オッケー理解。………わかりたくなかったなー………

「………ここにおらせられるお嬢様………オースター様は………………………命を狙われています」


アーニャさんの口から出た言葉は衝撃の一言だった。

命を狙われている。

誰がだ?

そんなの決まってる。

アーニャさんの横で俯いているオースターさんだ。

アーニャさんは一体何をしたんだ?


「ど、どうして?」


「それは……」


「私が悪いんです!私が……!」


「いえ!お嬢様は悪くありません!あれは明らかにおかしかったです!お嬢様に非はありません!」


オースターさんが俯きながら声を上げる。

でも、アーニャさんはそれを遮って反論する。

どうやらオースターさんが命を狙われるような事をしたというわけではなくなにか特別な理由がありそうだ。


「………なにがあったんだ………?」


「……それは……」


俺の言葉にアーニャさんが言い淀む。

ふむ………やっぱり言いづらいのか。

なら仕方ないな。

まあ、絶対に聞かなければいけないってわけではないし今は良いだろう。

これ以上聞いても意味が無いだろう。

……だがしかし、このままでは帰れんよなぁ………命を狙われてるって聞いちゃったし………

失礼だけど聞いた事のない国だけど王女様がこの日本でも命を狙われてるって言っているんだからな………

てか日本でそんなことあるのか?

………あるんだろうなぁ………こうして実例のある子が目の前にいるんだから。

俺は腕を組んで考え込む。

この現実社会、最近こんなファンタジーな事ばっかりで忘れかけてしまうがここは元はモンスターなんか一切いなかったんだ。

彼女達が繋がりの薄くなっているこのダンジョンにどうやってゴブリン達が彼女達を連れてきたのかはわからない。


「……わかった。やっぱりまだ言えないみたいだからとりあえずここから出よう。またゴブリンが現れないとも限らないしな」


「はい……」


「申し訳ございません……」


2人共さっきよりも暗い表情をしている。

原因は多分約束したのに話せなかったことを申し訳なく思ってるんだろうな。

気にしないで欲しいんだけどな。


「大丈夫だよ。じゃあ出口に向かおう。入ってきた入口からダンジョンの外に出れるはずだ」


「………え?」


「………カミヤマ様………今、なんとおっしゃいましたか?」


俺がそう言うと2人がポカンとした顔になる。

ん?何か変なこと言ったかな?


「入り口から出ていくんだよ。あの入口以外他に出入り口はないだろ?」


「お、おっしゃっていることは分かるのですが……」


「カ、カミヤマ様。い、今、ダンジョンとおっしゃりましたか?」


ん?

言ってたと思うけど違うのかな?

まあいいか。

それよりも早くここを出てオースターさん達の安全を確保しないとな。

じゃないと話すにしても色々心配だし。

それにここにいる限り危ないしな。

だからまずはこのダンジョンから出なきゃな。

まあ、とりあえずなにか顔をひきつらせている2人の疑問に答えるとしよう。


「ああ、確かにダンジョンと言ったけど。それがどうかした?」


俺がそう言うと俺から離れて2人で近寄って俺に聞こえない程度の声で話し始める。


「ねえ、アーニャ、私がおかしいのかな?ダンジョンってあんなに軽く言えるような物だったかしら?」

「いいえ、お嬢様は間違っていません。おかしいのはカミヤマ様です」


う~ん。

さすがにこっからじゃ聞こえないなぁ。


「お~い。2人共どうしたの?」


「そうよねダンジョンは……いえ!なんでもありません!」


「そ、その……あっ!カミヤマ様はニホンというところからいらっしゃったのですね!?」


……あれ?

なんか雑に話逸らされてないか?

気のせいだろうか?

まあ別にいいけどさ。


「ああ、そうだよ」


「やはりですか……ニホンというのはどのようなところなのですか?」


今度はオースターさんが興味津々といった様子で聞いてくる。うーんどう説明したものか……


「知ってるかもしれないけど日本ってところを表すのなら京都とかの和の街並みだろうね」


まあ、他の国になくて日本にあるといったらこれかな?


「ワの街並みですか?」


これにはオースターさんが反応する。


「まあ、そうだな。あと、食べ物なら寿司や天ぷらが有名だな」


「スシやテンプラですか………」


こっちにはアーニャさんが反応する。


「他にも色々あるけど今パッと思いつくのはこれくらいだな」


「色々な物があるんですね!聞いた事の無いようなものばかりです!ね、アーニャ」


「ええ、そうですね。聞いた事の無いようなものばかりでとても気になりますね」


へ~ここにいるってことは日本に来日してるはずだから知ってると思ったんだけどな。


「まあ、いつか機会があれば行ってみると良いよ」


まあ、行けるかわからないけどな。

でも、行ったら絶対楽しいだろうな。


「はい、是非ともそうさせていただきたいと思います」


オースターさんが笑顔で返事をする。

うん。

やっぱり女の子の笑顔は良いものだ。


「ところでアーニャさん」


「はい。なんでしょうか」


「俺たちは出口に向かって歩いちゃってるわけだけど大丈夫なのかな?」


「はい。問題無いと思われます」


俺の質問に即答してくれる。

さっきまであんなに驚いていたのに切り替え早いなぁ。


「それは良かった。それでさっきの話に戻るけど本当に入ってきた入口から出ていくのか?」


「………それはどういうことでしょうか?」


「いや、このまま外に出たら「あっ!アーニャ!カミヤマ様!出口が見えてきましたよ!」っと………」


「出口?」


俺の言葉はオースターさんに遮られてしまった。


「はい!もうすぐ外に出れますよ!ほら!」


そう言って出口の方を指差す。

すると、そこには確かに俺が入ってきた入口が見える。


「本当だな。よしそれじゃあ外に出るか」


「………ええ。分かりました」


そしてその出口に向かっているオースターさんを追うためにアーニャさんに背を向け歩き出す。

俺とアーニャさんは出口へと向かって歩き出す。


「カミヤマ様」


「ん?」


後ろを振り返ると少し悲しそうな表情をしたアーニャさんがいた。


「すみません。またお話しします」


「分かったよ。待ってるからな」


俺はそれだけ言って前を向いて再び出口を目指して歩く。

しかしなんでこの2人がダンジョンにいるんだろう。

もしかすると俺が知らないだけで何か重大な事件でもあったのかもしれないな。

そんなことを考えながら出口に向かった。

そしてダンジョンの出口まで近づくとオースターさんが出口の前で立ち止まっていた。


「オースターさん、どうした?出ないのか?」


俺が声をかけるとオースターさんはこちらを振り向く。


「カミヤマ様。………あの………出口はどちらでしょうか?」


オースターさんが指差しているのは全く同じ大きさ、形の2つの出口。

………そうだったなぜか分からないけど俺が入ってきた時と同じ入口があるって認識したし、その後も入れないってしっかり確認してたじゃん………

すっかり忘れてた。


「ごめん!完全に忘れてた!」


オースターさんの前に出て俺から見て左側の出口の前に立つ。

つまり入ってくるときは俺から見て右側から、出る時は左側に入るってことだ。


「こっちだよ」


「そちらでしたか。ありがとうございます」


そう言って俺は先にダンジョンから出るために出口に足を進ませる。


「アーニャさん、オースターさん、俺の後に続いてくれ」


「かしこまりました」


「わかりました」


2人は返事をして俺の後ろに続くように歩いてくる。

よしこれでやっと帰れるな。

しかし、オースターさんはなにがあったんだろう?

まあ、後で聞けばいいか。

今は疲れてるし、命を狙われてるっていうオースターさんを守るための策を考えるためにも早く帰らないとな。

とりあえずダンジョンの外にオースターさんを狙っている刺客がいるかもしれないから俺から先に出る。

出口をくぐるとそこは俺が早朝ダンジョンに入る前の光景そのままだった。

ただ、1つ違う点があるとしたら夕日でオレンジ色に染まった空だった。

思ってたより長い間ダンジョンに籠っていたんだな。

多分大部屋のゴブリン無双で結構時間が経っていたんだろう。

そして【気配感知】を使って辺りに人の気配がないか探る。

………うん、大丈夫そうだな。

とりあえず人の気配はない。

まあ、安全は確認できたからとにかくまずはオースターさんたちを外に出さないとな。

そう思い振り返るとそこには誰もいなかった。

あれ?

おかしいな?

まだ出てこないのかな?

その後もしばらく待ったがオースターさんもアーニャ出てこない。


「うーん?」


もしかしてだけどダンジョンから外に出るのが怖いから出てこないなんてことないよな?

………いや、待てよ。

オースターさんは命を狙われてるわけなんだからそれを警戒して出てこないってことがあるよな。

………仕方ないか。

安全は確認した事を2人に伝えに行くか。

俺は出てきた出口からまたダンジョンに入る。

ダンジョンに入ると、もちろんそこはまたダンジョンの中でオースターさんとアーニャさんは息を荒げながら立っていた。


「オースターさん、アーニャさん、でないんですか?外に出ても問題無いですよ?」


だけど2人共俺の言葉に反応せずただ困惑しているだけだった。そしてアーニャさんが口を開く。

その顔には焦りが浮かんでいた。


「カミヤマ様!大変です!」


困惑した表情のままアーニャさんが声を上げる。


「ど、どうした?」


「わ、わたしたち、その出口を通ることができないのです!」


「………え?」


「カミヤマ様が出ていった出口をわたし達も通ろうとしたのですが通ることができず………」


「そ、そんな事は無いだろ?だってこの出口から俺は出入りしてただろ?」


「本当なのです!何度試してもその出口から出る事ができないんです!」


アーニャさんの必死の形相を見て嘘じゃないことを察する。

オースターさんもアーニャさんの言葉に肯定して全力で首を縦にブンブン振っている。


「ほ、ほんとうに?」


「はい。全く出ることが出来ませんでした……」


どう言うことだ?

まさか本当に俺が出たところからは出られない?

………待てよ?

今までの認識の齟齬に加えてこの状況、それに管理者さんのあの言葉………俺の想像通りならとんでもないことなのだが………正直当たってないでほしい。

だけどこれしか思いつかないんだよな………

試してみるしかないか。


「オースターさん、アーニャさん」


「はい?」


「なんでしょうか?」


オースターさんとアーニャさんは俺の真剣な様子を感じ取ったのか俺の顔を見つめてくる。

そんな2人に俺は手を差し出す。


「俺の手を握ってくれないか?」



「手をですか?」


「ああ、頼む」


「かしこまりました」


「わかりました」


2人は俺の差し出した手にそれぞれの手を重ねる。


「今からこの状態で出口を通る。俺の予想が正しかったらこれで出口を通れるようになるはずだ」


「手を握ればこのダンジョンから出れるのですか?」


「ああ。俺の予想が正しかったら俺が出入りしていた出口を通れるはずだ」


「…わかりました、信じますわ。カミヤマ様が嘘を言うはずないでしょうし。アーニャ、あなたも」


「わかりました」


「ありがとう」


2人が俺の手を握り返すのを確認してから俺は出口に向かって歩き始める。

そして……出口を二人と一緒に通る。

すると……


「おぉ!?」


「まぁ!」


「で、出れましたね」


3人とも無事にダンジョンの外に出ることが出来た。

これで間違いなかったようだ。

俺達はダンジョンから無事脱出することに成功した。

ダンジョンから出れたことで手を取り合って喜んでいる2人を横目に俺はある確信を得る。

さっきまで出口を通れないと言っていたのに俺が手を握っていたら2人は通ることができた。

もう目の前の事実から目を背けるのは辞めようしっかり現実に向き合うんだ。

管理者さんのいう事を信じるのだったら………

彼女たちは………ゴブリン達と同じ世界から来た――――――




異世界人だ。

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