貴女は誰?

なぜここに人がいるのかいるのかわからない。

ここは普通の人が見つけられるようにはなっていないしこんないかにも高貴な人ですよ~みたいな人が来れるような場所になっていない。

たとえそれがゴブリン達に連れてこられていたとしても俺の世界にはこのダンジョンからはゴブリン達は出れないから普通はあり得ない。

しかし、現に目の前にいる。

俺は混乱していた。


「ムー!」


すると金髪碧眼の少女は俺に向かって唸っている。

猿轡を外して欲しいってことなのだろうか?

まあ、拒否する理由もないし普通に外してあげる。

ついでに手と足を縛っている縄も外してあげる。

銀髪の少女に関しては気を失っているらしかったから触っていいものか分からなかったがとりあえず外してあげる。

だからこれは仕方のないことなのだよワトソンくん。

一応息なども確認してみたが息はしてたし怪我もなさそうだから命に別状はなさそうだ。


「ぷはぁ!ありがとうございますわ!」


金髪の少女の口に噛まされていた猿轡を外してあげるといきなりお礼を言われた。

なんなんだ一体……


「えっと……君は?」


「申し遅れました。私の名前はエスカリア・ウタリア・オースターです。ゴブリン達から助けていただきありがとうございます」


金髪の少女はボロボロの緑色のドレスの裾を持って上品にお辞儀してくれた。


「あ、どうもご丁寧に。俺は神山 空と言います。よろしく」


俺は軽くお辞儀をして自己紹介をする。

しかし、この子本当に貴族みたいだな。

立ち振舞いや喋り方が俺みたいな一般市民とは全く違うぞ。


「カミヤマソラ様?変わったお名前ですね……」


「?………ああ、なるほど。違いますよ。神山が名字で空が名前です」


そうだよな。

明らかに日本人って感じじゃないもんな。

………あれ?

そうだとしたらなんで言葉が通じてるんだ?


「………そうなのですか?」


「うん。一応そうだよ」


そう言うと彼女は少し考え込むように黙ってしまった。


「あのー」


「あ、すいません。私はウタリア王国の第一王女なのですが、名字があるということはあなたはどこかの貴族の方でしょうか?」


「ああ、いやいやそんな上等な身分じゃ………うん?」


なーにか今とんでもない、聞き逃せない言葉が聞こえてきたような………


「え?」


「はい?」


「……第一王女?」


「はい」


「…………マジで?」


「はい」


「………………」


「…………」


「……………………はあぁぁぁぁああっ!?」


「ぴゃあっ!?」


俺は驚きのあまり叫んでしまった。

それを聞いた彼女はビクッとして驚いていた。

俺はそんな彼女を気にせず考える。


「……えぇ……まじか……本物なのか……?」


「……えっと…はい。正真正銘本物の第一王女ですよ」


「……」


俺は彼女の言葉を聞いて思考を巡らす。

普通はあり得ない。

ダンジョンに入るための入口は確実に日本にある。

俺が入ってきたからそこは確実だ。

だが、日本には王族なんて存在しない。

それに彼女が言った国は俺がバカで知らないだけかもしれないが。

それに彼女の言う国が存在していたとしても王族が日本に来日しているなんて

だからありえないのだ。

なら考えられる可能性はただ一つ。

彼女が嘘をついているということだ。

だが、彼女の様子を見ていると嘘とは思えない。

それに何故そんなことをする必要がある?

そんなの俺じゃなくても不審にしか思わない。

彼女にとって得は一切無いはずだ。

もし仮に俺を騙すために言っているとしたら大した演技力だと思う。

それほどまでに自然体で彼女には嘘は見当たらないなのだから。

しかし、その割には随分あっさり自分が第一王女であることをばらしているし、さっきも俺のことを様付けして呼んでいたし、そもそも俺にはこんな所に来る理由が無い。

それに俺を貴族と勘違いしているしな。

となるとやっぱり彼女は本当に第一王女だと思うのだが…… しかし、やはりあり得ないのだ。

俺はもう一度思考を張り巡らせる。……ダメだ。

全く答えに辿り着かない。


「あのぉ〜」


「うおっ!……って何?」


「いえ、ずっと難しい顔をして黙っていたのでどうされたのかと思いまして……」


「あぁ、ちょっとね……ってそれより君って本当に第一王女なの?」


「はい。そうですよ」


彼女は首を傾げて答える。

その仕草はとても可愛らしくてつい見惚れてしまうほどだった。

俺は頭を振って何とか理性を保つことができた。

しかし、この子が本当に第一王女だとするとますます分からないことがある。


「えっと………あの、君はなんでこんな所に居るのかな?」


「はい?」


「いやだって、普通に考えておかしいじゃん。王女様が護衛も無しに一緒にいるのはメイドだけとか」


「………それは………」


彼女は言い淀んで下を向いてしまう。

……まずったか? なんか地雷踏んだっぽいな。

でも、これは聞いとかないと後々面倒なことが起きそうなんだよな。

だからどうしても聞いておきたい。

しかし、また彼女は俯いて何も言わない。


「あー……ごめん。無理に聞くつもりは無いんだ。言いたくないことは誰にでもあるだろうし」


「……いえ、言います。ただ、お願いです。彼女ーーーアーニャが目覚めてから話をさせてください。お願いします」


彼女は深々と頭を下げた。

そこまですると言うことはそれほど重要な事なのだろうか? まあ、確かに男相手に女の子が一人、しかも王女がダンジョンでなにか話しにくい話をするんだ見知っていた人がいた方が良いだろう。


「分かった。約束するよ」


「ありがとうございます!」


そう言って彼女は顔を上げて笑顔を浮かべる。

だけどどうしようか………

ここにいたらまたゴブリンが来るかもしれないしな………


「えっと……じゃあ入口まで移動しない?」


こうして俺は彼女とアーニャさんが起きるまで少しの間、俺が彼女を背負って入口まで彼女の前にを歩くことになった。

背中にボロボロの服で分からなかったが中々ご立派な物が感じられる。

うん。

役得役得。


「ん……あれ……ここは………」


「アーニャ!目が覚めたのね!」


しばらく歩いていると背中から声が聞こえてきた。

俺はすぐに振り返るとそこには目を覚ました銀髪の少女―――アーニャさんの顔を覗いているオースターさんがいた。


「目は覚めたかな」


「えっと……あなたは……それに私は一体何を……」


彼女は辺りを見渡して状況を理解しようとしているようだった。


「きゃっ!な、なにを!?お、下ろしてください!」


そして自分の置かれている状況を理解したのか急に暴れ出した。


「ちょっ!下ろす!下ろすからちょっと待って!」


俺はそんな彼女をゆっくりと下ろす。

俺の背中から降ろされたアーニャさんは距離を取って俺を睨んでいたが、近づいていったオースターさんに説明されたのか俺を睨んでいた目が段々穏やかになっていっていた。


「それで?状況は把握できたかな?」


「はい……先ほどは失礼しました」


彼女は俺に向かって頭を下げる。


「気にして無いから大丈夫だよ。えっと………」


「それでも助けてもらったことに違いありませんので……それと私の名前はアーニリカと申します。アーニャと呼んでください」


「了解。俺の名前は神山空だ。よろしく。ちなみに、神山が名字だ」


「カミヤマ……ソラ様ですね。どこかの国の貴族なのでしょうか?」


「いやいや、さっきオースターさんにも言ったけどそんな上等な身分じゃないから」


「………そう、なのですか………」


俺がそう言うと彼女は納得してはなさそうだがとりあえずは飲み込んでくれた。

そして彼女はそう言うと俺にもう一度頭を下げた。


「それでは改めまして。カミヤマ様。この度はお嬢様共々命を助けていただき誠に感謝致します」


随分礼儀正しい子だな。

俺と同い年ぐらいだと思うんだけどな。


「いえいえ、当然のことをしただけですので」


「ふふ、そういう謙虚さはとても好感を持てますね」


「そ、そうですか?」


「ええ。私もそう思いますわ」


彼女達は笑顔で答えてくれる。

なんか褒められなれてないから照れるな。


「カミヤマ様はどこから来たんですか?」


「あー………その前に君達の事を教えてくれないかな?オースターさんにアーニャさんが起きたら詳しく話を聞くことになってたんだけど………」


「………お嬢様………それは本当ですか?」


「ええ。私が彼にお願いしました」


「………分かりました。全てお話しましょう」


アーニャさんはオースターさんの言葉を聞いて真剣な表情になった。

どうやら本当に話してくれるらしい。

まあ、元々話してくれるなら聞くつもりだったし、話してくれないなら無理矢理聞き出すつもりもなかったから言ってくれる分には全然いい。


「………ここにおらせられるお嬢様………オースター様は………………………命を狙われています」


…………………………面倒事な予感がするなぁ………

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