマ様の?」


エスカリアさんはアーニャさんに言われて俺の方を見る。

そして俺の姿を見ると目を見開いた。


「そうなのですか?なら私もやりますわよ!」


そう言って俺の姿を見たエスカリアさんはアーニャさんと一緒に俺の腕を掴み服をまくり上げようとしてくる。


「ちょっ!?エスカリアさんまで何を!?」


「いいから大人してください。調べられないでしょう」


「そうです。大人しくしてください」


「いや、できるかー!!!」


2人に腕を掴まれてしまい身動きが取れなくなるが流石に以前2人の裸を見てしまった身としては恥ずかしくて抵抗してしまう。

さらに2人が抱き着くように確認しようとしているから2人の柔らかい所が………っ!

恥ずかしいから全力で2人を引き剥がしたい。

だがステータスが高すぎるため2人に怪我をさせないために手加減しないといけないから振りほどくことができない。

うおー!!!

これ以上結婚してくださいとか言われる理由を作るわけにはいかないんだよ!あと恥ずかしい!

結局俺のステータスに対抗できず確認ができない2人と手加減しているため抵抗することしかできない不毛な戦いはユキが遊んでいると勘違いしたのか飛び掛かってきたことで終戦した。

2人は不服そうだが俺は助かったと一息つく。

………疲れた………てかなんで家でこんなに疲れてんだ俺………

とりあえず風呂入ろう。

クリーンですぐに汚れが消えるとはいえ風呂に入りたい気分だわ………


***


「それで、なんであんな格好をしていたのですの?」


「えっと……」


あれから風呂に入って汗を流した後、居間でエスカリアさん達に事情を説明する事になった。(ユキは俺の足元で丸まっている)

ダンジョンの4階層でエルマという魔王軍幹部と戦ったということ。

そしてその時にエルマの攻撃を避けきれず受けた攻撃のせいでジャージがボロボロになってしまった事を話した。


「魔王軍幹部のエルマ………!」


「そんな大物がダンジョンに………」


俺の説明を聞いてエスカリアさん達は驚いた顔をしている。

まぁそりゃ驚くよな。


「そんなにあいつは有名なんですか?」


「有名も何も魔王軍エルマは魔王軍の四天王という幹部の一人と言われている人物ですわ」


「四天王……」


「はい。確かエルマの他にバズラ、キドラ、リシュアという方達がいるはずですわ」


「その通りです。その中でもエルマは最も強いと言われており魔王軍の中では魔王を除くと最強の存在だと噂されています」


「そんな相手と戦ってよく生きて帰ってきましたわね」


「ははっ………まあ、運が良かったですよ」


実際あれは運が良かった。

あいつが呼び出しという形で呼ばれてなかったら本当に負けて命がなかったと思う。

【吸収】スキルで体力が多少回復したからといってあの状態で戦えるような相手ではなかった。

それにあの時は無我夢中だったからあまり覚えていない。

とにかく戦わないと殺されると思ったから戦っただけだ。

実際あの時あいつの攻撃を避けられていたのはほぼ感だった。

エルマとの戦いを思い出して体が震えそうになる。

そんな俺の様子を見て心配になったのかエスカリアさんは声を掛けてくる。

彼女は俺の目の前に来るとその手を優しく握ってくれる。


「カミヤマ様……大丈夫ですか?」


「あ、うん。大丈夫だよ、ちょっと思い出してしまっただけですから」


そして次はアーニャさんがエスカリアさんの手に重なるように俺の手を握ってくれる。


「カミヤマ様は十分頑張ってくださいました。1度お休みください」


「ありがとう、アーニャさん。でもまだやりたい事があるから俺は休みまないよ」


「………そうですか………分かりました。ですが無理だけはしないでくださいね?それと何かあれば私達に言ってくださって構いませんから」


「ははは、その時はお願いするよ」


「はい、任せてください!」


「勿論私も協力しますわ!」


アーニャさんの言葉に同調してエスカリアさんは胸を張って答える。

2人の優しさに思わず笑みを浮かべてしまう。

2人とも優しいな………


「グルァ」


すると今まで黙っていたユキがソファーの上に飛び乗って俺の膝の上に頭を乗せてくる。

どうやらユキも俺を心配してくれているようだ。


「ありがとな、ユキ」


「ガウゥ~♪」


頭を撫でると気持ちよさそうに目を細める。

その姿はとても可愛らしい。

そんなユキを見ていると自然と笑顔になる。


「ふぅー癒されるなー」


「ユキちゃん可愛いですねー」


「本当モフモフで触り心地最高ですわー」


3人でユキを愛でながらまったりと過ごす。

こんな時間がずっと続けばいいのになと思いつつあることを思い出す。


「あっそうだ………」


「どうかしましたか?」


俺が呟いた言葉に反応して2人がこちらを見る。

俺は2人に視線を向けると【アイテムボックス】からあるものを取り出す。


「これなんだけど………2人共知ってるかな?」


それはダンジョンで手に入れた片手に収まるぐらいの大きさの水色の卵。

【鑑定】しても名前すら分からなかったこの卵をエスカリアさんやアーニャさんなら知っているかもしれない。

俺の質問に対してエスカリアさんは首を傾げる。

だが、すぐに思い当たることがあったのか口を開く。


「それってもしかして……『ファントムホークの卵』ではありませんか?」


「えっ!?わかるの!?」


「ええ。前に本で見た覚えがありますわ」


「そうなんだ……」


「はい。確かかなり珍しいモンスターで狩りをする際に獲物に幻影を見せて囲まれていると錯覚させたり実体がある幻影を使って自分を小さくさせたり大きくさせたりできるモンスターのはずです」


「へぇー凄いな……」


流石は王女様。

物知りだ。


「ただその分とても強くて討伐難易度が高いと言われているモンスターでしたから実物を見たことはありませんが……」


確かに話を聞く限りかなり強いモンスターみたいだしな。

そんな奴の卵か………

え?価値やばくない?

なんでそんな強そうなモンスターの卵をゴブリンが持っていたかわからないんだけど………


「ちなみにその値段っていくらすんだろう……」


恐る恐る聞いてみるとエスカリアさんは少し考える素振りを見せる。

そしてゆっくりと答えてくれた。


「確か……オークションでは金貨50枚以上だったはずですわ」


「ごっ……!!」


予想以上の金額だった。

金貨がいくらぐらいかわからないが金貨って時点ですごい値段の代物だとわかる。

えっちょっと持ってるのが怖いんだけど!そんな事を考えてしまい冷や汗が出てくる。


「カミヤマ様?大丈夫ですか?」


「あ、ああうん。問題無いよ。それよりこの卵って孵らないのかな?」


「うーん、どうなんでしょうか………」


「確か魔力を注ぐことで孵化すると本にはありましたけど……試してみます?」


「そ、そうだな………やってみよう」


俺は両手で優しく包み込むように持つとその手に意識を集中させて魔力を流していく。

だけど限界まで魔力を流しても反応がない。

だんだん体から力が抜けて脱力感が襲ってくる。

この感覚には覚えがある。

エスカリアさんとアーニャさんに渡す【言語理解】の指輪を作ったときに味わった感覚だ。

え?まだ足りないの?

俺普通の人よりはめちゃくちゃ魔力多いと思うよ?

職業も魔法系の職業の魔導師勿論にも就いてるし。


「ダメ……っぽいかな」


「そうですかぁ……残念です」


「まあ、仕方がないかも知れませんわね。そもそもオークションで落札された卵も何人もの魔法使いが数年かけて孵したらしいですからね」


「でも、カミヤマ様の魔力量があればもしかするといつか生まれるかもしれないですね」


「そうだよね」


そう言ってもらえると嬉しいな。

俺はもう一度手に持っている卵に視線を落とす。

できることならちゃんと産まれて来てほしいな。

待ってるよ。

お前が産まれてくる日を。

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