その後とオースターさんとアーニャさん
「んっ……あれ?ここは……」
俺は目が覚めると何故か自室のベッドの上にいた。
「確か俺は風呂場で気絶して……って、どうして俺はここで寝てるんだ?」
記憶を辿っていくと段々と思い出してきた。
アーニャさんに顎を殴り飛ばされてそれで脱衣所で倒れてしまったんだよな。
で、その後、多分だけどアーニャさんが運んでくれたってことなのか。
「………気を付けよう」
今度から気を付けないと。
しかし、今回はアーニャさんにも迷惑をかけちゃったし、ちゃんとお礼言わないとだな。
「でも、顔合わせづらいなぁ」
正直どんな顔をすればいいのか分からない。
裸、見ちゃったからなぁ………
「あー!もう!考えるのやめよ!」
とりあえず今はオースターさんアーニャさんに謝罪しよう!うん!そうしよう!!
俺は考えないように頭を空っぽにしてベッドから出て気配がするリビングに向かう。
するとそこには椅子に座って本を読んでいるアーニャさんの姿が見えた。
勿論服は着ているし、俺が持っていっていた服を着ている。
「あ、あの……おはよう……」
俺が声をかけるとアーニャさんは読んでいた本を閉じてこちらを見た。
その表情はとても悲しげだった。
「カミヤマ様……大丈夫ですか?」
「えっと……はい。ちょっと顎が痛いですけど問題ないですよ」
「……申し訳ございませんでした」
アーニャさんは深々と頭を下げた。
俺は慌てて近寄って顔を上げさせた。
「ちょ!?アーニャさん!?何やってるんですか!?そんな事しないでください!!」
「いえ、私はカミヤマ様にとんでもない事をしてしまいました。この償いは必ずします」
「本当に気にしてないので!それにあれは俺が悪いので仕方がないですから!」
「そういうわけにはいきません。私達はこの家に置いてもらう身です。それなのにメイドがその家の主人に手を上げるなど許されることではないのです」
どうしたものかな……
脱衣所の件はアーニャさんに非は無くて確実に人がいることを確認しなかった俺の方が悪い。
だから、謝るのは俺の方なのに……
それにアーニャさん、譲らなそうなんだよな………
「分かりました。じゃあこうしましょう」
「………はい」
「まず今回のことはお互いに水に流すということで」
「……かしこまりました」
「それで………」
「………っ!」
俺はアーニャさんの手を握り締める。
「これからもよろしくお願いしますね。アーニャさん」
そう言って笑顔を向けるとアーニャさんは一瞬驚いたような顔をしたがすぐにいつもの微笑みに戻ってくれた。
「はい。私こそ、よろしくお願いします。カミヤマ様」
こうして俺たちは和解した。
これで一件落着だな!
………アーニャさんは。
「………あの~」
「はい?なんでしょうか?」
「オースターさんは?」
「お嬢様ならそこに………」
アーニャさんはソファーの方に視線を向ける。
するとそこには毛布を羽織って体育座りをしているオースターさんがいた。
「オースターさーん」
俺が近づいて名前を呼ぶとビクッとしてゆっくりと顔を上げた。
目は真っ赤になっていた。
「ひぐぅ〜〜」
そしてそのまま泣き出してしまった。
うん俺が悪いって分かる。
「オースターさん、どうして泣いてるの?」
まあ、察しは付くんだけど。
「だってぇー!私の裸見たじゃないいですかー!!ふぇぇぇえーん!!」
やっぱりそこだよなぁ。
まぁ、確かに女の子にとって裸を見られるのはかなり嫌だろう。
ましてやそれが同性ではなく異性となると尚更だ。
俺でも恥ずかしいしな。
ただ、今回は事故であって故意ではなかったのでそこはしっかりと理解してほしいのだが、今のオースターさんには無理そうだ。
「オースターさん、ごめんなさい。許してくれとは言わないけどどうか今回だけは許してもらえないかな?次からは気を付けるようにするからさ………」
そう言うとオースターさんは涙目のまま首を横に振った。
「そ、それはダメです!」
「へっ!?ど、どうして?」
「そ、それは………その………」
オースターさんはモジモジしながらチラッチラッと俺の顔を見てきた。
何その可愛い仕草。
「せ、せ」
「せ?」
「責任を……取ってもらうためです!」
「はいぃいいいっ!!!?」
まさかの展開に俺は思わず叫んでしまった。
「ちょっ!?待ってくださいよオースターさん!どういうことですか!?」
「どういう事も何もそのままの意味です!」
「そのまんまって言われても……」
「つまり、カミヤマ様は私と結婚しないといけないということです!」
「はいいいいっ!!!?」
更にとんでもない展開になってしまった。
というか結婚て………
「な、な、な、なんで!?」
「カミヤマ様は私の裸を見たんですよ!だったらその責任を取ってもらわないといけません!」
「い、いや、だからあれは事故で……」
「言い訳無用です!」
うわぁ……聞く耳持ってくれないよこの子。
「はぁ………お嬢様、落ち着いてください」
アーニャさんが少し呆れた表情をして言った。
「お嬢様は少し興奮しているようですので深呼吸をしてください」
「………そうですわね。すーはー、すーはー……よし!落ち着きました!それでは結婚してください!」
「アーニャさーん!オースターさん全然落ち着いてないよー!!!」
むしろ悪化してるよ!
助けて!アーニャさん!
俺が視線でまた助けを求めると分かってくれたのかアーニャさん溜息を1回してからオースターさんに近付いていった。
「お嬢様」
「なんですか!アーニャ!」
「………失礼します」
「はふん!」
次の瞬間オースターさんはアーニャさんにもたれかかるように意識を失い崩れ落ちた。
今のはなぜか急にオースターさんが意識を失ったように見えるだろう。
だけどそれは違う。
アーニャさんがオースターさんの首に手刀を入れたのだ。
俺は全然見えたけど結構早かったと思う。
というか首トンとか初めて見たぞ。
「カミヤマ様、申し訳ありません」
「あ、いえ、大丈夫ですよ」
アーニャさんはオースターさんを抱きかかえるとソファーに寝かせた。
そしてそのままオースターさんの肩まで毛布をかけてあげた。
「えっと………アーニャさん………さっきのは?」
「メイドの必須スキルです」
いや、絶対嘘だろ。
メイドにあんな物騒な必須スキルがあってたまるか。
「い、いや、今のは手刀じゃ」
「必須スキルです」
「い、いや」
「必須スキルです」
「………」
「必須スキルです」
………そっか~必須スキルか。
俺は考えるのをやめた。
だってどう考えても言う気がなさそうだから無駄なことだしな。
「それにしても………」
「?どうした?」
「いえ、久しぶりにあんな言葉使いのお嬢様を見たなと思いまして」
「なにが?」
「あの時以来でしょうか?」
そう言ってアーニャさんは懐かしむような目をしていた。
「えーっと……何があったのかな?」
俺が恐る恐る聞いてみるとアーニャさんはゆっくりと話してくれた。
「もう5年くらい前になると思います。当時お嬢様はまだ9歳、私が10歳の時ですね」
「へぇー結構昔だね」
今から5年前ってことは俺が小6の時だな。
俺の誕生日がもうすぐだからまだ17歳になってないからその時は11歳だけど。
「はい。その頃お嬢様は魔王軍との戦いで第一王子である兄、オルター様を亡くしていて落ち込んでいました」
「………え?」
「お嬢様には当時3つ上の兄がいました。とても優しくて勇敢なお方でした。私もとてもあの方には良くしてもらいました」
「………」
「しかし、ある日突然王城に魔族が現れました。現れました魔族はとても強く城にいた兵士、近衛兵、全てが倒されてしまいました」
俺は黙って聞くことにした。
これは、この話しは聞き逃してはいけない。
そう思ったから。
「そして、魔族にお嬢様が狙われました」
「っ!」
「私は必死で止めようとしました。ですが私の力では到底敵いませんでした。でも、そんな時にオルター様が駆けなんとかその場を収めることができました」
「……」
「しかし、その代償は大きくオルター様は亡骸が残ることもなく王城に現れた魔族と共に消えました」
アーニャさんは悲しげに俯いた。
きっとその光景を思い出しているんだろう。
俺はなんて声をかければいいのか分からなかった。
ただただ聞くことしか出来なかった。
アーニャさんはゆっくり顔を上げると真っ直ぐに俺の顔を見て言った。
まるで、俺の心を見透かすかのように。
「その後、お嬢様は変わりました」
「変わった……ですか?」
「はい。口調を変え態度を変えられました。自身の弱さを隠すために」
アーニャさんはどこか寂しい表情でオースターさんを見た。
オースターさんは穏やかな顔をして眠っていた。
「………そうなんですね」
「………はい」
俺はそれ以上何も言えなかった。
何かを言える立場じゃないと思ったからだ。
俺はオースターさんの事を何も知らない。
勿論アーニャさんの事も。俺は2人の事を知りたい。
知り合って間もないけどそれでも俺は知りたいと心の底から思う。
だからこそ、俺はオースターさんに言った。
「アーニャさん、オースターさんの事もっと教えてくれませんか?」
俺はアーニャさんの目を見ながら聞いた。アーニャさんは一瞬驚いたようだったがすぐにいつもの表情にもどった。
「……カミヤマ様は不思議な人ですね」
「そうかな?」
まぁ、確かによく言われるけど。
でも、不思議と言われてもあんまりピンとこないんだよな。
俺的には普通にしてるつもりだし。
うーん…… 俺が悩んでいるとアーニャさんはクスッと笑みを浮かべながら口を開いた。
「分かりました。カミヤマ様になら話しても大丈夫。少し長くなりますがよろしいでしょうか?」
「うん。頼んでもいいかな?」
「ふふ、かしこましました。それではお茶のおかわりを用意しましょうか?」
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ。大丈夫ですよ。」
そう言ってアーニャさんは立ち上がりキッチンの方に向かって行った。
その言葉に甘えてアーニャさんが用意してくれるというので俺は大人しく待つことにしたのだがその間俺はオースターさんの寝顔を見ていたのだった。
尚、その後キッチンにある器具の使い方が分からなかったアーニャさんに呼ばれたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます