事情説明と衝撃の事実(2人にとって)

多分だが俺の考えは正しいだろう。

手を取り合って跳ねながら喜んでいる2人を見つめる。

服がボロボロのためそんな2人のご立派様が………

ってダメだダメだ。

さすがに失礼すぎる。

頭を振って煩悩をどこかに飛ばす。


「2人共、ちょっといいか?」


俺が声をかけると2人共取り合っていた手を離して俺の方を向いてくれる。

ダンジョンから出れたことが嬉しくて興奮しているのか、跳ねて喜ぶという淑女らしからぬ行動に羞恥心を感じたのかどちらか分からないが2人共顔を赤く染めている。


「よっこいしょっと。さて、オースターさん、アーニャさん。早速で悪いんだがちょっと俺の話を聞いてくれるか?」


ダンジョンの近くにあった手頃な岩に腰掛けて2オースターさんとアーニャさんの2人に言葉をかける。

そんな俺の言葉を聞いた2人は真剣な表情になる。

先程まで浮かれていたのが嘘みたいだ。

俺はそんな2人の目を見ながら言葉を続ける。


「実は俺の考えが正しかったら今の状況は2人にとって良いことと悪いことの2つが存在するんだけど………聞きたい?」


「えっと………それは良いことだけじゃダメなのでしょうか?」


「お嬢様、それはいけません。しっかりと今分かっていること、状況を理解しなければいけません。特にお嬢様は今、命を狙われているのです。少しでも今の状況を見極めなければいけません」


2人が不安そうな顔をする。

そりゃそうだ。

いきなりこんなことを言われても怖いだけだろう。

それでも話さないわけにはいかない。

これは2人に確実に関わってくるんだから。


「………それじゃあ、まずは良いことからお願いします」


「オッケー。まずは良いことから話そうか。良いこと、それはオースターさんの命が狙われる心配はもう無いってこと」


「………えっ?」


「………それはどういうことでしょうか?」


「うん、順を追って説明するよ。あのね―――」


それから俺は説明した。

俺の考えが正しいということを前提として話すと、2人は今、俺が住んでいて2人も立っているこの場所、日本は2人がやってきた場所とは全く違う場所にあること。

オースターさん、アーニャさんの2人を追手がここまで追ってくるには今みたいにダンジョンの中から俺の手を借りて出てくるしかないということ。

つまり2人を追ってくるには俺の手伝いが必要だが、俺が手伝うわけがないからまず2人が命を狙ってくるのは不可能ということの3つを話した。


「だから安心してくれて大丈夫だよ」


「ほ、ほんとうなのですか?」


「ああ、信じてくれて良いよ」


俺の説明を聞き終えた2人は俯きながら黙り込んでいる。

やっぱり突然こんなこと言われても信じられないよね?

そりゃそうだ。

普通ならありえないことだもんな。

でも信じてもらうしか方法はないんだよなぁ…… どうしたものかと考えていると、オースターさんが口を開いた。


「……カミヤマ様のお話は分かりました。ですがその考えだと私たちにとってあまり良くないこともあるように思えるのですが?」


おっ! 良かった! ちゃんと信じてくれたみたいだ!

だけどまだちょっと疑っているのかアーニャさんは目を細めている。

………まあ、正直、ちょっとこれは言いにくいな………こっちに連れてきた俺が言うなって思うんだけどさ………

まあ、こればっかりはしょうがないよな。

ダンジョンに置いてくるわけにもいかなかったし。


「そのことについても説明するよ。それが悪いことに該当するからね。実は――」


俺は再び2人に説明をした。

俺が2人を連れてきた日本は2人からしたら違う世界、つまり異世界ということ。

命を狙われる心配はないけど言葉が通じないかもしれないこと。

恐らくだが俺達が通ってきた出口じゃなくてもう片方の出口を通れば2人のいた世界に戻れるということの3つを説明した。


「……という訳なんだ。ごめんね? 混乱させちゃったかな?」


俺がそう言って2人の顔を見るとオースターさんが涙目になっていて、アーニャさんが涙ぐみながらオースターさんを横から抱き締めていた。

あるぇ〜?

なんで泣いているんだろう。

俺泣かせるようなことしてないよな?


「す、すみません……あまりにも突拍子もない話で………それに、もう命を狙われないのが嬉しくて………」


「ごめんなさい……私も同じ気持ちで……つい……」


「……そっか。うん、確かにそうだよね」


俺だってこの話を2人の立場だったら信じられないだろう。

実際に2人の立場になったら俺も信じられなかったと思う。

だからこそ2人の反応は正しいんだ。

むしろ俺は謝らないといけないくらいだ。

本当に申し訳ないことをした。

俺は2人に向かて頭を下げる。

そしてゆっくりと頭を上げて言葉を続ける。

2人の今後のことを考えると必要なことなのだ。

こんな言葉も通じないかもしれない場所にまともな説明もなしに連れてこられたんだ。

きっと2人は不安でいっぱいだろう。

だから俺は誠心誠意をもって頭を下げながら2人に伝えることにした。


「2人共、これからのことなんだけど……俺と一緒に来てほしいと思っています。どうかな?」


予想より入院期間が短かったから事故で死んでしまった両親の遺産と慰謝料が残っているから生活に2人増えてもお金の心配はしばらくないはずだ。


「えっと……カミヤマ様のところに行くというのは……それに言葉が通じないかもしれないのならなぜカミヤマ様は言葉が通じているのですか?」


おっと、そこからか。

そりゃそうだよな。

いきなり違う世界なんて言われても困るし一緒に来てくれなんて困るだけだもんな。

俺はアーニャさんとオースターさんに向けて今の状況を一つずつ説明していく。


「なるほど………話を聞く限りまるで勇者召還のようですわね………」


「ええ、そうですね」


あれっ? なんか思っていたのと違う答えが返って来たぞ…… まさか信じてくれるとは思わなかった。

勇者召還とか気になる単語はあるけどこれはこれで助かるな。


「それじゃあ、改めて聞くけど俺と一緒に来てくれるかな?」


「私は構いませんわ。カミヤマ様に付いて行きます」


「私も大丈夫です。………ただ、カミヤマ様には後で私達の言葉が通じる理由を話していただきましょう」


「………はっはっはっは。それじゃあ早速向かおうか、俺の家に」


「カミヤマ様?」


おっと、危ない危ない。

俺は誤魔化すように笑って森を歩き出す。

後ろからは2人が慌てて追いかけてくる気配を感じる。

だけど俺は直ぐにその場に立ち止まる。


「カミヤマ様?」


オースターさんが声をかけてくるが反応することができなかった。

………さて、どうしたものか…… …

よく考えたら2人を連れてどうやって家まで向かうか………

まず、あの2人はまともに森の中を歩けそうにない。

それに歩けたとしても街に出たらこの状況、どう何も知らない人達はどう思う?

あちこち服が破れて際どい格好の外国人に見える2人、連れているのは男→男が怪しい→通報→ポリスメーン→2人が言葉が分かるという保証がないから弁明できない→俺、社会的に死亡が確定。

う~んまずい、非常にまずい。

そんなことになる事態はさすがに避けたい。

ここは俺が【飛翔】スキルを使って2人を抱えて飛んで帰るしかないか?


「………オースターさん、アーニャさん、悪いけど俺に捕まってもらって良いかな?」


「え? は、はい! 分かりました!」


「何でしょうか?」


2人は俺が何をするのか分かっていない様子だったが、素直に俺の指示に従ってくれた。


「それじゃあ行くよ――【飛翔】」


俺は2人を両脇に抱えて空へと飛び立つ。

ふむ………2つの柔らかい感触が………役得としておこう。


「え? きゃああ!?」


「な、なんですかこれー!?」


当然のことだが2人から悲鳴が上がる。

俺は2人の叫びを無視して森の上を一直線で進んでいく。

そして街も飛んでいったのだがオースターさんとアーニャさんの叫び声がかなり大きく後にネットで『突如聞こえる金切声、その正体は!?』と話題になるのだがそれはまた別の話。

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